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第16話 野宿

 その後なんやかんやあって無事にパーティに一時加入を認められたので、我は勇者候補のパーティと一緒にダンジョン攻略をすることになった。


 町で必需品を買いそろえ、ギルドに調査を要請されたダンジョンに出発することに。場所は徒歩で二日はかかる離れた場所にあるダンジョンのようだ。


 全力で走れば我一人なら半日もかからずすぐに着けるんだが、そういうわけにもいくまい。我一人でのダンジョン調査は認められておらんからな。一人でダンジョン調査するには、3以上のギルドライセンスが必要だとか。


 ダンジョンに向かう途中、何故ギルドがダンジョンの調査を急いでいるのかミライたちが説明してくれた。


 どうもダンジョン周辺で、凶悪な魔物が目撃されたらしい。すでにいくつかのパーティが調査に向かったが、誰も帰ってこないという。かなり危険な状態かもしれないので、実力と資格のあるパーティに調査してほしいということらしい。


 危険度を考慮し、ランク1ながらすさまじい魔物討伐量をこなす我に、ギルドは参加してほしかったのだろう。なので我と彼女たちにパーティを組ませたかった、と。


 ミライたちと我以外に、都合のつく実力者がいなかったのも大きな理由のようだ。


 試験でかなり好成績を出してしまったせいで、ギルド内で我の実力もかなり高く評価されているらしい。


 うーむ、目立たぬつもりだったのだがな……。




 さて、ダンジョンまで二日かかるということはつまり、途中で野宿せねばならんということだ。日が落ちる前に、野宿に適した場所があったので今日はここで休むことに。


「あんた、荷物を全然持ってないようだけど、まさか私たちの荷物を当てにしてるんじゃないでしょうね? 言っとくけど、絶対に貸さないから!」


 と、泣き虫低身長魔導士のマホがいう。


「む? ああ大丈夫、野宿の用意はしてあるぞ」


 そう言って、我はポケットからキャンプ道具を次々と取り出す。


「なっ!? えっ!? それまさか、マジックバッグ!?」

「うむ」


 本当は違うのだが、我の影魔法だというわけにもいかん。あれは使える者が超希少で、ほぼ我オリジナル。それなら希少であるが、いくつか数が確認されているマジックバッグであると言ったほうが良いだろう。


 目立たぬために、影魔法を使わずに荷物を運べばよかったんじゃないかって? 便利な影魔法が使えるのに、今更多くの荷物を背負って移動するのが嫌だったのだ。それに、言い訳はちゃんと考えている。


「な、なんでそんなもの持ってるのに冒険者なんかやってんのよ!」

「べつに良いではないか」


 マジックバッグは超高級品。売れば一生遊んで暮らせる代物だ。そんなものを持っているにもかかわらず、冒険者という人気のない職業に就くというのはまずない。超上位の冒険者は結構持っているみたいだがな。先代魔王が倒した冒険者たちの多くは持っていたようだし。ただ、新人である我が持っているのは不自然だろう。


「実はこれ、兄の形見なのだ。兄は超一流の冒険者だったのだが、行方不明になってな。この形見だけ返ってきたのだ。我は兄の行方を探す為に冒険者になったのだ」

「そう、だったの」

「うむ」


 我の作り話を聞いたミライたちは、少しうつむいてしまった。

 なんだか、妙にしんみりした雰囲気になってしまったな。もっと明るい言い訳を考えればよかったか。まあ今更嘘でしたともいえないので、このまま嘘をつきとおすが。


「そうか、それで君は少しでも冒険者ランクを上げるために、無茶なハイペースで魔物を狩っていたのか」


 いや、全く無茶などしてなかったが? むしろ、結構手を抜いていたが……人間基準では、我はかなり無理をして魔物を狩っているように見えたようだな。


 そんな話をしている間に日が落ちてきたので野宿の準備をすすめることに。


 我は自分が快適に過ごせるようにテントを張り、さらに魔法で火を起こす。テーブル、椅子、調理道具を出して、準備完了だ。


 テーブルの上に食材を用意し、調理を始める。


 ミライ達も火は起こしているが、彼女たちは保存食をかじるだけのつもりのようだな。


 まあ調理道具はかさばるからな。そんなもの持つくらいなら保存食を多めに持った方が良いという判断なのだろう。我は暖かくておいしい食事がとりたいから、ここで簡単な調理をするつもりだが。


 何があるかわからん外で時間のかかる煮込み料理などをつくるわけにもいかん。今日作るのは、焼きそばだ。これなら手早く簡単に作ることができる。


 町で食材を仕入れているときに、なんと麺を見つけたのだ。この世界の麺の原料がなにかは分からないが、少なくとも見た目は我のよく知る麺そのものだ。まだ食べたことが無いのでこれで味が全然違ったら困るが、多少麺の味が違っても焼きそばがまずくなることはあるまい。


 適当に野菜と肉を切り、炒める。そこに麺を入れて、味付けするだけで完成だ。


 一応味見をしてみるが、まあ悪くはない。調味料や素材が前世の時とは違うので完全再現とはいかぬが、これはこれで旨い。


 そうして味見をしていると、俺を見つめる視線が三つ。


「すまないが、私たちにもそれを分けてくれないか?」


 と、ミライが言う。


「わ、私の高級保存食と交換してあげてもいいわよ?」


 と、マホが。


 そして、無言で皿を差し出してくる全身に鎧を着ている人物。


 おいおい、君は食事中も兜を外さないのか。この鎧を着ている人物、我は今日一日ずっと一緒に居たが未だに顔も声もしらん。よくミライたちはこの人物とコミュニケーションが取れているよな。


 やれやれ、仕方ない。どうやらもう一度焼きそばを作る必要がありそうだ。

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