「ふぅ……流石に長時間の仮想空間は精神的にも肉体的にも疲れるな」
俺は現実空間に戻った後、備え付けられているソファーに横たわり一旦身体を落ち着けていた
先程までずっと仮想空間に居たとはいえ現実空間での俺はずっと動いてはいない。
ただこの『デュエルフィールド』の唯一の欠点と言うかなんというか……仮想空間にいる間ずっと現実の肉体は立ちっぱなしだから単純に長時間やってると身体が疲れるんだよな
特に今回は1日中ずっと『デュエルフィールド』の中に居た為に既に脚がパンパンになっている
一応制服側や『デュエルフィールド』側にもその負担を軽減する為のサポート機能はあるのだが流石に限界があった
しばらく身体を休めていると入り口のドアをノックする音が聞こえてくる
俺は最低限身なりを整えてソファーに座り込む
「どうぞ」
「失礼するよ……あぁ、やっぱり長時間のデュエルは負担が大きいか大丈夫かい?
もう少し後にした方が良さそうかい?」
「いえ、大丈夫ですよ
それに話をしている方がいくらか気も紛れますから」
部屋に入ってきたのはここの職員と思われる白衣を着た男だった
「まずは自己紹介からかな、僕はここの研究員の一人で『松本 モトム』と言う。」
「『浅麦 誠』です、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく。
早速で悪いんだが本題に入らせてもらっても良いかな?
まどろっこしい話は嫌いでね」
「えぇ、大丈夫ですよ」
「ありがとう、助かるよ。
さて、まずは争奪戦優勝おめでとう。
元々君は我々研究者組の中でも有名な方だったがまさか優勝するとまでは思っていなかったよ。
これが今回の景品であるユニークレアカードだ。」
「ありがとうございます」
俺はカードを受け取って本物なのを確認した後にカードケースに大事に収納する
すると俺の制服の胸ポケットから光が放たれる
どうやらブランクカードに何か変化があったようだ
「これは……?」
俺はブランクカードを取り出すとまた絵柄が更に変化しており、効果などが書かれているはずのスペースには『進むべき道は記された』と書かれている
「ふむ、どうやらそのブランクカードは自らが成長する方向性を完全に確定させたようだね。
恐らくそう遠くないうちにデュエルで使えるようになるだろう」
成長する方向性か……少し楽しみになってきたな
「さて、今回私がわざわざ来た理由なのだがね。
今回の『争奪戦』……というかこの施設自体が我々研究者の為に用意された施設のうちの一つでね、時折こういう大規模な大会を開いてはデータを収集させてもらっているんだ。
特に君からはとても面白いデータが得られた」
研究施設……!ってことはこの景品自体が餌ってわけか
「まずは単刀直入にいわせてもらうけど我々のデータ収集に協力してくれないだろうか?
案外ユニークレアなんかはのデータは収集しにくくてね。
こうやってユニークレアを複数枚持っている生徒にはデータ収集の手伝いをお願いしているんだ」
「データ収集ですか?」
「あぁ、と言ってもやること自体は割と単純さ、普段授業で使ってるタブレット端末にデータ収集用のプログラムを入れとくからその状態で普通にデュエルしてほしい。
もちろん君の担任の許可は貰うから安心してくれて良い」
ふむ、少なくとも何か裏があるという感じではないな
俺としてはその収集したデータが何に使われるのかが気になる
「収集済みのデータは何の研究で使うんですか?」
「あぁ、実は最近の研究でユニークレアのカードはどれも例外無くデュエル世界との強いつながりがあることが判明していてね。
特にデュエル時にその繋がりはより強くなることも確認されている、だから我々は『デュエルフィールド』を介して情報の解析をしていたんだが流石に筐体側だけでは調べられるデータに限界があったんだ」
なる程な、それで新しい手段として専用のデータを入力したタブレットを接続して外部から別のアプローチをする訳か
「先程景品として渡したそのユニークレアは我々が調べた中でもデュエル世界とかなり強い繋がりを観測したカードです。
もしかしたら使い続けていれば何かあるかもしれませんよ」
《簒奪者・アーマゲドン》……相手の能力を奪うユニークレア……
俺は今までに調べた中でも印象的だった特殊な上級職とその人が使っていたユニークレアのカードを思い出す
特殊な上級職になっている人物は誰一人の例外もなくユニークレア持ちだった、そしてそのユニークレアの性能も奇跡的なくらいその職業との相性は抜群に良い物ばかりだ
普通に考えればこの時点でおかしい
いくらユニークレアと言っても相性というものがある。
特殊な上級職になったからといってそれが全部が全部ユニークレアと相性抜群なんてのは普通あり得ないのだ
だがもしその因果関係が逆なのだとしたら……ユニークレアのカードに職業が引っ張られているのだとしたら?
