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第33話 剣士 リーサ=クラウフェルト

 リーサの説明によると、ここからパルフェで一日行けば、オアシスの村・アーバスに辿り着けるらしい。


「アーバスの地下にはなぜだか水脈が通っていて、砂漠の只中にいきなり森が現れるんだ。巨大湖の周りに丈の高い木々が生い茂っていてね? それもあって、砂漠を行く隊商が旅の中継地点にするようになって、いつしかそれが町になって。ホント不思議だよね。金の女神像、様々さまさまだよ」


 オレはリーサが食後に出してくれたお茶を盛大に吹いた。


「金の女神像だぁ?」


 ふところからハンカチを出したリーサは、それが当たり前かのごとく、オレの口の周りをまめまめとぬぐった。

 その仕草は完全に、旦那に惚れぬいている新婚ホヤホヤの奥さんのソレだ。

 汚いとか思いもしないらしい。


「奇跡を体現してるって言って、信者さんとか結構遠くから訪れるんだよ? そういえば『勇者は女神像より秘力を授かる』って伝承を聞いたことがあるけど、旦那さまもやっぱり女神像に用があるの?」


 リーサがオレの左隣に座って焚き火に当たりながら、小首をかしげる。

 ガイコツの指示していた場所はそこだったか。

 よし、これで目的地がハッキリした。

 オレは首から下がっているペンダントトップのガイコツ人形を右手でそっと握った。


「とりあえず、明日は朝から移動しよう。案内頼めるか?」

「任せて、旦那さま!」


 リーサがニッコリ微笑む。

 整った顔立ちだけに、そうやって満面の笑みを浮かべるとめちゃめちゃ可愛い。


「へっくしょい!」


 冷えが入り込んだか、思わず豪快なくしゃみが飛びだす。


 リーサはクスっと笑うと、いそいそと洞窟の奥に行き、すぐにグルグル巻きにされた布の束を持ってきた。

 見ると奥ではリーサが乗ってきたらしい漆黒のパルフェが休んでいる。


 リーサは持ってきた布を地面に置くと、締めていたベルトをゆるめてそこに広げた。

 あっという間に寝床の完成だ。


「寒いし、明日は早めにここを出るからもう寝ましょ。ささ、旦那さま、どうぞ」

「おぉ、気がくな。すぐ次の町に着くと思っていたから携帯寝具を買っていなかったんだよ。ありがたい。助かるよ!」


 こんなところで風邪をひくのもつまらないと思ったので、オレはありがたく布団を使わせてもらうことにした。

 マントとブーツを脱いで布団に片足を突っ込んだところで、オレは動きを止めた。


「……リーサも入れよ」


 オレは布団の端をめくって『入れば?』というジェスチャーをしつつ、何の気なしに聞いた。

 いやいや。いくらオレでも知り合ってすぐの女の子に手を出すような真似はしないよ、さすがに。……本当だって。


 するとリーサは、その端正な顔を真っ赤に染めて、いきなり挙動不審になった。

 壊れたロボットみたいに、脈絡もなくあっちに行ったりこっちに行ったりしている。

 ……何だコレ。面白いな。


 やがて意を決したのか、再び奥に行ってしばらくゴソゴソ荷物をあさっていたかと思うと、コソコソと戻ってきた。

 パジャマにでも着替えたかとリーサを見たオレのあごが落ちる。


 頭から湯気が出るほど顔を真っ赤にしたリーサが着ていたのは、薄っすら紫の、透け透けのベビードールだった。


 当然のことながら、ベビードールの下に着ているのはパンツだけだから、透け透けの布越しに素晴らしく形の良い大きな胸が、はっきりくっきりと見えてしまっている。

 視線を下に落とすと案の定、パンツは同色の、これまた透け透けときている。


 リーサがオレの前でクルっと一回転すると、ベビードールの裾がヒラリとひるがえり、その下のパンツが丸見えになった。

 パンツの透け透けを通してお尻の割れ目までクッキリ見える。まるで隠れていない。けしからん!!


 お前、普段剣士のなりをしているくせに、そんな凶悪な品を履くのかよ!!


