10. お喋りしてます
そして準備を済ませ、ミリーナの元に向かう。向かった先は山を下って南にある『リスト』と呼ばれる街の市場だった。私は正直王都以外の場所に行ったことはほとんどない。少し楽しみにしている私がいる。すると気を使ってミリーナが私に伝えてくれる。
「あっそうだ。ここは王都の反対側だから誰とも会わないと思うから安心してアイリーンちゃん。」
「ありがとう。」
本当に気の利く子だなと思った。それから二人で歩きながら話をしていく。
「それであたしに教えて欲しいことって?」
「いやミリーナはいつも何してるのかなって思って?」
「あたし?あたしは『なんでも屋』の仕事がないときは村の人とお喋りしてるよ。楽しいよね!」
お喋り?ならお店を手伝って欲しいのだが。でもやることもないか。そんな話をしながら歩いていると市場にたどり着く。ここは凄く賑やかなところだ。色々な露店が並び、人も多く活気がある。そんなことを思いながらミリーナについていくと、彼女は一つの店で足を止める。
「ここだよ。うわあ…相変わらずボロボロだなぁ?仕方ないけど、さっ入ろうアイリーンちゃん!」
「え?ここお店なの!?」
私は驚いた。そこには今にも崩れ落ちそうな壁があるだけだからだ。こんなところで商売なんて成り立つんだろうか?ミリーナは私の背中を押してそのお店に入る大丈夫ここ?エイミーの言葉を借りるとパプリカみたいなことにならない?
しかし中に入ると、店内は外装と打って変わって綺麗で小奇麗な内装だ。棚には薬草やハーブ、魔力水などのポーション作りの素材が置かれていた。ここは素材屋かしら?だが良く注意して見てみると、置いてある商品にはどこか雑多さがあり、それが逆にこの店がいかに変かをあらわしているようだった。
「こんにちは!おばちゃん!」
「あら、治癒魔法のお嬢ちゃんじゃないかい。今日は何をお求めだい?ん?ほう……そっちのお嬢さんは初めて見る顔だね?」
「今日は新しい『なんでも屋』のメンバーも一緒なんだ!」
「あ、どうも。初めまして」
ミリーナは店主らしき老婆に挨拶すると、私を手招きして奥へと進んでいく。そしてカウンターの奥の部屋に入るとそこには大きなテーブルが置かれており、その上に置かれている様々な道具や材料に目を向ける。そこには乾燥させた草花や葉っぱなどが無造作に置かれており、中には本などで見覚えのある物もあった。
「さて。始めようかな!」
「ここで薬を作るの?」
「うん!ここなら余計なものがないから集中できるしね!それに……ここには色々な人が来るんだ。だから色々と勉強になるんだよ!」
そう言うとミリーナは鞄の中から魔法陣が描かれた調合釜を取り出す。なるほど。あの調合釜を使って調合するのか……でもあれって結構複雑だし、やり方が古いような気もする。
まぁいいか。私が気にすることでもないし、以前本で読んだことはあるけど、目の前で薬を作るのを見るなんて初めてだし貴重な経験だから。ゆっくり見せてもらおう。
「とりあえず……これとこれと……あとこれも」
ミリーナは目の前に置かれている乾燥した薬草を取り、慣れた手つきですり鉢に入れてゴリゴリし始める。その光景を見て私は思わず目を丸くした。え?なんか私の知ってる作り方じゃないんだけど!?
そんなことを思っているうちにどんどんペースト状の物が溜まっていく。それが終わると今度は鍋に水を張り火にかける。沸騰してきたところで先ほどの薬草を入れて煮込む。すると徐々に色が変わり始めてきた。
しばらくして完成したのか、瓶に移し替えて蓋をする。それを見ていた私は無意識に拍手を送っていた。
「ん?もう大袈裟だなぁアイリーンちゃんは。」
「いや。私が知っているやり方じゃなかったから……単純に感銘を受けたのよ」
私がそう言うとミリーナは頬を掻きながら照れ笑いを浮かべる。それからミリーナは他にも沢山色々な薬を作っていった。薬を作るその姿はとても楽しそうだった。
「よしっと。これで今日の分は終わりかな!」
「すごいわね。こんなに色々な種類の薬を作るなんて……」
「うーん。確かに手間はかかるけど、この作業自体はそこまで難しくないんだよ?必要なものはここに全部揃っているしさ!わざわざ、自分で用意しなくてもいいし!あっ!これは何の薬草だろう?」
ミリーナは部屋の隅に置いてあった本を手に取り、パラパラ捲り始める。あれは薬に関する本なのかしら? 私がそんなことを考えていると、ミリーナはあるページを開きこちらに見せてくる。そこには何かの絵が描かれていて、文字の下に説明文が添えられていた。
「これだ!葉っぱの形が同じ!そうだよねアイリーンちゃん?」
「どれ?」
【ヘルイナ草:主にポーションの材料となる植物。種類によって回復量が変わる】
へぇ。これも薬草なんだ。絵を見ると本当に雑草にしか見えない。これを集めて乾燥させて、更に細かく砕いて水と一緒に煮込めば良いわけね。ふむふむ。
なんか初めての経験だらけで少し楽しいと思ってしまいた私がいた。