それじゃあ楽しみにしてるわねー、なんて言葉と一緒に送り出された私は自室に戻ると姿見の前でそのワンピースを自身にあてがってみる。
ゆったりしたシルエットは女性らしさを主張しながらも決して主張しすぎることはなく、それでいてあしらわれたレース達が可愛らしさもちゃんと表現している。
服は完璧だと思う。
このワンピースのデザインは私のなかでも気に入ったものだったから。
それでも、その上に乗っている頭は私のもので、それだけが自分のなかでしっくり来ない。
「……やっぱり止めて……いや、言ったからには一回ぐらいは着ないと」
やっぱり無理でした、そう言ってしまおうと何度か頭のなかで考えるも他の子達も形にしてくれると言った柊さんのこと、それにあんなに楽しみにしてくれていることを考えるとやっぱり一度くらいは着てみようと考えを改め直せた。
それに、別に着たくないわけじゃない。
自分の好きを詰め込んで作ったものなのだから当たり前だ。
普段柊さんと出掛ける時に散々そういう感じの服だって着てきた今だから、着てみてもいいんじゃないかと、そう思える。
「……よし」
私は位を決すると袖に腕を通してそのままバサリとワンピースに身体を通す。
サイズ感は、うん、大丈夫だ。
ちゃんと丁度のサイズをしている。
後は……
「……」
スカートの部分を直す為に下に向けていた視線をふと、姿見のほうへ戻す。
そこに立っていたのはいつもとも、柊さんに磨いてもらった時とも違う自分。
今は化粧とかをしているわけじゃないけどその感動は初めて柊さんに磨いてもらった時に近く、でも根本的にはそれとは違う何か。
でもそれは決して嫌なものではない。
「……この子を、着れるときが来るとは思わなかったなぁ、少し……嬉しい」
ふと、口をついて出た言葉が全てを物語っていた。
やっぱり私は、服が好きなんだ。
(っていうか何だよその服ー、お前そういうキャラじゃないだろ、似合ってないって!)
それなのに、あの言葉が急に頭のなかで再生されてどくんと心臓が強く鳴る。
いつだってそうだった。
柊さんに出会う前だって女の子らしい服を何度か試してみたことはあった。
柊さんに磨いてもらうときだっていつでも服を着ようとするとその言葉は付いてきた。
丸で何かを買うと付いてくる別にいらない付属品みたいにいつだって。
今すぐにでもこの服を脱がなけれいけないという衝動に駆られた。
でもあれは過去で、今のことではない。
それに
「……あの人の言葉よりも、柊さんの言葉のほうが、信じられる」
柊さんはそういう服を着たり、化粧をすれば今回はどこがどう良いのか、今回のコンセプトはなんなのか、そんなことを嬉しそうに全て私に教えてくれる。
ファッションプレスチームの将来を期待されている、そんな人がだ。
どちらの言葉を信じるのか、そう迫られれば今の私は迷わず柊さんを選ぶだろう。
「……よし、柊さんのところに戻ろう」
私は姿見の前から退くとまだほんの少しだけある不安をかき消すように一人ごちるとドアノブに手をかけた。
柊さんの言葉を信じる。
柊さんの言葉のほうが正しいのだ。
そう、思うと心のなかにあった重い重い枷が一つだけ、カチリと音を立てて落ちたような気がした。