いやもぅ派手なこと派手なこと。
ユリーシャの張ったバリアはなんと虹色だった。
ほら、シャボン玉の表面あるだろ? まさにあんな感じ。
っていうかほら、オレとユリーシャをすっぽり包み込む感じに展開されたバリアだったから、見た目完全に『巨大シャボン玉に入る遊びしてまーす!』ってなもんだ。
だが、それが正解だったのか、司祭たちが一斉に攻撃を止めた。
万雷の拍手が湧き起こったが、どうやら合格ということらしい。
バリアがシャボン玉になったくらいで合格? よく分かんねぇな。
ともあれ、これでユリーシャの試験は無事終了したようだった。
司祭の合図によって一般の修道者たちがドヤドヤと入ってきて、何かの準備を整え始める。
ユリーシャはといえば、シスター・ロヴィーサに抱き締められたり、他の司祭たちに
恐縮しながら司祭たちに応対するユリーシャを離れた位置から温かく見守っていたオレは、急遽、別室に連れて行かれた。
そこで待っていたのは例の一番偉い司教さまだ。
オレはなぜだか、ニコニコする司教さまを相手に茶飲み話のお相手を務めることになってしまった。
やっぱり偉くなると気軽な会話をしてくれる人間がいなくなるものなのか、司教は勢い込んで色々話してくれた。
と言っても、話してくれた内容は大したことじゃない。いやホント。
よくある苦労話やら愚痴やらだったのだが、何度も何度もループするから、まぁ終わらない終わらない。
それに対して決して怒ることなく、『へぇ、そうなんですか』などとお
若かりし頃にどこぞの塔に巣食っていたドラゴンを倒したときの武勇伝を四回ほど聞かされた辺りで、アゴヒゲを生やした壮年の司祭がオレと司教を呼びにきた。
「勇者さまは修道者たちと一緒にベンチで見ていて下され。では後ほど」
「はい」
そして式典が始まった。
身廊の中央に
マントはオレの位置から見ても分かる、最高級の品だ。
襟周りには真っ白なファーがついているし、布地のあちこちに、金糸で何かの文字だか模様だかが刺しゅうされている。
堂内にいる司祭たち、修道者たちの祝福の合唱がひとしきり続いた後、司教の祝福を受けたユリーシャがその場に立った。
ユリーシャの艶やかな黒髪に豪奢な白マントが良く似合うったら。
そこで、年季の入っていそうな木箱が修道者二名によって
開封の呪文なのか、司教が何やらブツブツとつぶやきながら紐を解く。
そうして司教が木箱の中から取り出したのは、光り輝く、
新しい錫杖には、羽根と日輪を模した金色の金属パーツがついていた。
今までの錫杖には左右二本ずつ
当たると風鈴のような涼し気な音がする。
何とも神々しい。
ユリーシャは司教から新しい錫杖を受け取ると、うやうやしくお辞儀をした。
再び堂内に教徒たちの祝福の合唱が行われ、
◇◆◇◆◇
教会を出ると、真っ赤な夕日が出迎えてくれた。
思った以上に長いこと堂内にいたらしく、すでに陽が暮れかけている。
「なぁ、ユリーシャ。今回の試験って何が合格ポイントだったんだ? やっぱあのシャボン玉バリアか?」
オレは緑のパルフェ――ずんだを歩ませながら、ピンクのパルフェに乗って隣を進むユリーシャに尋ねてみた。
新品おろしたての真っ白マントを
ギャップ萌えで可愛いが、反面、何とも不思議な気分だ。
「そそ、あの虹色のバリア。メロディアス神教には、物理攻撃や魔法攻撃の一切合切を無効化する『
「あんなシャボン玉がねぇ……。え? で? 特に賞状とか免状とかをもらった様子はなかったが、今後の階級はどうなるんだ? やっぱ偉くなるんだろ? 司祭とかになるのか?」
「ううん、
ユリーシャがやり切った満足感からか、パルフェに揺られながらオレにガッツポーズをしてみせる。
笑顔がはにかみに変わる。
「……ね、センセ?」
「何だ?」
「今日はユリち頑張ったから……センセのこと、独り占めしていい?」
ユリーシャが甘え顔でオレを見る。
なるほど、リーサとフィオナのあの苦笑はそういうことだったか。
二人とも、自分たちの認証のときに一人占めする番が来るからと、今日がユリーシャの独占日となるのを納得したんだろう。
ま、それならいいか。
「……いいよ。んじゃ行くか」
「うん!」
オレの返事に、ユリーシャが満面の笑みを浮かべる。
こうしてオレはユリーシャを連れて、夜の町に消えた。
独占するのはいいが、ギブアップは無しだからな……。
◇◆◇◆◇
翌朝早く、リーサ、フィオナと合流したオレとユリーシャは、朝からやっている飲食店に入った。
ユリーシャおススメの、お粥が
ところが。
オレとリーサ、フィオナが普通にお粥を食べている横で、当のユリーシャが苦しそうに腰を押さえながらテーブルに突っ伏している。
「あぁぁぁうぅぅぅぅぅぅ」
何だか知らんが、ユリーシャが朝からずーっとうめき声を上げている。
何やってんだか。
オレは、小皿に乗った黒い甘煮をスプーンで持ち上げた。
「あぁ、胃に優しくていいな。これ、魚か? この辺りで獲れるヤツなのか?」
「そうだね。ミティスっていう川魚を甘煮にした物だね。確かにお粥に会うね」
痛みで動けぬユリーシャに代わって、リーサが答える。
「こっちのとろみのついたお肉もお粥に合うわよ。わたしはこっちの方がいいかな。試してみて」
「お、確かにそいつも美味そうだな。皿、こっちに回してくれ」
フィオナが勧めてくれた肉をお粥に乗せて食べてみると、これもまたイケる。
こりゃ、朝から腹一杯になりそうだ。
「……ユリーシャは食べないのか?」
「うぅぅ、食べたい。お腹は空いているんだけど、足腰がガクガクして身体もグッタリしちゃって動けないぃぃぃぃ」
情けない顔でテーブルに突っ伏しているユリーシャを、フィオナがやれやれといった顔で見る。
「独り占めしようなんて無茶するからよ。テッペーの性欲を甘く見るから」
「まぁでも、気持ちは分かるかな? そのうちボクの番も回ってくるからいいけどさ」
「リーサは剣士だから体力はありそうだけど、それでもテッペーの性欲には勝てないと思うわよ?」
「だよねぇ。ボク、毎回気絶して朝を迎えているもの。せめて自分の時までにしっかり足腰を鍛えておかないと」
「リーサも!? 実はわたしも、ここのとこずっと気絶で終わってる。……わたしさ、わりと真面目に、一人でテッペーの相手をするの無理なんじゃないかと思い始めてるよ」
「結局、三人で分担するのが正解ってことなのかな。あはは」
「お前ら、勝手なこと言ってんじゃないよ。さ、食ったら出発するぞ? ユリーシャも辛くても少しは腹に入れておけ」
「はぁぁいぃぃぃぃ」
こうしてユリーシャは本部の試験を無事クリアし、オレたちは
だが、どうやらユリーシャの回復魔法は、怪我は治せても疲労回復効果はあまりないらしい。
思うように動けないユリーシャは、ピンク色のパルフェの鞍の上にぶ厚く布団を敷いて、それにまたがることでようやく出発できるようになったのであった。
やれやれだよ。