俺は会場の入り口の方へと向かうと久慈川さんがタブレット端末を操作して何かを見ながら待っているのが見えた
するとすぐに俺に気付いたのか笑みを浮かべながら俺に手を振ってくる
「あっ!浅麦君!もうお話は良いんですか?」
「あぁ、久慈川さんもわざわざ待っててくれてありがとう」
「いえいえ、それに私も浅麦君が貰ったカードがどんなものなのか凄く気になってましたから」
ああ……正直このカード久慈川さんに対しては完全なメタにしかならないから若干見せるのに不安があるんだよなぁ
「あー、その……先に謝っとく。」
「へ?どういうことですか?」
俺は無言になってカードを久慈川さんに手渡す。
「えーっと?《簒奪者・アーマゲドン》、コストの割に素の性能は凄く低いですね、能力は……!?」
久慈川さんの顔がみるみるうちに青ざめていく。
俺が久慈川さん相手にこれを使えばどうなるかがよくわかったらしい
「これ……どう足掻いても私詰みません?」
「普通に勝率0までいけるだろうな……」
「そ……そんな……」
久慈川さんが絶望したような表情になっている
うん、まぁこればっかりは仕方ないよな……リカバリー方法が無い……いや、完全に無いわけじゃないが多分久慈川さん的にはアウトな方法かこれ?
俺が思い付いたのはあえて能力を奪われたユニットを殺してから復活系のカードで蘇生させる事による効果の復活だ。
だが久慈川さんは基本的に相手を攻撃するのはプレイスタイルの問題で出来ないうえに出来る限り攻撃を受けさせたくないとも言っていたのでこんな方法は恐らく却下されるだろうな
「うーん、やっぱり今のままじゃ勝ち続けるのはむずかしそうですよね……」
「久慈川さんの場合はプレイスタイルの問題があるからな……」
「うう、すみません……」
「いやいや、謝らなくて大丈夫だ」
こればかりはどうしょうもないからな
こうなってくると久慈川さんは悩んだ様子を浮かべながら俺にカードを返してくれた
あとで整理整頓しておかないとだなぁ……今まで集めたカードの中でも被りすぎたりしているものは一纏めにしていたりする
個々最近新しいデッキをよく作っていた為に一部カードはあんまり余裕のないので他のデッキを崩したりとかする必要がありそうなのだ
「とりあえず一旦帰ろうか」
「ひゃい……」
久慈川さん……中々引きずる方だな
俺達は帰り道の途中でこのギガフロートに設置されている数少ないカードショップのうちの一つを見かけて一度寄り道をしていた
なんか二人でカードショップに寄り道すると言うのがこの世界においてデートに当てはまってしまっているのか久慈川さんの顔が若干赤い気がするが気の所為……じゃなさそうだな、後で謝っておかないと
「正直この閉鎖的なギガフロートのカードショップだからそんなに品数には期待していなかったんだが……想像の数倍は凄いなこれ」
「ほ、ホントですね……今までこんな所にあるなんて全く気付きませんでした……ううっ」
さっきからチラチラ見られてるがここは悪いがあえて気付かずになんでもない風を装っておこう……
「僧侶は……向こうだな。
盗賊は……あぁ、あったあった。」
俺達二人はカードパック等よりも先に一度中古品……つまり誰かしらが売りに出したカードから見て回る事にした
実際見て回ってみるとこれが意外なことに思った以上に盗賊のエリアも広くスペースが取られており、結構じっくりと見て回れそうな感じだった
「それにしても僧侶のカードコーナー見て回らなくてよかったのか?」
「後で見てくるつもりですよ?
