「ん?桜木に……浅麦じゃないか!
寮の方を守っていると聞いていたがもう良いのか?」
「こんな爆発があったらそりゃ様子を見に来ますよ……とりあえず寮の方は2人に任せてきましたよ」
「ケホッケホッ……ひどい目に遭いました……」
「いやぁ、普通に焦ったッス……」
しばらく待っていると同じく縛った『デュエニュクス』の連中や『バーバリアス』達を瓦礫の上で引きずりながら夢見先輩と田畑先輩、戦葉会長がやってきた。
引きずってきた連中の後に赤黒い線のような物が見える気がしたが気の所為だろう……うん。
「とりあえず全員無事みたいで良かったです」
「無事……と言えるかは微妙ですがね。
学園の方もかなり壊れてしまいましたし」
「流石にこのレベルの修繕には1週間はかかりそうッスねぇ……」
…………今田畑先輩なんて言った?
1週間?……1年とかの間違いじゃなくてか?
どう見ても全壊してるこの校舎を……!?
「ん?あぁ、言ってなかったッスか。
この学園……というかギガフロートはその80%がナノマシンで構成された特殊な建材で作られてるんスよ。」
「ハァッ!?」
いやまて、80%だと!?
このギガフロートがどれだけ馬鹿デカいと……っていうかマジでそんなの用意するだけの資金何処から!?
この世界のおかしな事情には慣れたと思っていたが……どれだけ技術力が高いんだこの世界は……
「一応学園を含めあらゆる建物の設計図は別に保管してあるからね。
わかりやすく言えば3Dプリンター見たいな仕組みでその設計図通りにナノマシンを配置してやればあっという間に修繕は可能な訳だ。
ただまぁ……授業データはともかくとして個人データはだいぶ消し飛んでるだろうけどね……」
おそらく授業データとかその辺は事前に教師達が保存して持ち出して居たんだろうな……思えば教師達の対応もかなり冷静な上に迅速だった。
「頭痛くなってきた……それでその連中どうするんです?」
「とりあえずは尋問の後に島流s……引き渡しかな」
いまなんて言おうとした桜木先輩!?
「まともな情報持ってると思いますか?
寮を襲撃した連中も4人中3人が人外、一人に至っては職業まで完全に『侵食』を受けた上に負けたら灰になりましたよ?」
俺はそう言って懐からその灰を保存した容器を取り出した。
「……まぁ口封じはされているだろうね。」
「桜木先輩、それよりもさっきの襲撃者……『デュエル世界』の者は……」
「ふむ……」
すると桜木先輩は懐から何やらタブレット端末とは違った小型の端末を取り出して起動する。
「……少なくともこの近辺に『デュエル世界』特有のエネルギーである『デュエルエナジー』の痕跡はあっても大きな反応は無いね。
おそらくだが爆発前に転移か何かで逃げられたね」
転移ときたか……『デュエル世界』は無数の世界の集合体であり、様々な世界が存在する為に無限の可能性があるとは聞いていたがやっぱりそういうのもあるわけか。
「はぁ、とりあえずは今回の襲撃はこれで終わりと見ても大丈夫そうですね。」
「浅麦君!?」
「大丈夫ッスか!?」
俺は思わず肩の力が抜けてそのまま地面に倒れかける。
流石にあのデュエルの後、半日もずっと気を張り詰めながらいるのは堪えるな……
「大丈夫です、少し疲れが出ただけですから」
「はぁ、とりあえず彼を寮の保健室まで連れていきましょう。
学園の方は見ての通り瓦礫の山ですから。」
「すみません……」
俺は桜木先輩と田畑先輩に肩を貸してもらい、いったん全員で寮へと向かうことになった。
――――――――――――――――――――
「ふぅ、到着ッス。」
「あ、浅麦……って大丈夫か!?」
「浅麦君!?」
どうやら倉木と久慈川さんがこちらに気付いたのかこっちに走ってくる。
「心配かけて悪い、ちょっと疲れが出ただけだ。」
「あぁ……そういや浅麦だけあいつらとデュエル2連戦やった上にずっととんでもない量の監視カメラの映像を同時に見てたからな……」
