翌日。
私は王宮内の図書室に私はいた。
王宮の図書室は豪華な造りになっており、王族、貴族達も利用することからか、ありとあらゆる本が揃っている。
中でも閲覧許可が必要な重要な書物を初め、王族しか閲覧出来ないといわれている書物が存在するくらいだ。
ここでは私はいつも神話、古語、翻訳などを読み漁り、たまにカミラが勧めてくる恋愛小説を読んでいた。
「いつ見てもここは凄いわね…」
本を選びながら周囲の建物に私は圧倒されてしまう。
豪華な調度品が飾られており、用意された机や椅子も材料は木材で出来ているが端々に模様が入っている。
さすが王宮内の図書室だ。
作りが違う。
「次はどの本を読もうかしら…。この前は古語の本を読んだし、気分を変えて神話のお話とかも良いかも。こっちはまだ三冊ぐらいしか読んだことがなかったから」
私は本棚から本を選ぶ。
そんな中、コツと足音が聞こえると共に声がした。
「ここにいたのか」
「クライド様」
「随分探したぞ。まさかこんなところにいるとはな」
「ええ。何も予定が無い日とかは良くここに本を借りに来ているのです」
「外に出て買い物には行かないのか?金の心配なら気にする必要はない。好きなだけ使うと良い」
「あ、いえ…私はドレスや宝石よりも本が好きなので、こちらを利用しているだけなのです」
私はクライド様に慌てて言う。
確かにクライド様から何か欲しいものがあれば何でも言えと言われているのだが、自分の金銭ではない為使うにも気が引けてしまう。
それに私はドレスや宝石よりも本が好きなので、こうやって図書室を利用させてもらえるだけでも有難いのだ。
「そうか。お前のことを理解したつもりでいたがまだ私は理解していなかったようだ」
クライド様はふっと柔らかく笑い、それを見て私は思わずドキリとした。
「あ、あの私に何かご用でしょうか?」
「ああ。たまにはお前と出掛けたいと思って誘いに来たんだ。ここ最近忙しかったからな…」
(これはデートのお誘い…!)
クライド様とは以前一度街に出掛けたことがあった。
それは彼の強引な手段によってだ。
だけど今は一方的ではなく私に訊ねてくれている。
最初に比べて少しずつ彼は変わって来ている。
それも良い方向へと。
「明日は予定もありませんので是非お誘いお受けいたします」
「そうか。わかった」
私の返答にクライド様は僅かにほっと嬉しそうな顔をし、すぐに平然とした顔をする。
今までは分からなかったけれど、どうやら彼はあまり感情を表に出すのは苦手なのかもしれない。
「明日はどちらの方に行かれるご予定ですか?」
「そうだな…」
クライド様が言いかけたその時。
「国王陛下。失礼します」
離れた場所で控えていたアストレアさんがコツと靴の踵を鳴らし、クライド様に近づく。
そして彼女は真剣な表情で彼に言った。
「申し訳ございませんがアリス様は明日ご予定がありますので、また日を改めて頂けるようお願い致します」
「アストレアさん。私別に明日予定はなかったはずだけど…。伯爵令嬢ステラ様、シル様のお二人からそれぞれお茶のお誘いが来ております」
「そうか。仕方ない。では明後日はどうだ?」
「明後日は侍女長が手配したデザイナー様がお見えになられます」
「どうしてデザイナー様が?私ドレスの注文なんてした覚えがないのだけれど…」
「アリス様のドレスは少々種類が少ないことからか、新しくドレスを調達することになったのです」
「今のままでも大丈夫だと思うけれど…」
「いけません。あなたは国王陛下の婚約者様なのです。これは必要なことなのですよ」
「そうだな。ではまたスケジュールを確認したら伝えに来る。邪魔して悪かったな」
「いえ…」
クライド様はその場を去って行った。
私は少しだけ違和感を感じる。
お茶会やデザイナーとのドレスの打ち合わせはどれも一日がかりではなく、長くても半日程度だ。
スケジュールを調整しようと思えば可能なはず。
私が調整をする前にアストレアさんはクライド様にキッパリと言った。
国王陛下であるクライド様の予定に合わせるのが通常なのだが、アストレアさんはそれをやめた。
(もしかして…。何かあるのかしら…?)