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第64話 今世における神話

放課後、クラスメイト達が次々と去っていった教室で俺は久慈川さんと倉木の二人と合流してどんなデッキになったかの話題で話していた。


「ふぇぇぇえ……採用率の高いカードが軒並み全部使えない状態で組めなんて難しすぎますよ……」

「正直昨日の予習が完全に裏目に出てしまったな……浅麦はどうだった?」

「中々面白いカードを見つけたからそれをベースにデッキを組むだけで済んだよ」

「…………まぁ浅麦君ですしね」

「浅麦だしなぁ……」


その納得のされ方はちょっと不服なんだが?


「意地が悪いのは確かだがこれに関しては予習の仕方の問題もありそうだがな。

せっかく『ライブラリ』への閲覧権限を貰ってるんだから有効活用しないでどうするよ?」

「はう……」

「それを言われると弱いんだよなぁ……」


『ライブラリ』……このデュエル学園が設立されてからずっと更新され続けているカードの情報一覧。


流石にユニークレアなんかの情報までは閲覧権限を貰えていないが世間一般では公表されていないカードや発見されて間もないカード、数百年前の古い代物まで膨大な枚数のカードのデータが登録されている。


この『ライブラリ』は単なる図鑑としての機能だけでなく、カードの使用率やカード効果の絞り込み等様々なデータを確認出来るために今日の授業で出てきた使用率上位のカードの絞り込みから使われていないが有能であるカードの発見にも役立てる事は十分可能な代物だ。


まぁ俺もまだ活用しきれているとは言えないが中々情報の出て来ない盗賊のカードなんかも容易に調べる事が可能な為にかなり重宝している。


「こりゃ寮に帰ったらちょっと復習した方がよさそうだな……そうだ、浅麦に久慈川も一緒にどうだ?」

「あ、それ凄くいいですね!

浅麦君はどうしますか?」


あー、そう来たか。


「悪い、今日はちょっと調べたいことがあってな……しばらく自室から出て来ないと思う」

「そうですか……それは残念です」

「ん?調べ物ならこっちの図書室のが良いんじゃないか?

あそこネットなんかじゃ公表されないような貴重文書が山程あるしPC端末で調べるより良いんじゃないか?」

「確かに図書室の方が詳しい事は知れるんだが大まかな事を調べるのにはあそこは向いてないからな。

とりあえず向こうで調べるのは先に下調べを済ませてからだな」

「「あぁ……」」


あの図書室の悪い所でもあるんだが……書籍の量があまりにも膨大過ぎて何を調べるかピンポイントで指定しないと大量の書籍が検索に引っかかって余計に調べるのに時間がかかってしまうのだ。


まぁこの間盗賊の上級職調べるだけでもめちゃくちゃ苦労したからな……流石にアレの二の舞は勘弁してほしい。


「つか何調べる気なんだ?」

「あー、まぁ歴史関係だな。

少し気になる事があってな……」

「「歴史……」」


久慈川さんと倉木の奴……歴史苦手なんだな。

まぁ俺も前世との歴史とのギャップでそこそこ点を落としてるから人の事言えた口じゃないけど。


「それじゃまた明日」

「おう、また明日」

「夜更かしするまで調べ物しないでくださいよー!」

「いや流石に浅麦でもそこまでは……するか」

「ヲイ……」


流石の俺でもそれ以上は怒るぞ?






「…………やっぱり無い。」


俺は寮の自室へと戻った後、部屋に備え付けられているPC端末を起動し、生徒会からの呼び出しを受けた後に調べようと思っていた前世における神話や宗教に関わる事を調べ続けた。


