カード精霊となっていた《強欲獣・マモン》としばらく話をし、ある程度新しい情報の整理もついたので眠って身体を休めようとするとタブレット端末に通知が入る。
どうやら向こうでの話し合いが終わったらしい。
「……少なくとも10日は休校か。
学校本体は7日で修復出来ても機材の再設置やデータの再入力とか色々とあるだろうからな、むしろ早い方か。」
『あ……そこそこ……顎の下……そこもっと撫でて……』
俺はマモンを撫でながら先輩から送られてきた内容を確認する。
正直こうしてみていると正直狐というか猫っぽい所あるんだよなぁこいつ……まぁ生まれたばかりだし甘えたりとかしたいんだろうな。
俺はトゲトゲとした毛並みにだけ気をつけながらマモンを撫で、続きを読んでいく。
「結局倒した奴らへの尋問は意味をなさず全員が口封じ状態。
唯一分かったのはリーダー格がこの世界の住人ではなく『デュエル世界』の住人であり、『バーバリアス』に至っては『デュエニュクス』と組んでいるどころかつい最近吸収されたらしく、全員が『デュエニュクス』の構成員としての証を持っていたのか……。」
そうなると元々残党だった組織がここまで一気に勢力を拡大できたのも他の裏組織を吸収合併してきたからなのか?
そうなると結構面倒くさいことになりそうだな……
この世界はその歪な社会性が原因で前世の一般的な社会と比べると裏社会の存在はかなり多い。
特に職業差別やカード格差なども結構深刻な為にどうしても犯罪に手を染める者が出てくるのだ。
さらに一部のカードに至っては依存性のある『違法カード』なんていう物も存在しており、強い依存性を得る代わりに力と全能感を与えるという碌でもないカードもあるようだ。
そんなカードを作れるような組織をもし吸収合併していた場合……考えたくもないな。
『ん……多分だけどその『デュエル世界』の住人がいた場所は『虚無の宇宙』じゃないかな?』
「『虚無の宇宙』?」
『うん、確か数ある『デュエル世界』の中でも特に特殊な場所で他者を飲み込んで自分自身にする事で力を得るタイプの住人が多いらしいよ。
ゴロゴロゴロゴロ……』
そのゴロゴロ音はもはや猫だろとツッコミを入れたいがなかなか悪くない情報を得られたか。
それに他所を飲み込み自分自身にする……飲み込む……『侵食』……まさかな。
とはいえ一度調べておく必要はありそうだ。
俺は送られてきた内容を一通り見終わった後、いったん眠りについた。
「ん……んん……」
次の日、俺が目を覚ますと……
「あ、おはようございます浅麦君」
隣で椅子に座って俺の様子を見ていたのか久慈川さんがすぐ横にいた。
正直一瞬ビビった……
「く、久慈川さん……?なぜそこに?」
「え、えーとその……そろそろ浅麦君も起きる頃かなぁと思ってぇ……ごめんなさい、心配でずっと隣で見てました。」
流石にちょっと怪しいからジト目で見つめていたら若干顔を赤くして久慈川さんは白状した。
「はぁ、心配かけたみたいだな。」
「私こそ浅麦君に頼ってばっかで……もっと浅麦君の負担を減らしてあげられれば良かったんですけど。」
「今回の件に関しては緊急事態だったんだし仕方ないだろ?
気にしなくて良いと思うぞ。」
「でも……」
久慈川さんはあまり納得出来ていないようだ。
まぁ今回は俺が心配をかけてしまったのが悪いか……
「浅麦君、体調の方は大丈夫ですか?」
「あぁ、疲れもちゃんと取れてるしすぐにいつも通り動ける。」
「良かった……桜木先輩達が浅麦君が動けるようなら教員棟まで来て欲しいと言ってましたけど問題無さそうですか?」
「大丈夫だ、時間の指定は?」
「ありません、とりあえず1回来てほしいって言ってました」
「分かった」
俺はベッドから降りてひとまず軽く身支度を整える。
なんか久慈川さんからじっと見られているような気もするが一旦スルーしよう。
保健室を出た俺達は学生棟のすぐ隣にある教員棟へと向かっていった。
入口には葉風先生がまるで見張りや護衛のように立っており、まだ警戒態勢となっているのがよく分かる。
「ん?おお浅麦か、話は聞いてるよ。
ちょいと待ってな、今戦葉達に連絡を入れるから」
葉風先生はタブレット端末を操作して通話する。
おそらく相手は生徒会の誰かだろう。
少し話をすると葉風先生はすぐに通話をやめた。
「よし、今あいつらがいる場所の座標を送るから悪いがお前らだけで行ってくれ。
我々は今厳戒態勢を解けないから下手に動けないんだ。」
「わかりました。」
俺はタブレット端末を取り出して先生から座標データを受け取る。
教員棟2Fの用具室か……おそらくそこを今臨時の生徒会室として運用していると言ったところか?
