9. 野菜を助けます
私は今、朝早くから家の裏手にある畑に来ている。それはもちろんあの野菜娘のお手伝いをするためだ。あとは朝食のサラダにする野菜を収穫するためにでもある。これがここ最近朝の日課になっている。
「ねぇアイリーン!バケツに水汲んできて!」
「ふわぁぁ……はいはい」
私はまだ覚醒してない頭で返事をし、バケツを両手に持って近くの水路へ行くふりをして水魔法で水をためる。この程度の量ならすぐたまるからね。ちなみにこれはズルとかじゃない。私の特技なんだから魔法は。効率良く仕事をしているだけだから。そこへミリーナとロイドがやってくる。
「おはよ~……」
「おはようございます。エイミーさん、アイリーンさん」
「おはよ!ほらほらミリーナ元気だそう!萎れかけのキャベツみたいな目してないでさ!2人ともこっちだよ!手伝って!」
萎れかけのキャベツみたいな目って……どんな目よ?と思うかもしれないけど私もわからない。でもそんな感じの目なんだと思う。そしてミリーナとロイドはそれぞれの畑から野菜を収穫するエイミーのお手伝いをしている。
「そうだ!アイリーンはそろそろ畑仕事慣れてきた?」
「まあ。だいぶ。それにしてもこんなに沢山の種類を育てているなんて驚きね?しかも凄く美味しいし」
「ふふん。誉めても高級ラディッシュにはなれないぞ?アイリーン。まだまだエイミーのお手伝い歴は浅い。頑張りたまえ!はっはっは!あっあっちの畑も見てこないと!」
誰も高級ラディッシュになんかなりたいと思ってないのだけどね……でも畑仕事は意外に楽しい。身体を動かした後の疲労感もまたいいのよね。王宮の宮廷魔法士の時は、大体勉学や研究が多くてこんなに身体を動かすことも今まではなかったし……そんな事を考えているとあの野菜娘の悲痛な叫びが私に聞こえてくる。
「あーっ!また枯れてるよぉ……可哀想!」
枯れてる?ああ、あそこの野菜は確かレッドオニオンの苗が植えられているところか。
「どうしたのエイミー?」
「あっ!アイリーン……それがね。昨日の雨のせいかも。植えた場所に水が溜まってたみたいで。それで根っこまで腐っちゃったのかなって……せっかく頑張って育ってたのに可哀想だよ……」
なるほど。そういう事だったのか。私が確認すると確かに土の表面だけじゃなく、葉っぱにも所々茶色くなっている部分がある。これは病気かしら?確か前に本で見たことあるわね。私はその畑の土に手を当てる。うーん。これはなんとか出来そうだな。あっ確かミリーナは治癒魔法士だったよね?
「ねぇミリーナ。ちょっとお願いしたいんだけど。この土、ミリーナの治癒魔法で何とかならないかしら?おそらくこれは水が原因じゃなくて、この土よ。栄養がほとんど消えてるわ。」
「えっ?うん。やってみるね。」
ミリーナは目を閉じて何かに集中し始める。しばらくすると彼女の手が淡く光り始めた。あれが治癒魔法か。これでとりあえず大丈夫だろう。
「終わったよ。アイリーンちゃん。多分もう大丈夫だと思うよ。」
「ありがとうミリーナ。エイミー、これでレッドオニオンは大丈夫だと思うわよ。」
そう言うと彼女はパァッっと明るい笑顔になる。ほんと表情豊かよね。それから家に戻り私たちは朝食の準備を始めた。もちろん今日も野菜たっぷりメニューである。今朝の献立はサラダにスクランブルエッグ、それとパンとスープといったところだ。食事をとっているとミリーナが私に聞いてくる。
「あのさアイリーンちゃん。なんで土が原因だってわかったの?」
「葉っぱが茶色に変化してたから。あれは水ではなく土が原因だと見て分かるサインなの。それに私はマナの感知もできるし、あの時一応土のマナを確認したからね。」
「へぇー。そうなんだぁ。やっぱりすごいねアイリーンちゃんは!」
「別にすごくはないよ。それより食べないと冷めちゃうわよ?」
そう言って私たちは食事を再開させていく。そういえばあれが治癒魔法か。間近で見るのは初めてだったけど、手に魔力をためるのか……。そしてそれを対象者に流すことで治すことができる。私が使うような精霊魔法とは違って、結構繊細な作業だし難しいと思う。でもミリーナはそれを簡単にやって見せた。こんなに若いのにすごいわね。
「ごちそうさま。美味しかったわ。ねぇミリーナ。後で時間があったら教えてほしいことがあるんだけどいい?」
「えっ?あたしに?アイリーンちゃんが?」
「そうよ。あなたによ。ダメかしら?」
「全然!むしろ大歓迎だよ!あたしもアイリーンちゃんに聞きたいことがあったし!それじゃあさ、今日はあたしに付き合ってくれない?いいよね?」
私は了承する。お店はどうせ誰も来ないし、いつもルーシーが昼寝してるくらいだし任せておいても大丈夫だろ。というか他のみんなはいつもお店にいないし。