結果としてこの世界における宗教は"デュエル信仰教"とマイナーな宗教として一部のカードを神として崇めるいくつかの宗教があるくらいだった。


前世におけるイスラム教、ヒンドゥー教、仏教、等のあらゆる宗教がこの世界においては存在していない。


そしてそれに伴って前世に存在していた北欧神話、エジプト神話、日本神話、ギリシャ神話等のあらゆる神話がこの世界には存在していなかった。


なんなら日本には妖怪という概念そのものもはあっても伝承の類が何一つ存在しない。


明らかに妙だ、概念だけが存在するのに伝承が無い。


悪魔等の言葉は存在するが悪魔の名前は調べても出ない。

悪魔はただ悪魔としか書かれていないのだ。


そしてそれらの神話や宗教に関わると思われるカードが何枚か検索に引っかかっている。


おそらくだがこれらの神話そのものが一つの世界としてデュエル世界に存在しているのだろう。


「…………『デュエ"ニュクス"』ねぇ。」


デュエ"ニュクス"……ニュクスとはギリシャ神話における原初の神の一柱だ。


そんな名前が組織に入ってるとなるとギリシャ神話関係のデュエル世界と関わっていると考えるのが自然だよな……俺の考えすぎならいいんだがな……


「俺の場合は七つの大罪……キリスト教における最も重い罪か……いや、アルセーヌが混ざってる時点でそれだけじゃないな。」


ユニークレアの公開されている情報の一覧を見ても前世の神話や宗教等に関わるような物は殆ど無かった。

そもそも『デュエル世界』とは幾つもの世界の集合体のような場所の為にそもそもの世界が多すぎてあまり出てこなかったのだろうな。


「はぁ……前世における神話とか殆ど知らないんだが……どの神がどの神話の存在なのかとかそのくらいしか把握してないぞ?」


一番厄介なのはそこだった……確か聞いた話だと一部の神なんかは複数の神話で名前が違う同一の存在として知られているってのは知っているがそれがどの神だったかも俺は正直覚えていない。


正直こんなタイミングで知りたくはなかった。


考えても答えが出ないのは分かるが考えれば考える程嫌な予感がしてくる。


「根を詰めすぎても仕方ないか……」


俺は気分転換部屋に備え付けられたテレビを起動してニュースを見ることにした。


『……続きまして次のニュースです。

先週から発生している実力至上主義団体『バーバリアス』による無差別デュエルテロ事件ですが……』


実力至上主義団体『バーバリアス』……確か俺の使っている盗賊とかを含めた弱いとされている職業の根絶を目的とした自称慈善事業家連中だったな。


個々最近だと世界各地で無差別でのデュエルによるテロを起こしているらしい。


正直デュエルによるテロってなんだよと思わなくもないんだがこの世界ではこの手の非合法な連中は相手を強制的にデュエルへと引きずり込む手段を持っていてそれに負けてしまうと相手の要求を拒めなくなる。

場合によっては死ぬ可能性まであるらしい。


ただこの手の非合法な契約システムはどうやら複雑過ぎるが故の弊害と言うべきか抜け道が存在しており、警察等はそこを付くことで契約の強制解除をしているらしい。


まぁ黙って強制解除をさせる程向こうも馬鹿ではないためその都度激しい衝突が起こるのだとか……


それにしても『デュエニュクス』だけでも頭が痛い問題だというのに……この学園にコイツラも入り込んでないと良いんだがな。


「どう見てもフラグにしか見えねぇんだよなぁ……」


正直俺としては一番考えうる中で面倒くさいのが『デュエニュクス』と『バーバリアス』が手を組んでいる、又は深く繋がっている組織であるパターンだ。


ただでさえ不法侵入がこの間のカチコミでかなりの数発見されたからな……





俺は余計に悩みの種が増えてしまった為、一旦考える事をやめて結局調べ物を再開することにした。


そして調べていく中で一番厄介な神話が世界に存在していない事に気が付いた。


「ハ……ハハ……ネクロノミコンとかグリモワールみたいな単語がカード検索で引っかかってクトゥルフ神話系列が検索で一切引っかからない……どう考えてもそう言うことだよなこれ……」


よりにもよってデュエル世界の中にクトゥルフ神話の世界が存在する事が確定した……あれは元々は個人が書いた奴で実際に信仰されていたものではないだろうに……


「…………やめよう。

考えるだけ無駄に疲れるわこれ……」


調べれば調べる程に厄ネタが湧いて出てくる……もしかしなくてもこの世界は結構崖っぷちなんじゃないだろうか?




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