26. 象徴
私とアルフレッドは、ダンジョンの見知らぬ場所に落ち、そのまま出口を目指すことになった。しかし、このダンジョンは魔物が多いわね。さっきからずっと戦いっぱなしよ?それに出口もまったく見えてくる気配がないし。
「はあああ!」
アルフレッドは相変わらず叫びながら短剣を振るう。その一撃は魔物たちを次々に切り刻んでいく。彼の動きは、まるで踊っているかのように流麗で、その度に魔物の体が宙を舞う。
「どうしたイデア!お前の力はこんなもんか!?」
アルフレッドは、私を挑発するように叫んだ。その声は、薄暗い通路に不気味に響き渡る。
「はいはい。そんな大声で言わなくても聞こえてるわよ」
私は、彼の挑発を軽く受け流しながら、目の前の魔物を冷静に見据えた。ほんと元気だけは有り余ってるんだから。
「……ふん」
私は魔物の攻撃をかわし、すれ違いざまに剣を一閃する。すると、魔物の首が宙を舞いそのまま絶命する。私の剣は、まるで月の光のように静かでしかし確実に魔物を葬り去った。
「なっ……速い……」
「ん?なにしてんのよ?置いてくわよ?」
「くっ……。舐めやがって!オレ様だって負けるかよ!」
しばらく歩いていると、前方に大きな空間が開ける。私とアルフレッドはその中へと入っていく。そこは、巨大なドーム状の空間だった。天井までの高さは50メートルくらいはあるだろうか。壁は苔むした岩で覆われており、湿った空気が淀んでいた。
そして私とアルフレッドが辺りを見渡していると、突如大きな黒い穴が前方に見え、そこから大量の魔物が今にも飛び出して来そうだった。その穴は、まるで世界の闇そのもののように、不気味な黒い光を放っていた。
「なんだよあれ!スタンピードかよ!?」
アルフレッドは、驚愕の声を上げ目の前の光景に釘付けになっていた。
「!?」
あの穴は確か『ゲート』!?……魔物が大量発生する原因の一つで魔族の力によって作られると言われているもの。まだそこまで大きなものじゃないから強力な魔物が出てくることはないけど、なんでこんなものがここに!?
もしかして魔王軍の勢力はこの時くらいから広がっていたのかしら?なら早めに潰しておかないと大変なことになる!でも、あの『ゲート』を壊すことができるのは、力を持った者だけ。でも……前世で勇者だった私ならやれるはず。
「ちっ……仕方ねえな!オレ様があいつらをぶっ飛ばしてやる!」
「待って!」
「あん?なんだよ?」
アルフレッドには悪いけど、ここは下がってもらうしかない。あの『ゲート』から魔物が出てくればそれこそ危険だし。今のアルフレッドに出来ることは何もない。
「いい?ここからは私の言う通りに動いて。わかった?」
「あ?ふざけんなよ!何でオレ様に指図されなきゃいけねーんだ!」
「いいから言うこと聞きなさい!死にたいの!?」
私が少し声を強めると、アルフレッドはビクッと体を震わせて黙り込む。そして、そのまま私は腰に差した鞘から剣を抜く。
私がここで動けばフラグ立つ可能性がある。
でも……
ここで動かなければ世界は滅びるかもしれない。そんなことは絶対にさせない!
「ここは私に任せなさい。あなたは後ろで見ていなさい。いいわね?」
アルフレッドは渋々と言った様子だったが、何も言わずに私の言う通り後ろに下がった。そのまま私は目を閉じて集中し、意識を目の前の大きな黒い穴に向ける。そして、頭の中でイメージをする。
『―――我が呼びかけに応え、顕現せよ。光の刃、聖天の輝き』
詠唱を終えると、私の手にある剣の刀身が眩い光を放つ。それはまさしく聖なる力を宿した剣。誰もが見ても分かる特別な力。
そしてその握りしめた剣は間違いなく『勇者の力』であることを象徴していた……。