「高貴なるお方に
一礼して去るダンダルを見送ったオレは、軽くため息をついた。
「呼んでおいて待たせるってか? お偉いさんってのはコレだからなぁ」
後から来た部隊の隊長――ダンダルと名乗った老騎士に連れて来られたのは、離れにある客用個室だった。
個室。オレ一人だけの部屋。
伝統だか作法だか何だか知らないが、この城では夫婦・恋人・家族であっても男女で分かれて泊まることになっているらしい。
当然のことながら、オレの通された建物は男性客専用の棟で、男性しか入れない。
三人娘はというと、こちらは当然別棟。女性しか入れない女性客専用の棟だ。
ということで、オレは久々に一人だけの時間を過ごすことになった。
考えてみると、三人娘と離れるのは久々だな。
いつまでも怒っていてもしょうがないので、オレは室内を物色することにした。
全部で五十畳程の室内はリビングを中心に寝室が三つもあった。
トイレやキッチンも完備されていて結構快適に過ごせそうだが、さて、言ってた風呂はどんなもんですかね。……おぉおぉ、結構広めでいい感じの風呂があるじゃないの。
ダンダルの説明によれば、舞踏会などで来城する他国の貴族などが泊まる部屋だそうだが、なるほど、この部屋なら納得だ。
調度品も豪華で居心地も良い。
こりゃ、ちょっとしたスィートルームだな。
オレは脱衣所で汗と埃で汚れたチュニックをポイポイと脱ぐと、早速風呂場に入った。
三メートル四方の黒大理石の風呂には、なみなみと湯が
オレは上機嫌になって風呂に浸かった。
「くぅぅぅぅ、おほぉぉぉぉ。至れり尽くせり、いい湯だな、こりゃ」
「それは何よりですわ、勇者さま」
オレは不意に聞こえた女性の声に、慌てて振り返った。
オレ以外に誰かこの室内にいたのか? 全く気づかなかったぞ?
そこにいたのは、パっと見、オレよりちょっと下――二十代半ばといった感じのクラシカルなロング丈メイド服を着たメイドだった。
なかなかに美人だ。
「初めまして、勇者さま。私は勇者さまのお世話を申しつけられましたメイドのアルマ=アシュビーです。お気軽にアルマとお呼び下さい。お湯加減は
「あぁ、申し分ないよ。……ところでキミ、いつからいたんだ?」
「つい先ほど。脱衣所に入られたあたりでしょうか。よいしょっと」
なるほど。久々の贅沢風呂に有頂天になっていたからな。それならありうる。
と、肩まで湯舟に浸かっていたオレの目の前で、湯加減を見ていたアルマが無造作にメイド服を脱ぎ始めた。
下着も平然と脱いで、その場に畳んでそっと置く。
その身体は豊満で官能的。けしからん乳をしながらもお腹回りはキュっとしまっていて、メリハリクッキリの見事なわがままボディだった。
メイドキャップを取ると、胸まであるキャラメルブロンドのゆるふわヘアが現れた。
こんな、よだれが垂れそうなほどの極上品が普通にメイドをしているだなんて、世界は広いなぁ。
うちの三人娘も結構なグラマラスボディをしているが、たまにはこんな完成された女体を鑑賞するのもいいもんだ。
アルマはあっという間にすっぽんぽんになると、
ザバァァァァァァァァ。
お湯があふれて排水溝に流れていく。
「……えっと、え? これ、どういう状況?」
「ふぅ。確かに良い湯加減ですね。では、お背中を流させていただきますね」
身体を桜色に染めたアルマがタオル片手にニコっと微笑む。途端にオレのパオーン号が激烈に目を覚ます。
うぉ、色っぺぇぇえ!!
「私は陛下との会合の準備が整うまで、勇者さまのお世話をするよう
「え? 身体を洗ってくれるの?」
「はい。そのつもりできました。いりませんか?」
「うっはは、いるいる! ついでにえっちなこともお願いしちゃいたいなー、なーんて……」
「それをお望みであれば喜んで」
「ぶはっ! げふんげふん。んーー、じゃ、えっちなことをお願いしちゃおっかな!」
オレはチラチラと
うっはは、こんなデレデレの情けない表情、三人娘には絶対見せられねぇ。
だが、アルマはニッコリ微笑んで答えた。
「喜んで。ただし、そういうことはベッドで」
「むふー! んじゃ早速行こっか!」
風呂で身体をすっかり綺麗にしてもらったオレは、アルマに手を引かれ、寄り添いながらフカフカのベッドに倒れ込んだ。
◇◆◇◆◇
あー、うん。なんか久々だよね、こういうの。つまり、経験が生きないってやつ。
三回くらい……したかな? アルマも結構な乱れようで、いやもぅ興奮した興奮した。
何て言うの? しばらくぶりに三人娘以外の女性と致したことだし、いけない浮気をしているような背徳感も相まってさ。
お陰でコレだよ。
オレは脇でグッスリ寝ているアルマを起こさぬよう、主寝室のキングサイズベッドからそっと起き上がると、リビングの壁に設置された鏡の前に立った。
首を曲げて鏡に写った背中を見る。
ほぼ中央に深々とナイフが刺さり、背中一面血で真っ赤に染まっている。
いきなり背中を刺されて気がつくと、アルマの目が赤かった。
いつの間に
ま、実際ナイフで刺すこと自体は成功したわけで、オレが死ななかったのは女神メロディアースに与えられた
隙を突いてアルマを気絶させたが、起きたところでどこまで覚えていることやら。
だがこれで、オレがまだ生きていることは敵に知られたはずだ。
さて、どうしたものかな。
身体が硬いなりに何とか背中からナイフを抜き取ったオレは、血を拭うこともせず、急いでチェニックを着た。
傷も塞がり、痛みももうなくなっているが、うへぇ、背中が血で濡れてて気持ち悪ぃ。
コンコン!
ちょうど服を着終わったのでドアを開けると、そこには老騎士ダンダルとおつきの騎士たちがいた。
あー、駄目だ。コイツらも目が真っ赤になっている。
「おのれ魔族め、すっかり騙されたわい……」
ドカっっっ!!!!
間髪入れず、オレはダンダル爺さんにちょっとキツめの蹴りを放った。
剣なんか抜かせるもんかよ。
背後に立っていたおつきの騎士たちもろとも廊下の反対側の壁に叩きつけられたダンダルが、その場に崩れ落ちた。
オレはその隙を逃さず廊下に出ると走った。
走り出しといてなんだが、どこへ行こっかね。
敵対催眠がどこまでかかっているか確認するためにも、王様に会ってみるか?
王様までもが催眠にかかっていたらどうにもならんけど。
そこでオレは、別棟にいると言う三人娘のことを考えた。
三人娘のいるところは女性棟だそうだから、騎士たちは基本入ることはできないだろうし、三人そろっている限り襲われても何とか対処できるだろ。敵のメインターゲットはオレなわけだしな。……いやいや、浮気して後ろめたいわけじゃないぞ?
んじゃ、行くか。
オレは窓の外に生えている木を伝って建物の屋根によじ登ると、屋根伝いに王宮最奥部を目指して走った。