俺は昨日のニュースを見てからずっと嫌な予感がしていた為かなり本気のデッキを持って登校する。
流石にこのデッキを使う関係上色んなデッキからカードを抜く必要がある為に持ってくることが出来たのはこのデッキだけだが少なくとも下手な相手には負けることはないだろう。
少なくとも連戦したとしてもある程度勝てる自信はある。
正直俺自身もここまで警戒する理由も必要性も無いと内心分かっているのだが今日は何故か朝からずっと嫌な予感がしてならなかった。
普段の俺なら考えすぎだと思うような事のはずなのに何故か妙な確信のような物がある。
この世界特有の物なのだろうがそう考えると昨日のニュースがフラグにしか思えなくなる為にあまり考えたくはなかった。
そんな事を考えながら学校への道を歩いていると後ろから久慈川さんが駆け足でやってくる。
「あ、浅麦君おはよう……あれ?今日はデッキが一つだけなんですね?」
「あぁ、まぁな。
他のデッキから色々とカード抜いたからこれ一つにせざるを得なかったんだ」
「何か心配事でもあるんですか?
妙に肩に力が入ってる気がするんですが……」
「ちょっとな……まぁただの考えすぎだろうし気にしなくても大丈夫だ」
「それならいいんですけど……」
流石に顔に出過ぎてたか、これ以上心配させるのも久慈川さんに悪いし気を引き締めないとな。
「お?2人とも相変わらず仲いいな。」
今度は倉木が合流し、結局いつもの面子で学校へと向かっていく。
「そういや昨日のニュース聞いたか?」
「昨日の……あ!『バーバリアス』のニュースですか?」
「そうそう、ったく物騒だよなぁここ最近。
調べてみたんだがここ数年日本でのデュエルテロの件数が馬鹿みたいに跳ね上がってんだってさ?」
実際この世界ではカードによる謎効果によって爆破物や毒物なんかによるテロは効果が薄い傾向にある。
その為にデュエルによってそれらのカードを無効化した上での爆破等のテロ行為を行うといったような事例こそあるが前世に比べるとその手の事件の発生率はかなり少ない傾向にある。
無論多少の人間同士のいざこざなんかも無い訳では無いのだが喧嘩の代わりにデュエルがある為に前世に比べると圧倒的に穏便に済んでいた。
だが日本でのこの手のテロ事件の発生率の急増……どう考えても日本に何かしら狙われるような物があるとしか思えないんだよなぁ。
そしてこの日本において立地的にも立場的にも特に特殊なこのギガフロート……。
だがその次の瞬間。
―――――ドカァァァァァァンン!!!―――――
「ぐぁっ!?なんだ!?」
「爆発!?」
周囲から大量の悲鳴と共に学校側から寮の方へと向かって走っていく生徒が多数現れた。
爆発の起きたのはどうやら本校舎らしく、その方角から煙が上がっているのも見える。
「いったい何が……」
「やっぱりフラグだったか……備えといて正解だった」
俺が考えていた中でも一番面倒な予感が当たってしまった。
『デュエニュクス』か『バーバリアス』の方かは知らないがやはりこのギガフロートに侵入していたようだ。
そしてこのテロの下手人が生徒側だった場合……
「浅麦君に倉木君も寮へと避難しましょう!」
「いや、下手に行くのはやめといたほうが良い。」
「どういう事だ浅麦?」
「今回のテロを起こしたのが外から不法侵入してきた奴ならまだしも生徒だった場合寮何ていうわかりやすく人質を取れるような場所を見逃すとも思えない。
避難するのならどちらかと言えば学園の外だ。」
だが正直これもこれでオススメできる手段ではない。
結局犯人を取り押さえる事が出来なければこれは問題の先送りにしかならないからだ。
―――――プルルルルル!!プルルルルル!!―――――
「っ!桜木先輩からか!」
俺はすぐさま先輩から掛かってきた電話に出る。
「浅麦です、先輩達はご無事ですか?」
『こっちは大丈夫だ。
そっちも無事そうで何よりだよ。』
良かった、どうやら先輩達はあの爆発に巻き込まれてはいなかったようだ。
「状況の方はどこまで掴めてますか?」
『いつもながら話が早くて助かるよ。
現在本校舎の方で『デュエニュクス』と『バーバリアス』の両組織のメンバー複数人を取り押さえている最中だ。