でもやっぱり盗賊コーナーってどんな風になってるのか少し気になってしまいまして」
あぁ、まぁ実際カードショップで盗賊のコーナーがあるパターンって相当少なく、余程の物好きが店長でないと外聞の問題もあるためにそもそもコーナーすら無いなんてことは全く珍しくもなかった
「話には聞いていましたけどホントにどのカードも捨て値なんですね……」
「おかげで俺はカードの補充が捗るんだけどな。
お?これなんか結構良さそうだな。」
俺が手に取ったカードは結構レアリティ高めのカードである《盗賊団の首魁》。
コストは7と少し重めだが盗んだ枚数に応じて能力を強化することの出来る強力なユニットだ
「え?これがこの値段ですか!?普通ならこのレアリティのカードって10万円単位の値段が付いてもおかしくなかったんじゃ無かったんじゃ!?」
「盗賊のカードってだけでここまでの捨て値なんだよな……ありがたいから2枚買うけど」
ちなみにお値段は驚異の1枚1000円である
異常な安さだ
「本当にどれも安いんですね……」
「別のカードショップもこんなもんだぞ。
取り扱ってない場所は外聞が悪いから表に出してないだけで倉庫の肥やしにしてるってパターンもあったりするけど」
俺がデッキをいくつも作れる最大の理由がこれになる。
俺は他の人よりも必須カードを単純に揃えやすい環境にいる為に単純にカードのストック自体が多いのだ
まぁもう既に持ってるカードも一緒に買うことが多いからどうしても貯まるってのもあるんだけどな……倉庫の肥やしにしてるタイプの場合カードを選んで持っていくと言うより基本がまとめ買いになるし。
たまに足元を見て吹っかけてくるような奴もいるからそういう奴との取引はしてないけどな
「……あれ?このカードの効果今まで見たことありませんね」
「ん?そのカードは……」
久慈川さんが見つけたのはランタン王ジャックのような系統のカード群、『いたずら系統』のカードだった
あまり見かけないカードなのもあってこれでデッキを作れるほどの枚数はまだ無かったんだが……へぇぇえ?
「あ、浅麦君……気付いてないかもしれませんけど今すっっっごく悪い顔してますよ!?」
自覚はしているがこればかりはニヤつきを止められない
ここのカードショップのラインナップを見る限りはデッキを作れるレベルには一通り揃っている
そして俺は久慈川さんが見つけたカードの効果にニヤつきを止められなかった
俺はショーケースに売ってあるカードの中から40枚程を購入し今回デッキを入れていないデッキケース2つに入れて持ち帰ることにした
その後俺だけに付き合わせるのもどうかと思ったので久慈川さんと一緒に僧侶の辺りのコーナーを見て回り、彼女が気にしていたが値段の問題で買えなかったカードを何枚か買ってプレゼントした
彼女は最初は凄く申し訳なさそうに遠慮していたが既に買ってしまっている上に俺には使い道がない事を伝えると少し膨れながら渋々受け取った
「浅麦君はずるいです……それじゃ断れないじゃないですか……」
「あはは、悪かったって」
何故だろう、彼女の仕草って所々が小動物っぽく見える時があるんだよなぁ……
今もフンスフンスとでも言いそうな感じで怒っているが正直俺としてはウサギが怒っているようにしか見えなかった
バカ正直に伝えればまた拗れそうだから言わないけど
「それじゃそろそろ帰るか」
「あ、そうだね。
もうこんな時間だし……門限大丈夫かな?」
「先に寮長に伝えてあるからそっちは大丈夫。」
「相変わらず浅麦君って用意周到だよね……」
まぁ話がどれだけ長くなるか分からなかったからな
そんなに時間は取らないと言っても保険をかけておくに越したことはない
俺達はその後しばらく今日の争奪戦での出来事について話しながら帰っていくことになった
「え?浅麦君そんな所に居たんですか!?」
「むしろ俺としては久慈川さんが一切隠れていなかった事に驚きを隠せないよ……」
一切隠れていないということはつまりデュエル後も周囲で隠れているであろう他の生徒に見つかるということであり、それは一切の休み無くずっと連戦していた可能性がある事を示している
よく体力が持ったな……特に彼女のデッキはかなりの忍耐力が必要だし余計に精神的に疲れると思うんだが……
「それにしても浅麦君の今回のデッキ……かなりえげつない構成ですね……デッキから盗み続けてカード切れ狙いつつ《強欲のトリックスター・アルセーヌ=グリード》で一気に削るのを狙ってる上に手札に圧をかける《いたずらの化身・ランタン王ジャック》、ダメ押しとばかりに《文明の破壊神・ロストディザスター》の終盤での連続召喚……」
「流石に久慈川さん相手だと下手したら特殊勝利のが先にされる可能性もあるからロストディザスターを出すだけの条件を揃えられるかが勝負だろうけどな」
問題は久慈川さんのデッキの場合俺側のカードを殴ってくることがない為に死亡カウント数が物凄く稼ぎづらいことだ。
俺のデッキは打点自体は条件を揃えないとかなり低い状態になる
久慈川さん相手だと下手なユニットを出してしまえばユニットを処理されずに残されてこちら側の盤面が圧迫される場合がある為にかなり難しい対面になるんだよなあ……
今回は完全なメタカードを手に入れたがこれ無しでもある程度安定して勝てるようにならないと少し厳しそうだな……