でも考えすぎかもしれない。
彼女は私の護衛騎士だ。
国王陛下に逆らうような真似はしないはず。
私は考えることを止めてアストレアさんに向き直った。
「予定のこと教えてくれてありがとう。私全く把握出来ていなかったから助かりました」
「いえ、私も今朝カミラ様にお聞きしただけですので。それにしても国王陛下はアリス様のことを余程気に入ってらっしゃるのですね」
「いえ、そのようなことは…」
「でも私はあなた様にはヨル先輩の方が似合うと思います。彼はあなたのような素敵な方は勿体ないと思いますので…」
「えっ…」
「これは騎士ではなく、一個人の私の気持ちになります。さぁ、アリス様本を選びましょう」
「ええ……」
アストレアさんはにっこりと笑ってそう言った。
私は彼女の言葉に少しだけ驚いてしまいながらも、彼女に頷いた。
****
図書室で本を選び、自室に戻る最中の廊下でヨルとバッタリと会った。
「よう、アリス」
「ヨル…」
ヨルは私の後ろにいるアストレアさんの顔を見てハッとした表情をして言い直した。
「図書室に行かれていたのですか?本当に昔から本がお好きなのですね」
「ヨ…ヨル…。もういつも通りに話してもらっても良いから…。お願い……」
私は彼の口調に対して思わず笑いを堪えてしまう。
きっと彼は部下の前だから私に失礼が無い丁寧な言葉を使っていた。
いつもなら貴族達相手が殆どなのだが、ヨルが自分の見栄の為だけにそんなことをするのが違和感で少しだけ可笑しく思ってしまった。
いつもならどんな相手にでも彼は物怖持せずに話してしまうから。
「ふふ。ヨル先輩…。私に気にせず普段通りにアリス様にお話されて大丈夫ですよ。団長や他の者達に話しませんので…」
笑いを堪えて言うアストレアさんにヨルは少しだけ悔しそうに顔を歪めた。
「お前らなぁ……」
ヨルは頭をガリガリ掻いて言った。
「たっく…。何も笑うことないだろう。そうだな。そうするよ。俺もその方が気楽だしな」
「その書類…。もしかしてそれってクライド様に渡すものなの?」
「ああ。宰相に頼まれてな。そもそも国王陛下の護衛騎士だが、あの人強いから俺が護るより自分である程度片付けてしまうんだよなぁ…。それでたまにこうやって、小間使いにされたりするんだよ」
「そっか。ヨルも大変なんだね…」
「別にそうでもないんだけどな」
ヨルは苦笑交じりで言った。
それに対してアストレアさんはヨルに話し掛ける。
「先輩。私この後用事を思い出しましたのでアリス様を部屋に送り届けてもらっても良いでしょうか?」
「別に構わないが」
「ありがとうございます。ではアリス様用が終わったらすぐに戻りますので」
「ええ」
アストレアさんはそう告げるとその場から去って行った。
「さて、行くか」
「うん」
ヨルに促されて私は歩き出した。
彼とこうやって二人で歩くのは何だか久しぶりな気がする。
ヨルが護衛騎士を外れてそんなに日は経っていないはずなのに。
毎日ずっと一緒にいたからなのかもしれない。
「アストレアとはどうだ?上手くやれてるか?」
「まだそんなに経ってないのに分からないよ」
「それもそうだな」
ヨルは思い出したように私に話し掛けた。
「そういえばお前さっきクライド様の誘いを断ったらしいな」
「どうしてそんなこと知ってるの!」
驚く私にヨルは平然とした態度で答える。
「クライド様のスケジュール管理しているのは俺だからな。仕事が空くように調節させられたんだろう」
「護衛騎士なのにそんなことまでするんだね。凄いよ…」
私は思わず感心してしまう。
「なぁ、アリス…」
ヨルは当然、その場に足をとめて真剣な顔で私を見つめた。
彼の真剣な眼差しに見つめられて私は思わずドキリとしてしまう。
「お前は王妃になる気はあるのか?」
「えっ…?」
「クライド様は…国王陛下は妻を迎え入れて世継ぎを残さなければならない。国王はこの国を護る責務と同時に自分の子を残さなければならないことが決まっている。だからこそ王妃にもっとも近い婚約者が大切にされているんだ」
ヨルは一度言葉を切り、続けた。
「もしお前が王妃になってしまえばお前は国王陛下を支え、王妃として国の民の幸せを考えなければならない」
「わかっているわ。そんなこと…。でも、どうして今さらそんなことを言うの?」