この人は一体誰なの…!?
金髪のロングヘアーに青い瞳。
小柄で可愛らしく、思わず守ってあげたくなるような保護欲を掻き立てられる。
年齢は私と差程変わらないくらい。
何処かの貴族令嬢と言うよりは気品さが漂い、まるで姫君というイメージだ。
「ねぇ、お兄様。この方がお兄様の婚約者様なのでしょう?私にも紹介して下さらない?」
「ああ。そうだな」
今お兄様って言ったわよね…。
もかしてこの方は……。
「紹介する。彼女はアリス·フィールド。私の婚約者であり、後にこの国の王妃となる者だ」
「お初にお目にかかります。クラリス·パシヴァール。クライドお兄様の義妹でこの国の第一王女です」
「挨拶が遅くなって申し訳ございません!アリス·フィールドです」
私は慌ててクラリス様に頭を下げて挨拶をした。
完全に出遅れてしまった。
本来ならば王族に対して自分から挨拶をしなければならないのに。
貴族社会に疎いとはいえ、クライド様に妹がいることは今まで知らなかった。
実家で働き詰めの毎日に追われて街ではクライド様の噂で持ち切り。
王女の話なんて聞いたことがなかった。
(それにしても……クライド様にこんな素敵な妹君がいたなんて……)
「そんな…顔を上げて下さい。私、お兄様の婚約者様にお会い出来て本当に嬉しいです。まさかこのような素朴で素敵な方だとは…」
「あ…有難うございます」
クラリス様は笑顔で棘があるような言葉を言った。
もしかして…私彼女から嫌われているのだろうか……。
でも、彼女と会ったのは今日が初対面だし、彼女に嫌われることをした覚えもない。
「クラリス…。彼女を軽んじることは私が許さんぞ」
ジロっと冷たい視線を向けるクライド様にクラリス様は怯むことはなく彼の腕にくっつき、甘えるように言う。
「誤解ですわ!お兄様。私はアリス様のこと素敵だと褒めていただけです。だってお兄様、昔はいくらお父様達が他の令嬢と婚約を進めても断り続けていたではありませんか。だからお兄様が見初める方がまさかこんな可愛らしい方だと思わなくって……」
「離せ」
「何故ですか?妹の私がお兄様に甘えてはいけないの?」
クライド様はクラリス様の腕をほどく。
私の目から見ても兄妹の距離感的に近すぎる。
まるで恋人のような近さだ。
「私は自分の妻以外の者に気遣うつもりは毛頭ない。お前も王女ならいつまでも私に付き纏わず王族としての振る舞いを身につけろ」
「お兄様……」
「行くぞ……」
クライド様は私の肩を抱き、私を連れてその場から歩き出した。
チラッと後ろを見るとクラリス様が私を睨んでいた。
見ず知らずの女から兄を取られてしまったというブラコンの嫉妬か。
あるいは……。
「あの…クライド様。宜しいのですか?」
「何がだ?」
私はクライド様にそう訊ねる。
しかし彼は意味が分からないと言わんばかりの態度をした。
「王女様にあのような態度はあまりにも…」
「私は嘘は吐かない」
クライド様は私を見つめて告げる。
「先程も言ったとおり、私はお前以外の女に優しくするつもりはないし、興味もない。それが例え義妹であったとしてもだ」
彼の嘘の無い言葉。
それは真っ直ぐで本心からなのだと感じ取れるものだ。
「ですが…私は……」
私はクライド様から視線を逸らした。
そうしなければ彼に捕らえられてしまう。
そんな気がしてしまったから。
会場の広間の中心に辿り着いた。
「あのクライド様…?」
「お前をここにいる者達に私の婚約者として紹介する」
「えっ…?」