6. パプリカ
1時間後。やっと最後の一つを作り終えると、何回か往復してくれたレイダーさんが戻ってきてそれを村に運ぶことにする。
「これが最後か?」
「はい。これは私が魔法で持っていきますよ。運搬ありがとうございます」
そして村に戻る途中、レイダーさんは私に聞いてくる。
「アイリーンの魔法は凄いな。まさかこれ程とはな。さすがは元宮廷魔法士だな」
「そんな事ないですよ」
そういえば、
「アイリーン。お前さんは『なんでも屋』の事をどう思う?」
「え?どうって?」
突然何を言ってるんだろう。なんの話?レイダーさんの質問の意図がわからず聞き返す。しかし、その答えを聞く前に村は見えてきた。私たちは村の広場へと向かう。するとそこには、村長をはじめ村人たちが大勢待っていた。私が魔法で作った水魔法の大玉を珍しそうに見ている。
「あっアイリーン!早く早く!まったく待ちくたびれたよ!それじゃこの水魔法の大玉を貯水タンクにコーンのようにやっちゃって!」
コーンのようにやる?あーなるほど。確かに水の塊を転がすより、筒状の方が楽だもんね。……とか無理やり自分が納得するように、こじつけたけど。どうせ意味はないよこの野菜娘の言葉なんて。
私はその水魔法の大玉を魔法で運び貯水タンクに入れ始める。そして満タンになり次のタンク、井戸、水路へ水を与えていく。結局10個の大玉を全部入れ終わった時には日が落ち始めていた。もう夕方か……でもこれで一安心よね。
それを見た村のみんなに感謝された。本当に良かった。今日は疲れた。特に魔法を使いすぎた気がする……今までこんなに魔法を使ったことないかも……帰ったらすぐに寝よう。そう思いながら帰路につく。
その帰り道、レイダーさんとエイミーはずっと私の方を見ていた。何かやっちゃったのかしら……それとも何かおかしかったのかしら?
家に帰ると、食事当番のミリーナの夕食が出来ていた。今日のメニューは、パンとスープとサラダ、それに肉のソテーだった。
「わぁ……美味しそうね。今日は何度も魔法を使ってお腹すいちゃったわ」
「アイリーンちゃんお疲れ様!聞いたよ?巨大な水の玉を魔法で作ったんでしょ?凄いな~!」
ミリーナにそう言われる。悪い気は正直しない。少し照れてしまうが、素直に嬉しかった。久しく人に褒められたりしていなかったものね
食事が終わると、自分の部屋に戻ってベットに飛び込む。はぁ~……今日は色々あり過ぎたわ……明日は何もないといいな~……とか『なんでも屋』の窓を掃除してるときは、暇で暇でしょうがなかったのにそんな感想すら出てくる。
新しい生活……まだ初日だけど私は今、必要とされていることが嬉しいのかもしれない。そう思って目を閉じようとした時、ドアがノックされる。誰だろう。ドアを開けるとそこにはエイミーがいた。
「あれエイミーどうしたの?」
「もう!ひどいじゃないアイリーン。あんなパプリカみたいなことして!どういうつもりなの!」
いきなり怒られる。パプリカみたいなこと……私怒られてるんだよね?一体なんのことだろう。
「あんな凄い魔法使えるのにおかしいよ!宮廷魔法士をクビになるのは!」
「エイミー……私は本当にクビになったの。それは私が弱いからじゃない。私が平民出身だからなの……だから……」
「え?そうなんだ。パプリカみたいなことしてないんだね?良かった。それならいいや!お休みなさいアイリーン!」
すると勢いよくエイミーは部屋を出ていった。今のは何を言いたかったのだろうか。まぁいいか。とにかく今は眠たい。そのまま眠りについた。
翌日、朝起きると身体が重いしだるい……まぁ昨日魔法を使いすぎてしまったからしょうがないけど。
身支度を整えてリビングへ行く。するとすでにレイダーさんが朝食を食べていた。挨拶をして私も席に着く。するといつも通りミリーナが話しかけてくる。
「ねぇねぇ。アイリーンちゃん。もうここの生活慣れた?」
「まだ今日で2日目よ?正直わからないわ」
「そっか~!でもすぐに慣れると思うな。なんと言ってもこの村は良いところだし。みんな優しいし、エイミーのお野菜や果物は美味しいし!」
確かにこの村の人達はとても優しくしてくれる。それに、私が宮廷魔法士だと知った後でも、何も変わらず接してくれている。最初は色々驚いたけど、今となってはこの村の一員になれたら……と思っている。そんな事を考えているとレイダーさんが私に話しかける。
「アイリーン。お前さん今日も店だろ?ルーシーに任せて、今日はオレに付き合ってくれないか?」
「私ですか?何か私で役に立ちますか?力には自信ありませんですけど……というより、そもそもどこに行くんでしょうか?」
「昨日の山奥の場所だ」
えっ!?︎またあの場所に行くの? そして準備をして、私たちは村の外に出てきた。外に出るなりレイダーさんは私の方を見て言う。
「さて、山狩りに行こうか」
山狩り?それって魔物討伐では?そんな不安を抱え私はレイダーさんと共に歩いていくのだった。