俺達は座標を頼りに移動して用具室の前に到着する。
―――――コンコンッ―――――
「はい……あぁ、浅麦君ですか。
ここに来たと言うことは体調は問題なさそうですね」
「ええ、ご心配をかけました」
「いえ、ご無事なら何よりです。
とりあえずこちらへ」
俺は夢見先輩の誘導に従って用具室へと入る。
「やぁ浅麦君、元気そうで安心したよ。」
「そういう桜木先輩はだいぶやつれてますね。」
「そりゃあ色々とやらないといけないこともあるからね……副会長としても会社の御曹司としてもね」
まぁ被害が割とシャレになってないからな……こればかりは仕方ないわけか。
「まぁ君らも僕らと同じようになるだろうから気にしなくていいさ。」
「はい?」
「嫌な予感しかしないんですが?」
桜木先輩は黒い笑みを浮かべる……正直こういう笑みをする人程人遣いが荒いからな。
実際この間もかなりこき使われたからな……
「悪いけど君達には……このギガフロートを離れてここに向かって貰っていいかい?」
「「はいっ!?」」
桜木先輩がそう言って渡してきたのは日本の北海道のとある一角だった。
「いいいいいきなりどういうことですかぁ!?」
「流石に突然すぎやしませんか?」
「いやまぁすぐ行けという訳じゃないさ。
元々ここには我々も向かうつもりだからね。」
先輩達も向かう……?
「我々もただ襲撃を受けていただけじゃない。
実は今回逃げられた『デュエル世界』の住人なんだがね……なんとか現在地の特定を行うことに成功したんだ。」
「なっ!?」
「どうやったんです?」
「そうだね、彼ら『デュエル世界』の住人はそれぞれ固有の『デュエルエネルギー』とでもいうものを発していてね。
襲撃の際にそのエネルギーを計測してその波長を記録しておいたんだ。
あとは金と会社の人材に物を言わせて日本中を捜索しただけさ。
まぁとんでもない出費にはなったけどこれで『デュエニュクス』の拠点を叩けるなら安いものさ」
先輩は若干苦笑いしながらそう言うが俺には一つ疑問が残った。
「……警察や世界大会に出場しているような人達には頼まないんですか?」
「それなんだけどね……実はその両方にいる実力至上主義者の一部に『デュエニュクス』と繋がっている可能性が浮上した。
しかも警察に至っては結構上の人物と繋がっているみたいで下手に通報出来ないんだ。」
あるとは思ってたが随分とまあ面倒くさい所と繋がっている……
全く実力至上主義者連中はどれだけ碌でもないやつが多いんだ?
「となると襲撃するメンバーは……」
「僕ら生徒会全員と我が社の信用できる実力者、それと3年生から数名と言ったところかな。」
「なら俺のクラスの倉木も候補に入れといてもらえます?
実力に関しては俺達と日頃からずっとやり合ってるので十分かと……それに俺の方からあいつに合うユニークレアを複数枚渡してるので生半可な面子には負けないと思います。」
「へっ!?……でも倉木君なら確かに」
まぁあとで倉木にも話を通しておく必要はあるが恐らくは問題ないだろう。
「分かった、ただ交渉の方は君に任せても?」
「はい、問題ないです」
「今は潜伏先の情報をある程度集めている段階だ、数日後には襲撃可能になるだろう。
それまで君達には自分のデッキの調整とコンディションを万全にしてもらいたい。
特に君達二人は職業も変化したばかりで調整が必要だろう。
だから念入りに頼むよ?」
「分かりました」
「はい、頑張ります……」
嫌な予感はしていたがまたとんでもない事になったな……リスクは大きいが対処せずに放置する方が今後のリスクが高いか……