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第56話 面倒事の予感


俺は寮の自室へと戻った後、カードショップで購入してきたカードを使って早速デッキを作っていた


今回多く手に入った《いたずら系》のカードは特徴としてはあまり一致した効果を持たないことにある


カードそれぞれで効果が大きく違っており、全く同じ能力が珍しく1枚も無かった


ただそのかわりにこの系統のカード全ての効果はどれも相手の手札に圧をかけるという一点では高い効果を持っており、このデッキは基本的にはひたすら相手に嫌がらせを仕掛けて下手に手札を出せなくすることがメインの能力となっていた


例えば《いたずらの化身・ランタン王ジャック》のようなコストアップに加えて手札からカードを出す度にランダムにダメージといった効果だけでなく、相手の手札を見た目だけは全く同じとなっている全く別の効果を持ったトラップカードにすり替えたり等の効果を持っている


ただ正直このデッキは手札への圧は凄まじいが欠点として割と運要素が絡んでくる効果が多い


だが上手く刺さった時の利点は凄まじい物がある


俺は若干寝不足にはなったが深夜帯の時間帯になるまでにデッキを完成させて翌日を迎えていった




「ふぁぁぁあああ……」

「だいぶ眠そうですね?」


俺は久慈川さんと共に本校舎へと向かっていたがどうしても寝不足が響いてしまい欠伸をしてしまっていた


「昨日帰った後にデッキ作りにちょっと熱中しちゃってな……結局深夜までかかったんだよ」

「あんまり夜更かししちゃダメですよ?

