異様な苦しみと共に暗転した俺の意識は赤黒く、何もない妙な空間へと飛ばされていた。
「ここは……何処だ?
さっきまでいた『デュエルフィールド』とは明らかに違う。」
身体は……動く、だが歩いていても進んでいるのかどうかすらも分からないほどに景色が変わらない。
何もない空間をしばらく進み続けているとやがて聞き覚えのある『ジャラリ……』と言った鎖のような音が響いてくる。
「っ!今の音は……」
俺はこの聞き覚えのある音の方へと向きを変え、歩み始める。
景色はどれだけ歩いても変わらない。
だが呼ばれている感覚だけはあった。
呼ばれている感覚だけを頼りにして歩き続けていると今度はコートかマントのような幅広い布でもはためかしたような音と聞き覚えのある嘲笑うような嗤い声が聞こえてくる。
「今の声は……"アルセーヌ"か?」
今度は聞こえてきた声の方へと向かって進んでいく。
間違いない、俺の持っている『ユニークレア』のカード達に呼ばれている。
しばらくの間さらに歩み続けていくと今度は炎が揺らめくような音と共にイタズラが好きそうな『ケケケケッ』という声が聞こえてくる。
「今度は"ランタン王ジャック"か……」
その音を頼りにまた進んでいくとその方向の先に《いたずらの化身・ランタン王ジャック》の持つランタンの炎のような明かりがあるのが分かる。
どうやら導いてくれるようだ。
「俺を何処に連れていきたいんだ……?」
俺は疑問を持ちながらも自分のカード達を頼りに先の見えない道をひたすら進んでいく。
すると今度はまるでブラックホールのような何かに瓦礫が吸い込まれていくような砕ける音と吸引音が混ざったような音と表現がとても難しいような嘆きにも似た声だった。
「この音は……"ロストディザスター"か?」
おそらく瓦礫のような音から察するに《文明の破壊神・ロストディザスター》と思われるその音へと身体を向けるとそこには"ランタン王ジャック"の炎と"アーマゲドン"の眷属である狼型の鎖で出来た《簒奪者の眷属》がいた。
どうやらこいつも案内してくれるようだ。
そして歩みを進める度に次々と俺の持っているユニークレア達が現れては俺を呼んでくる。
中には盗賊の俺では使えないはずのカードさえも存在していた。
「…………成る程、だから呼ばれたわけか。」
そしてとても長い間歩いていたような感覚を覚えながらが進み続けた結果、俺はある巨大な卵の元へと辿り着いた。
『…………君は何を望む?』
「何を……か。
誰にも負けない強さを、誰にも奪われない力を。
いや、すべてを奪い尽くす力を望む!」
『……君は強欲だね。』
「だろうな……その辺に関しては俺が初めてユニークレアを得たあの日から……"アルセーヌ"と会ったあの日から自覚させられたよ。
こんなカードが来るくらいには俺は勝負に関しては欲深いんだろうなって」
実際俺はこの世界における敗北を一切許容するつもりは無かった。
あまりにもリスクの高すぎるデュエル……そして問答無用で巻き込まれるテロ……そして実力至上主義者の名前を騙るアホ共……
普通に考えれば絶対に負けない何ていうのは不可能だ。
勝負には時の運だってある。
だからこそ俺はその運の要素を極限まで削り続けて来た。
そして奪われるくらいならば奪うくらいの覚悟で俺はこのカードゲームの腕を磨き続けて来た。
勝つためなら手段を選んでいられない。
負けたら失うのならば勝って全てを得続けてやる……
「あぁ、たしかに俺は……『強欲』だ。」
俺がその言葉を呟いた瞬間、心臓が強く鼓動する。
今までに感じたことのない高揚感を感じる。
そして全てを奪いたいという強い欲望が生まれる。
だが伊達に一度死んで少しの間だけとはいえ魂だけの存在になったわけじゃない。
このくらいの欲望は自分の物でない以上別物として考えれば簡単に抑え込める。
『すごいね君は……それだけの強い欲望を持ちながらも自分の意思を貫き、自制することが出来る。』
「大方この欲望はアルセーヌ達の物何じゃないのか?