「少しは休んで下さいって言ったのに聞いてくれませんし……挙句の果ては自分のカードの確認まで片手間にやり始めてましたし」
「「うわぁ……」」
すると若干田畑先輩や桜木先輩達から引かれたような反応が聞こえてくる。
「浅麦君……それ普通に一人で同時にやれる量じゃないッスよ……」
「色々と規格外だとは思っていたがそのマルチタスク能力がその秘密だったわけか……」
「いや、そんな事を言われても……監視カメラだって基本的には映像が変わらないんですから何か映れば視界の端にあったとしてもすぐ気付けると思いますが?」
「それをカード確認の片手間で出来るのは君くらいだよ……」
そこまで言うか……
「皆さんご無事で本当に良かったです……。
生徒会の皆さんが戻ってきたと言うことはもしかして?」
「あぁ、こっちはなんとか片付いた。
心配をかけてすまなかったな」
「いえ、本当にご無事で何ようです。
ただ……なんで会長はそんなにボロボロなんですか?」
「いつものドジだね」
「いつものですね」
「いつものッスね」
「皆して酷くないかい!?」
実際寮に戻ってくるまでに戦葉会長は道に落ちている瓦礫や引き摺っている連中、果ては木の根に脚を引っ掛けて何度も転んでいた。
それで怪我一つしない辺りどれだけ転び慣れているのだろうかこの人……
「とりあえず僕らは浅麦君をいったんこの寮の保健室に運ぶからロビーの方に先生方も集めて待っていてくれないか?」
「分かりました。」
「あ、なら俺が先生達を呼んでくるよ」
「よろしくお願いします、倉木君。
浅麦君もしっかり休んでくださいよ……?」
「うっ……わ、わかったから」
久慈川さんから逆らってはいけないと思わず感じる程の圧を感じる……
仕方ない、確認したい事を終えたら大人しく休むとしよう。
「すみません、先輩。」
「あんまり無理しちゃダメッスよ〜!」
「こちらでの話が纏ったらいったん君の通信端末に贈っておくよ。」
「よろしくお願いします。」
俺を保健室へと運んだ後、先輩達はすぐに部屋を去っていった。
そしてそれから少しして周囲には誰も居ないことを確認した後、俺はベッドの上に寝転がりながらデッキケースから感じていた妙な気配に対して呼びかける。
「いい加減出てもいいんじゃないか?」
するとデッキケースから赤黒い光が溢れ、その光が俺ので集まると小さな棘のような毛並みが特徴の九尾の狐が現れる。
『やっぱり気付いてた?』
「そりゃな……それにこういう事象が存在すること自体は元々知っていたからな。」
力を得たカードの実体化……俗に言うカード精霊なんていう存在は一部のユニーク職が手に入れているという情報は元々半信半疑ではあったんだがな……
まぁでも『強欲』になってこいつ……《強欲獣・マモン》を孵化させたときから正直こうなるんじゃないかと予想は出来ていた。
「それで?お前は俺だけに見えてるのか?それとも他のやつにも見えるのか?」
俺がこの情報に関して半信半疑でいた大きな理由がこれだ。
そんな存在が現れたというのに何一つとして画像も無ければその人物以外が見れたという情報が殆ど出回っていなかったからだ。
考えられる要因としては主に2つ。
一つは単純にその本人にしか見えないという事。
2つ目はカード精霊のいる人物以外にはそもそも見れないということだ。
『そうだね、答えとしては僕らは"見える"だけの力を持った者にしか見えないっていうのが正解かな。』
見える者にしか見えない?
『僕達が実体化するにはそれを行えるだけのエネルギーをデュエルで貯められるようになる必要があるんだけどそのエネルギーは基本的に強者とのデュエルで生まれるんだ。
普通の人には知覚できないけどそのエネルギーを直で生み続ける事が出来るほどの実力が付いてくると少しずつだけど僕たちの存在を"見る"まではいかなくても感じ取ることが出来る。
まぁ早い話がエネルギーに慣れる……というか適応したから見えているんだよ。』
エネルギーに適応したから見えている……か。
余計に『デュエル世界』に関する謎が増えたな……