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第15話 夜会のお披露目

確かに話は聞いていたけれど今ここで!?

突然の言葉に私は内心驚いてしまう。


「心配するな。お前はいつも通りに振る舞えばそれで良い」

「いつも通りって……」


困惑する私を他所にクライド様は会場に集まる貴族達に向けて言葉を発した。


「皆の者。今宵の夜会に集まり感謝する。気付いた者もいると思うがこの場で私の伴侶となる婚約者を紹介する」


クライド様は私の肩に手をそっと置いた。


彼から触れられた肩に気恥ずかしくなり、少しだけビクッと身体が跳ねた。

彼の行動は周囲に私が国王陛下から寵愛をされていることを示すものだ。

そうすることで貴族達は例え私が没落貴族の娘だったことで馬鹿にすることは出来なくなってしまう。

これはクライド様が私のことを思っての行動だと理解する。

だとしても気恥しさを感じるのは仕方ないことかもしれない。


(今は集中しないと……!)


私は気を取り直すように前を向く。

周囲にいた貴族達は私に視線を向けた。


好奇心、嫉妬、王妃としての器。


全てが入り交じっているように感じ取れた。

このような場に立つのは怖い……。

まるで何かに押し図られている。

そんな気分にさえ陥ってしまう。

だけど私はもう逃げないと決めた。


私は前を見据えて静かに口を開いた。

「お初にお目に掛かります。この度クライド殿下の婚約者となりました。アリス·フィールドと申します。至らないところはあると思いますが陛下を支え、この国に尽力を尽くしたいと思っております。どうぞ宜しくお願い致します」


(間違ったところはなかった?ちゃんとマナー通りに挨拶は出来たのかしら…?)


内心心臓がドキドキした。

このような場で挨拶するのは初めてだし、失敗したらクライド様の顔に泥を塗ってしまう。

それだけは何がなんでも避けたかった。


「何て堂々とした振る舞いなの」

「どんな女性かと思ってはいたが、流石は陛下に選ばれただけのことはある」

「礼儀を弁えられたお方だ」


貴族達からの評判も上々な様子で私は内心ほっと息を吐いた。


(良かった。何とかなったみたいね……)


その後。

クライド様からの婚約者宣言をされたあと。

私はクライド様の隣で貴族の方々と言葉を交わし、挨拶をし続けて、やっと終えた。

王妃になると夜会やパーティーの度に毎回挨拶周りをしなければならない。

これはちょっと疲れてしまうかもしれない…。


ふと周囲を見てみると会場の柱の近くにヨルが立っていた。

クライド様の従者である彼は主君を守る為に離れた場所で警護をしているみたいだった。

そんな彼へと他の令嬢達はヨルに熱い視線を向けていた。

ヨルはその視線に気づいていないようだ。


(そうだった…。ヨルは昔からモテるんだった)


私はふと昔の彼のことを思い出した。

そんなことを考えていると急に会場内に優雅な曲が流れ始めた。



クライド様は私に手をスッと差し出した。


「アリス。手を」

「はい…」


婚約者として公表されてここで断る訳にはいかない。

私はクライド様から差し出された手にそっと手を添えて彼とダンスを踊る。

社交界でファーストダンスを婚約者と踊ることが決まっている。

二回目の相手は特に決められてはいない。


(足を踏まないように気をつけないと…!)


私は気をつけてステップを踏む。

そんな私にクライド様は言った。


「間違っても構わないし、例え足を踏まれても私は気にしない。私がお前をリードしてやるから気にするな」


まるで見透かされたように彼に告げられる。

彼の些細な言葉で少しだけ緊張が解けた気がした。


(全部分かっていたんだ……)

「有難うございます……」


私はそう答えた。

クライド様は私の腰を支えていた手をぐっと力を入れ、引き寄せるように私をリードしていく。


「ダンスは初めてだったか」

「ええ…」

「筋が良いな」

「恐縮です……」


クライド様から褒められるなんて思いもしなかった。

彼に迷惑を掛けないように必死で練習を頑張って来て良かった。

心から嬉しく思ってしまう。


「正式にお前を婚約者として周囲に公表した。後は式だけだな」

「えっ…?」


「式は近いうちに上げるつもりだ。お前もそのつもりでいろ」

「それは早急ではないでしょうか?」


婚約を発表した後に結婚!

普通ならば一年、半年後に婚姻をする筈なのに展開が早すぎる。

私は驚きのあまりに彼に抗議した。

しかし、クライド様は私の意見など聞く耳を持たない。


「早くお前を私のものにしなければ他の男に取られてしまうからな」


彼はそっと私の耳元で囁いた。


「~~~~!」


私は思わず顔を赤くしてしまう。

これはいきなり彼が顔を近づけたからであって決して恋なんかじゃない。

私は内心否定をする。


しかしクライド様は私の赤くなった顔を見てふっと笑った。


「満更でもなさそうだな」

「そんなことありません!」


否定する私にクライド様は静かに言った。

「アリス。私に合わせろ」

「えっ…?」


私は驚きの声を出しながらも彼のダンスのステップに合わせて、曲のラストと合わせてターンを決める。

気づいたら周囲から拍手が送られていた。

気付かぬうちに注目をされていたみたいだ。


「とても素敵なダンスでしたわ!」

「まるで絵画を見ているようでした」


貴族の女性達は私に近づき口々に褒める。

「有難うございます」


私は謙遜しながらお礼を口にする。


「アリス様!」


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