カシャァァァァアアンン!! カッシャァァァァアアンンンン!!
ところが――。
「何……だと?」
ダメージゼロ。
オレの頭をきれいさっぱり消去するはずの傲慢帝の技は、だが顔の表面でことごとく弾かれた。
うん。より正確には頭にかぶった
ちなみに、覆っているのは頭だけじゃない。身体もだ。
予想外の結果に傲慢帝の顔色が変わっている。
「馬鹿な! そんはなずは! そんなはずでは!!」
「よいしょっと」
オレは焦りまくる傲慢帝の足を無造作に跳ねのけてその場に立ち上がると、傲慢帝の前に立った。
首をコキコキと鳴らし、その場で軽く足踏みする。
そう。オレは今、光り輝く
これこそが、第五の牙・
一応、面頬に視界確保用の穴があったり、関節部に隙間があったりはするんだが、狭くて、武芸の達人レベルまでいかないとここを突くのはほぼ不可能だ。
しかもこの鎧は
傲慢帝の魔法に削られて、まだ両足ともに足首から先が復活していないにもかかわらずだ。
「んじゃ、時間もないし、そろそろいこっかね」
オレは放たれ続ける傲慢帝の空間削除魔法を物ともせず、右手を覆った金色の
みるみる籠手の爪先に光が集中する。
「なぜ我が魔法が通じない! たかが鎧兜ごときでなぜ我が魔法を弾けるんだ!!」
光の兜の面頬越しに傲慢帝をにらみつけたオレは、籠手を神速で前に突き出した。
「傲慢帝。さっき
オレは傲慢帝の身体を一瞬で貫いた右の籠手をそっと引き抜くと、手のひらをゆっくりと開いた。
星空のように暗く輝く傲慢帝の
魔核を失った傲慢帝が、至近距離からオレの目を真っ直ぐに見て言った。
「さすがだ、勇者よ。お前の勝ちだ。持って行くがいい」
それが合図になったか、まるで桜吹雪が散るかのように、傲慢帝の身体を構成していた
同時に光の鎧兜が消えて、オレの右手の中に剣の状態になって戻ってくる。
現段階でこの状態は五秒しかもたない。
三人の聖女が全装備そろえた上で祈りの力で支えてくれないと、光の鎧兜は維持できないのだ。
オレは骨とわずかな筋肉まで復活した両足で埃だらけの王の間をぺたぺたと歩くと、その場に落ちていた杖を拾ってフィオナに差し出した。
同じく、女神によって選ばれし勇者のオレだからこそ触れることが許される、ドラゴンの意匠が柄頭に付いた、魔法の聖女専用の杖だ。
「そら、フィオナ。この杖、お前のだろう?」
「あ、ありがと、テッペー」
フィオナが持った途端、杖が淡く輝いた。
真の所有者の手に渡ったからだろうか。
「光る……んだな、その杖」
「あれ? 旦那さま知らなかったの? ボクたちのも光るよ?」
「今さらだよ、センセ」
三人そろって、オレの目の前で自分の武器を光らせてみせる。
「変な機能がついているんだな。ま、明かり代わりにはなるだろうけど」
どこらへんが可笑しかったのか分からないが、オレの言葉を聞いた三人は、しばらくそろって笑っていたのであった。
◇◆◇◆◇
「遅くなっちまった。大丈夫だったか? ずんだ」
クローク部屋の扉を開くと、相変わらず不機嫌そうな緑色のパルフェ――愛鳥ずんだが顔を上げ、オレに向かってケェっとひと声啼いた。
部屋が寒かったのか、ずんだに寄り添うようにしゃがんでいたリーサの漆黒のパルフェ、フィオナの白いパルフェ、ユリーシャのピンク色のパルフェもこちらを見る。
半日こんな狭い部屋に閉じ込めてしまったが、思ったより元気そうだ。
「とりあえずもう遅い。外はすでに真っ暗だ。明日の朝を待って出よう。狭いがここで夜を明かすぞ。ユリーシャ、結界を張り直してくれ。フィオナ、火起こしを。リーサは食事の準備を頼む」
「「「はーい」」」
三人がオレの指示の下、動き出した。
そしてその夜、ずんだに寄りかかりながら寝たオレは、久しぶりに昔の夢を見た――。
◇◆◇◆◇
「残ったのは僕たち二人だけみたいだね。そろって施設行きか。ま、仲良くしようよ」
「うん……」
五歳の時、オレは高速道路のトンネル火災に巻き込まれた。
先頭で起きた衝突事故を皮切りに、次々と後続車が突っ込み、凄まじい火災を引き起こした。
トンネル内部は一瞬で炎の地獄と化し、結果、百人を超える死傷者を出した。
後から聞いた話によると、運転席に座っていた親父と助手席に座っていたお袋は即死だったそうだ。
意識が
事故の一か月後にようやく現地で
だが、同じ
オレは同い年という少年を見た。
「ぼくは
「
「じゃ、てっちゃんだね。よろしく、てっちゃん」
「よろしく……みっちゃん……」
……片平? いやいや、なぜか苗字が違っているが間違いない、コイツは久我だ。でも、なんで苗字が違う?
この時に会っているってことは高校で初めて久我と会ったっていうのは間違いだったってことだ。だが、何でそんな記憶違いが起こっている?
「徹平君、光寿君、行っちゃうよ? 挨拶しなくっていいの?」
「いい! みっちゃんなんか知らないんだから!!」
利発だった久我は、オレが六才の時、里親に引き取られて施設から出て行った。
施設の先生に粘り強く説得されたが、結局オレは、施設にあったツリーハウスに閉じこもって久我の見送りには参加しなかったのだ。
……そうか、久我ってのは里親の苗字だったのか。
記憶から締め出した上に苗字も変わっていたから、オレは高校に入って再会した久我をみっちゃんと認識できなかった。
だから久我は、
結局オレには里親は現れず、何とか
それで何くれとオレに構い、それを嫌ったオレに
何とまぁ、こんな時になって思い出すとはな……。
……ん? 何だ? 誰かがオレを頭を撫でている?
薄っすらと目を開けると、視線の先にオレを見下ろすフィオナがいた。
どうやらオレは、フィオナに膝枕されていたらしい。
おっかしいな。ずんだに寄り添って寝たはずなんだけど……。
「おはよ、テッペー」
フィオナが優しそうな顔でオレの髪を撫でる。
「あ、あぁ、おはよう、フィオナ」
とそこで、オレの胸の辺りで何かがもぞもぞと動く。
「おはよー、センセ」
「ユリーシャ? お前、何でそんなところに……」
ユリーシャが眠そうにあくびをしながら、オレの胸にピトっと寄り添ってくる。
何が何だか分からないオレの背中で、またしても何かが動く。
「んお? 後ろにいるのはリーサか? 何でお前まで」
「旦那さま、寝ながら泣いていたから……」
「泣いてた? オレが? そうか、泣いていたか……」
ゆっくりと起き上がってあぐらをかいたオレに、三人娘がそっと抱きついてきた。
特に何を言うでもなく、ただただ抱きつくだけだ。
何だかよく分からないが……悪くない。
オレは妙に心が温かくなるのを感じながら、しばらく三人娘のされるがままになっていたのだった。