それが俺の欲に呼応して流れ込んでいる。」
『当たり……それは君の望みであり僕たちの欲望……僕たちの望みであり君の欲望だ。』
俺は卵に触れてこの欲望を注ぐイメージを強く持つ。
おそらくコイツが目覚めるのに必要なのはこの強い意思の力……俺たちの"欲"そのものだ。
『感じる……本当に君達は欲深い……。
でもその欲深さが面白い……!』
卵に次々とヒビが入っていく。
『我らが『強欲』よ、力を示せし者よ。
我は汝らと共に立ち塞がる全てを奪い尽くす者だ!!』
そして卵が割れ、その割れ目から黄金の毛で出来た巨大な腕のような物が9本卵を突き破っていく。
やがてその腕は卵を覆い尽くして押し潰していき、完全に粉砕していった。
そしてその腕が広がっていき、粉々になった卵から現れたのは赤い縁取りと9本の腕のような尻尾に大量の棘状の毛と金銀財宝を身に纏った巨大な黄金の狐だった。
「やっぱりハリネズミ……しかも九尾も混ざってるのかよ。」
俺は正直自分が『強欲』なんてものに関わる以上どっかで『強欲』の象徴となる動物である『ハリネズミ』が出てくるのではないかと思っていたがまさか九尾のキツネと合わさった物が出てくるとは思わなかった。
「とりあえず誕生おめでとう。
改めて自己紹介といくか……俺は浅麦 誠。」
『僕は……そうだな、僕の名前は君が決めてくれないか?』
「俺が?」
俺は急にそう言われて若干困る。
俺はそこまでネーミングセンスがあるわけではないからな。
「…………」
そうだな……やっぱり『強欲』に関わる名前の方が良いだろう。
そうなると答えは一つだな。
「………強欲……《強欲獣・マモン》だ!」
『《強欲獣・マモン》……僕の名前は『マモン』だ!!』
その瞬間、俺の全身を包む盗賊の衣装が赤黒い炎で燃え盛り、金銀財宝を散りばめながらも動きを阻害しない怪盗服のような意匠が凝らされたスーツになった。
そして俺の身体には『マモン』の物と同じような赤い縁取りが刻まれていく。
「それにしても上級職の解放条件の最後が俺側のカードが奪われる事なんて予想できるかっての……」
俺は呆れながらもそうボヤくと周囲を取り囲んでいた俺の持つユニークレア達が使用可能な職業関係なしに全て変化していく。
そして俺はその中で俺が初めて出会った最初のユニークレアである『アルセーヌ』と向き合った。
「これからもよろしく頼むぞ、相棒。」
『……己が欲のままに奪え!
我が新たな名は《強欲の化身・アルセーヌ=グリード=ルパン》である!!』
俺はそれに長えよと心の中でツッコミを入れながら崩れ去っていく空間の中、視界はまた暗転させていった。
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「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
しまった、忘れていた。
視界が暗転してあの空間に飛ばされる前にめちゃくちゃ苦しんでたんだった……
俺は冷や汗を拭いながら呼吸を整えて前へと向き合う。
俺の正面には《ロブバンデット》が姿を変えたユニットと、《侵食》された《ウェポンユーザーパー》、そして《エロージョンリザード》がいた。
手札のカードも軒並み変わっている。
そして俺は手札のカードのある"2枚"のカードの絵柄が明らかにおかしい事に気が付いた。
「なんだ……枠から絵がはみ出して……っ!」
俺はその枠からはみ出してカード全体に描かれたユニットの意味を理解した。
「面白いじゃないか……!」
俺は自分の手札の能力を全て把握し、自身の職業アビリティがどのように変化したのかを確認する。
どうやら俺の職業が『盗賊』から『強欲』へと変化した事で俺の能力ら相手から何かを奪う事に特化したようだ。
だが奪う対象はカードだけにあらず、ユニット、能力、スタッツ……あらゆる物を奪えるようになったらしい。
そして盗賊の汎用性はそのままのようだ。
「奪い尽くしてやる……!」