 マント姿からは想像もつかなかったが、こうして見ると、日焼けのせいで若干浅黒い肌をしているリーサにはとてもよく似合っている。


「に、似合う?」


 だが、リーサ当人はオレの沈黙を否定的反応と受け取ったようで、若干涙目じゃっかんなみだめになっている。


「おま! 何着てんだ!?」

「ごごごご、ごめんなさい! ボクみたいなデカいのが着ちゃいけなかったよね? すぐ脱ぐ。すぐ捨てる。だから許して!」


 あっという間に臨界点に達してしまったオレは、リーサを強引にお姫さま抱っこすると、荒々しく布団の上に横たえ、覆いかぶさった。

 リーサが緊張のあまり、身体をガチガチにする。


「きゃ!」


 オレは無言で、透け透けベビードールの前を留めている胸元のリボンを解いた。

 ベビードールが音も立てず開くと、リーサのかぶりつきたくなるほど見事な胸があらわになる。


 うっは、凄ぇ! 仰向あおむけなのに胸が全然横に流れねぇ。どうなってやがるんだ、このたわわは。


 至近距離から胸をマジマジと凝視されたからか、リーサは顔を真っ赤にしつつギュっと目をつぶった。


 豊満なバストに極上のくびれ。

 なぜだか本人は卑下ひげしているが、いやいやとんでもない。コイツは極上品だ。


「お前、覚悟しろよ?」


 オレはリーサの耳元でささやいた。


「あ、あの、でもボク初めて……なんだ。だから……優しくしてくれると嬉しい……かな?」


 押し倒されたリーサが、オレの目をチラチラ見ながらおずおずと言う。


「……お前もか?」

「お前も?」


 リーサは一瞬で素に戻ると、布団の上に正座した。

 仕方ないからオレも対面であぐらをかく。


「……直近で何人、初めての人のお相手をしたの?」

「……二人」

「魔法使いと僧侶?」

「よく分かったな」


 洞窟内に奇妙な沈黙が訪れる。

 何だか妙な雰囲気になってきたぞ? さっきまで元気だったオレのパオーン号も、雰囲気に飲まれてシナシナだ。

 浮気を奥さんに問い詰められる旦那さんの図。何とも気まずい。

 リーサは透け透け下着姿のまま軽くため息をつくと、口を開いた。


「言ったでしょ? 勇者のパートナーになる聖女――サンクトゥスは三人いるって」

「あぁ、つるぎの聖女・魔法の聖女・いやしの聖女か。え? ひょっとして勇者はその三人とパーティを組まなくっちゃいけないのか?」

「そういうこと。そして聖女は勇者を霊的にも守る必要があるから、生まれた時から勇者としかまじわれない運命を背負っているの。勇者の子を身ごもる必要もあるしね。だから今みたいに勇者に対してのみかれるし、他の人に興味も向かないんだけど、仮に何かされそうになっても必ず運命によって妨害が入るんだ」

「何だそれ。さすがに迷信だろ?」

「迷信じゃないよ! 実際にボク、今までに何度かやからに襲われそうになったことがあったけど、ことごとく信じられないような妨害が入って無事だったもん!」


 オレはそれを聞いて、ふと思い、聞いてみた。


「え? じゃあオレが勇者じゃなかったら、ここで失敗するのか?」

「そうだね。今からでも不可思議な妨害が入るはずだよ。さぁどうなるかなぁ?」


 リーサが『ベーっ!』とオレに向かって舌を出した。

 憎たらしさを演出したいのだろうが、かえって可愛く見える。困ったもんだ。


 リーサは口を尖がらせたまましばらくプイっと横を向いていたが、やがておずおずと、左手の指でオレの服のすそを可愛く引っ張った。


「……旦那さまは間違いなく勇者だよ。だって、運命が結ばれるって凄く強く感じるもん」

「結ばれるったって、オレ、フィオナもユリーシャも置いてきちゃったぜ? どうするんだよ、あれ」

「聖女は勇者と魂が結ばれているから決して離れることはないよ。すぐ追いついてくる。でも、今はボクだけしかいないんだから、ボクだけを見てよ」


 リーサはねた顔をしつつもオレの首に手を回すと、体重をかけて布団に倒れ込んだ。

 いつの間にか、またオレがリーサに覆いかぶさる格好になっている。

 ……もう怒ってないのかな?

 リーサは目をうるませながらオレの耳元でそっと囁いた。


「来て、旦那さま」

 パオーン!!


 パオーン号が復活! っていやいや。復活どころかドーピングだよ、これ。


「おう!」


 こうしてオレは、砂漠のど真ん中で三人目の聖女――リーサ=クラウフェルトとの熱い、初めての夜を過ごしたのだった。


 ◇◆◇◆◇


 ――。

 ――――。

 うーむ。久々に現役ギャルのお相手をしたからか、ついつい明け方近くまで頑張ってしまった。失敬失敬。


 オレは、軽い疲労感を抱えながらリーサの説明を思い出していた。

 勇者に付き従う三人の聖女。

 すなわち、剣の聖女・魔法の聖女・癒しの聖女か。

 リーサ、フィオナ、ユリーシャがねぇ……。


 だが、勇者候補は五人いたはずなのに、オレは伝承通り三人と結ばれている。

 っていうかそもそも、あの女神のガチャで他の勇者候補用のモニターには、老人やら熟女やらも映っていたぞ? ありゃどうしてだ? 女神はいったい何を隠しているんだ?


「あっふ」


 あくびが出た。

 どうにも情報が少なすぎて、考えても結論が出ない。


 すっかり疲れ果ててオレの腕を枕に幸せそうな顔で寝こけているリーサを眺めたオレは、疑問をいったん横に置いて眠りにつくことにしたのであった。

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