健康にも悪いですし」

「わかってるよ、ただやっぱり一度気になっちゃうと止まらなくてな……ふわぁぁあ」


寝なきゃ行けないのは分かっては居るんだがなぁ……やっぱりこういうのは中断するよりも最後までやらないと気分が悪いからな


俺は早速組んできたデッキの入ったデッキケースに触れながらその事について考えていた


正直組んでいてとんでもない構築難易度だった……


ただでさえ全てのカードの能力が全く違う能力であり、カード同士お互いにシナジーを発揮させるのがとても難しいのだ


おかげで《いたずら系》のカードだけでデッキを組むのはあまりにもリスクが高かった為に他のカードもそこそこ混ざったデッキになってしまった


とはいえポテンシャル自体はかなり高いと思うし嫌がらせの性能としては十分過ぎるだろう


「あっ、そう言えばなんですけど昨日買ったカードパックからちょっと面白いカードが出てきたんですよね」

「面白いカード?」

「はい、このカードを見てもらっても良いですか?」

「どれどれ……ゲッ」


俺はあまりの能力に思わず顔をしかめる


久慈川さんが出したカードの名前は《破邪の奇跡》、僧侶系のアクションカードでコストは5。

コストはそれなり程度だが効果があまりにもえげつない


カードの効果としては"相手の場にいるあらゆるユニットの能力を《封印》した上で強化された能力を元に戻す"という効果だ


全体封印だけなら実は共通カードの一部にかなり高額ではあるが存在はしている


だがあくまでも《封印》は能力を封じるだけであり、既に強化されている能力まで封じるのとは出来ない


しかもこの効果のヤバい点はもう一つあり、"強化された能力を"という部分にあり、これは弱体化された能力は戻さないということでもある


単に能力を戻すと言うだけなら弱体化された能力値すらもどしてしまうだけでむしろ相手の強化に繋がってしまう場合がある


正直久慈川さんのデッキと尋常じゃなく相性が良いだけじゃなく《隠れ身》なんかを多用する俺との相性最悪のカードだ


「またとんでもない物を……」

「これってそんなにですか?」

「まず全体封印ってだけで俺みたいな能力持ちメインの絡め手中心の奴全員に特攻だよ……」

「そうなんですか!?」


この世界だと《封印》カード自体はそこそこの数はあるのだがあまり人気はない


能力を封じるだけで特に何の能力もないバニラカードには一切の効力を持たないから単純に評価されないのだ


だが俺としてはそもそもバニラカードを採用する理由の方がない為にかなり厄介なカードでしかない


ちょっと俺も本格的に対策練らないとヤバいな……






その後俺達は他愛もない話をしながら本校舎に到着し今日の授業を無事終え、放課後に突入してから荷物を纏めていると校内放送が流れてくる


『1-D浅麦君、1-D浅麦君、至急生徒会室に来てください。

繰り返します……1-D浅麦君、1-D浅麦君、至急生徒会室に来てください』


その瞬間教室にいた全員の視線が俺に向けられる


そのいくつかからは忌々しそうに舌打ちする音が思いっきり漏れてるがここはスルー安定だろうな


俺は教室を後にして生徒会室へと向かうと桜木先輩が若干困ったような顔をしながら出迎えてくれた


「やぁ、昨日はお疲れ様。

君の暴れっぷりは聞いてるよ」

「桜木先輩もお疲れ様です、所でご要件は?」


正直久慈川さんを呼ばずに俺だけってのが少し気になっている


生徒会に入る件であれば昨日の争奪戦で俺達二人は条件をそのままクリアしている為呼ぶとしても久慈川さんがいなければおかしい


なら要件は生徒会入りの件ではなくまた別件のはずだ


「あぁ、君達の生徒会入り……と言いたかったんだがね。

実は先程会議で君に関する面倒事が起きてしまってね……」


俺に関わる面倒事……それも会議となるともうひとつしか無いだろ……


「はぁ……また実力至上主義者関係ですか?」

「君の想像通りさ、君達の生徒会入りを伝えたら実力至上主義者の一部……要は『デュエニュクス』と関わりがありそうな過激派がごねまくってね。

君の実力は教師陣や我々も十分生徒会でやっていけると判断してはいるんだが『あんな卑怯者を生徒会に入れる価値はない』だの『そもそも3年生に勝てたのもまぐれじゃないか』とか騒がれてはこちらも通しにくくてね。」


なんというか教師陣にもやっぱりその手の考えの奴が出始めてるんだな……なんか入学した当初と比べて増えてきてないかこれ?


「3年生に運勝ちしたのは否定しませんよ、あれは普通に戦ってれば負け試合ですから」

「いやいや、ああいう運を手繰り寄せるのもちゃんとした実力のうちさ。

それに君のデッキはギリギリまで運要素を削ったデッキだ。

君の言う運要素は勝敗を分けた小さな要因に過ぎないよ」


桜木先輩はそう言ってはくれるが正直次同じ手で泡瀬先輩と戦ったとしても俺は十中八九負けるのは目に見えている


基本的に俺の立ち回りは初見殺しだから刺さりやすい。

相手に手を読まれない事を大前提とした動きな為に対策されたり一度手を読まれれば物凄く弱くなるのだ


「話を戻そう、とりあえず結論から言って君の生徒会参入は保留になった。

だから我々が君に頼みたいこととしては……」

「要は実力で黙らせろって事でしょ?」

「話が早くて助かるよ。

明日、君のクラスの午後の授業にこちらの都合でエキシビションを捩じ込ませて貰ったからそこでゴネてきた先生が代理として出す選手に勝ってくれ」


また簡単に言ってくれる……とはいえ恐らくだが相手側の生徒はまた実力至上主義者だろう


「せめて相手の生徒の名前くらいは分かります?」

「あぁ、1-Bの『郷田 タケル』だ」

「郷田……あぁ、確か武器を使わないユニット主体の剣士でしたね」

「あぁ、知ってたのかい?」


知ってたも何も俺は一度そいつに喧嘩を売られてデッキ破壊でズタズタにしてやった覚えがある


確か典型的な実力至上主義者でユニットも3ターン目から出してくるような感じでコストが高いユニットを優先して出すようなプレイングだったな


…………ん?これ『いたずら系』デッキ刺さるな


ちょうどいいし実験台にするか


「とりあえずはどうとでもなりそうですね、相手の動きはだいたい覚えてるので鴨れると思います」

「相変わらず恐ろしいね……君は一度手の内を見せて対策されたら弱いとは言うがガチガチに対策するのが君じゃないか……」


むしろ相手の手が分かってるなら対策しない理由が無いからな


「とりあえずこの件が終われば正式に生徒会に2人とも入れられると思うから頑張ってくれ」

「分かりました。」


俺はその後桜木先輩とある程度話をしてから生徒会室を後にする


だがこの時俺は何故だか面倒事に更に巻き込まれる予感がしていた


何も起きなければ良いんだがな……



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