この手の職業は転職した本人以外がなったという事例は見つかっていない。
だがその条件がユニークレアのカードなのだとしたらそれも納得がいく
だがこれは恐らくだが言わないほうが良いだろう。
下手に知られれば余計にユニークレアを持っている人達の立場が危なくなる
これはちょっと誰にも言えないな
「分かりました。
データ収集の件、お受けします」
「おお、それはありがたい。
それじゃ早速ダウンロード用のデータを用意するから少し待っててくれ」
そう言って松本さんは懐から端末を取り出して操作していく
それにしても《簒奪者・アーマゲドン》……簒奪者ねぇ
相手から奪っていく事がメインになるのか……?
何故だろう、俺にはその方向性が何か少し違う気がする
何だこの違和感……考え自体は間違っていないと妙な確信はあるのに俺に対してだけ心の奥底で何かが違うと感じている
この世界特有の不思議な現象にはそれなりに慣れてるつもりだがこんな例は初めてだな……
「よし、準備完了だ、タブレット端末を出してくれ」
「どうぞ」
俺は松本さんにタブレット端末を渡すと彼は端末からコードを引き出して俺のタブレット端末に繋ぎ、データをインストールする
「よし完了、我々の事情に付き合わせてしまって悪いね」
「いえ、結局俺がやる事は無いようなものですし」
結局の所は情報収集といってもいつも通りデュエルして日常を過ごせば良いだけだ
「あ、そうそう。
僕の連絡先も登録しておいたから今後何か進展があれば連絡させてもらうよ」
「ありがとうございます。
……そうだ、一度研究とかやってる人に聞いてみたいことがあったんです。」
「何かな?」
「…………デュエル世界って人間とかの行き来って可能なんですか?」
俺がこの世界に生まれた時からずっと思っていた疑問。
それは明らかなほどに前世と全く違いすぎる速さの科学の発展速度だ
前世での日本がバブル経済を起こしていた時には既に現代と同レベルの技術水準を誇っており、少なく見積もってもこの世界の科学の発展スピードは50年以上は速い
そして一定の周期で発生する技術的な革命……これは明らかに意図的にしか見えなかった
そうなるとこの技術革命を定期的に行っている何者かがいるはずだ
この世界は歴史の流れそのものは戦いがカードであること以外はほぼほぼ現代と一致している、それならば何者かの介入がなければここまでの技術力だけの変化はあり得ないのだ
「ふむ……結論から言うとすればそうだね。
可能かどうかで言えば一応可能だ」
「一応……ですか?」
「あぁ、デュエル世界とは数多の世界の集まりだ。
向こう側からは我々との技術力の差なんかもあって一部の世界に限りこちらへはそこまで制限無しに来れる。
だが我々の方は技術がまだそのレベルには追いつけて無くてね。
せいぜい一番近い世界群を観測してそこに穴を開けるくらいでね。
まだ人が通れるレベルの穴は作り出せていないんだ」
やっぱり向こう側からは可能なのか……
「……この世界には向こう側から来ている人はどれだけいると思いますか?」
「そうだね、僕としては少なくとも怪しいと思っている人物を何人か知っている……だが恐らくそう多くはないだろう。」
「なぜです?」
「そう難しい理由じゃない、世界の壁を破るには相応の凄まじいエネルギーが必要になる。
人が通れる程となると開かれた近辺に大きな影響が出てくる。
例えば天候が大きく荒れたりとか地震とかね。
過去に起きた例を調べた限り妙なタイミングで起きたその手の現象が何件か出てきた。
少なくとも確実にこの世界に迷い込んだ人物は存在するだろうね」
……現状一方通行か、そうなるともしかしたらこの世界の技術力を伸ばしている人物の目的は自分の世界への帰還か?
いや、一概に決めつけるのも良くないな
「さて、私はこれから今回のデータ解析に勤しまねばならないからここで失礼するよ。
それと君の事を待っているお友達が今入り口の方に居るそうだから早く行ってあげなさい」
久慈川さんか、先に行ってくれても良かったんだが……わざわざ待っててくれたのか
「分かりました、色々とありがとうございます」
俺はすぐに荷物を纏めて部屋を後にしていった