翌日の朝。
朝食を済ませて出立の準備を終えた私達は馬車でアクリウトに向かっていた。
馬車の中には私、クライド様、ヨルの三人が乗っていた。
(き…気まずい……)
クライド様とヨルの二人は無言で言葉を交わさない。
どうしてこんなことになったのだろうか…。
狙われているとはいえ、私だけ別の馬車で行った方が気が楽なのに……。
「お前は気が利かない男だな。主である私の馬車にお前まで乗りこむとは」
「いえ、俺はアリス様の護衛騎士なのでアリス様をお護りする役目があります。従ってアリス様と共に行動するのが俺の仕事です」
「減らず口を…」
ヨルの言葉にクライド様は嫌そうに呆れた顔をする。
私は話題を変えるために馬車の窓の外を見ながらはしゃぐように言った。
「あれが海ですか!素敵ですね!」
コバルトブルー色の海が広がる。
水面が太陽にキラキラと照らされてとても美しく見えた。
本を見て海のことを知ってはいたが実際目にしたのはこれが初めてだ。
王都からアクリウトまでの道なりは馬車で3時間程。
徒歩だったら半日掛かってしまう。
元々パシヴァールは海に面した土地が多い。
それだけではなく緑豊かな土地も存在する。
他の国ならば輸入で物資を運んだりするのだが、パシヴァールでは自国で賄える部分が多かった。
「お前は海に来たことはなかったのか?」
「はい。王都自体から出たことはありませんので初めてです」
「アリス。貝殻って知ってるか?」
「貝殻?」
ヨルの言葉に私は不思議そうな顔をする。
それは一体何なんだろうか…?
ヨルは私に説明をする。
「貝殻っていうのは海辺に落ちている貝の殻なんだよ。綺麗でアクリウトや隣国では女性のアクセサリーとして加工されているんだ」
「凄い!そんなものがあるんだ」
「行ってみるか?」
「えっ!良いの!?」
私はヨルの言葉に前のめりになってしまう。
そんな珍しい物があるなら行ってみたい!
私はハッと思い出し、困った表情をした。
「でも、今回は視察で来ているから。気持ちだけ受け取っておくよ。有難う」
「別に視察が終わってからなら問題は無い。お前の好きにするといい」
「あ、ありがとうございます」
素っ気なく言うクライド様に私はお礼を言った。
(貝殻かぁ…。どんなもの何だろう。アクセサリーになるくらいだから、きっと綺麗なんだろうな。楽しみ)
私は期待を胸に膨らませる。
もちろんクライド様狩り任せられた視察は精一杯頑張るが楽しみが出来た。
アクリウトの到着が今から待ち遠しい。
「ただし、海には私がアリスと行く。ヨルお前は留守番だ」
「いや、俺がアリスと約束したから俺が行くに決まってるだろう」
「彼女は私の婚約者だ」
「俺はアリスの護衛騎士なんで」
二人は視線をバチバチに燃やす。
せっかく話題を変えたのにこれでは逆戻りだ。
困った私は二人に遠慮がちに言った。
「なら…私一人で大丈夫で……」
「「それは却下だ」」
クライド様とヨルの二人は私の言葉を遮り、言ったのだった。
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三時間後。
私達は無事にアクリウトに到着した。
水の都というだけあって街中は湖が多く、街の奥に行くとそこには幾つも枝分かれしている川沿いがあり、人々は小舟で移動している者が多くいた。
(分かってはいたけど…やっぱり王都とは違うんだ……)
「アリス。こっちだ」
クライド様に呼ばれて私は彼の後ろを着いて行く。
辿り着いた先は大きな屋敷だった。
おそらくだが貴族が所有する屋敷よりも大きく、豪華な造りだった。
「ここは私が所有する屋敷のうちの一つだ。この街に視察に来る時はいつもここを使っている。
長く馬車に座って疲れただろう。ここで暫く休もう」
「ありがとうございます…」
「俺が前来た時は休ませてもくれなかったのに。陛下は本当アリスに甘いよな」
「お前は体力バカだから問題ない。行くぞ」
「あ、あの……」
クライド様はヨルに容赦なくバッサリと言ったあと、私を屋敷の方へとエスコートする。