この間のカチコミ以降にまた一気に不法侵入してきた奴らが増えてるみたいでね……しかも『デュエニュクス』側の数名は生徒だ。』
最悪にも程がある。
どっちかの組織が関わっている可能性は考えていたがその両方が手を組んでいる上に生徒も加わった犯行と来たか……
「俺達は寮の方を警戒します、相手に生徒がいるのなら寮を狙う可能性は十分高いと思います。」
『確かにそうだね……だが流石に1年生だけにそんな危険な真似をさせるわけにもいかない。
こっちから夢見を向かわせるから彼女と一旦合流してくれ。』
その後俺達のタブレット端末に寮の裏手付近を記した位置情報が送られてくる。
おそらくここで合流しろということだろう。
『それと一つ気をつけてくれ。
奴らは今回の襲撃で―ザザッ―を実―ザザッザ―せてきている!』
「桜木先輩、ノイズで聞き取れませんでした。
いったい何が……」
『―ザザッザーザーザザ―』
―――――ツーツーツー……―――――
「切れちゃい……ましたね」
「いや、この場合むしろ切られたって事じゃねぇか?」
「どう考えても通信妨害されているとしか思えないだろ……。
タブレット端末は……やっぱり通信機能が軒並みダウンしているが使えないわけじゃない。
一旦夢見先輩との合流を第一に考えよう。」
それに桜木先輩が伝えようとしていたことが少し引っかかる。
どう考えても奴らは何の勝算も無くテロを起こしたわけではなさそうだ。
俺達は一旦寮の裏手へと密かに向かっていき、夢見先輩との合流と周囲への警戒を第一に行動していく。
すると案の定と言うべきか寮へと向かう最中に数名明らかに怪しい動きをしている人物を見かける。
「浅麦君、あの人……」
「今はやめとけ、下手に状況が掴めない状態で動くよりも一旦夢見先輩と合流して情報を整理してからのほうが良い。」
まぁだからといって何もしないというわけじゃないがな。
俺は生徒会権限を使って近くの監視カメラに有線で接続してタブレット端末へと繋げた。
「やっぱり有線経由でならここから離れている場所でも調べることが出来るな。」
「本当ですか!?」
「あぁ、ただ学校側の監視カメラはかなりの台数を壊されてるっぽいな。」
俺が開いた監視カメラの画像には数多くの―Signal Out―という文字と共に砂嵐で何も見えなくなっている監視カメラの映像があった。
俺の権限じゃ流石に過去の映像なんかは見せてはもらえないがリアルタイムで情報を確認できるのであれば十分だろう。
一旦監視カメラとの有線接続を解除した後、俺達は合流予定の場所へと隠れながら向かっていく。
だが運の悪い事に合流予定の場所には明らかに怪しい動きをしている生徒が既に陣取っていた。
「どうしますか?」
「どうするつってもな……」
「正直夢見先輩がこっちに来た事に気付かれて騒がれても面倒だな……」
俺は今有線接続している監視カメラを経由して寮内に設置されている『デュエルフィールド』に遠隔で接続する。
「浅麦君?」
「おいまさか……」
「2人とも俺がデュエルを行なっている間身体の方任せた。」
ハッキリ言って起動方法としてはかなり危険なやり方だからあまりやりたくはないんだがな……今は手段を選んでいられる場合じゃない。
「生徒会権限により強制デュエルを執行する。」
俺は相手の生徒のタブレット端末をロックして俺ごとそいつの意識を刈り取り、『デュエルフィールド』へと引きずり込んだ。
俺は見慣れた闘技場の入場口前の通路でで目を覚ます。
身体を軽く動かして問題なく起動していることを確信した俺はいつものように闘技場へと歩み始める。
そして対面側から現れる人物に俺は驚きを隠せないでいた。
「流石にそこまでは想定していなかったな……つか読めねぇよ。」
俺の目の前にいた人物は先程ロックしたはずの生徒……ではなかった。
どの職業とも違う古代ローマの戦士のような鎧と衣が混ざったような服装と中世のものに近い武具。
更にその姿は先程こちらに引きずり込んだ生徒とは思えない程の筋骨隆々とした大柄な男の肉体。
だが俺の知っているあらゆる職業と一致しないその姿は俺が知っている物の一つだった。
「剣闘士のユニットカード……『スパルタンソルジャー』か……!」
そう、その人物は『DaL』のユニットカードとして出てくるあるユニットと全く同じ物だった。