目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

40. 苦味 ~女神リディアside~

40. 苦味 ~女神リディアside~




 どこまでも続く真っ白な空間。そこは、まるで絵画のように、どこまでも純粋な白で満たされていた。色彩を失った世界は、静寂と孤独に包まれ、まるで時間が止まったかのような錯覚を覚える。そんな場所に、一人の女神が佇んでいた。


 その女神は、純白のドレスを身に纏い、背中からは眩い光を放つ翼が生えていた。銀色の長い髪は、微風に揺らめき、その姿はまるで彫刻のように美しい。そして彼女は、慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、目の前に浮かぶ水晶玉を見つめていた。その瞳には、深い愛情とどこか憂いを帯びた光が宿っていた。


「さぁイデア……あなたは、大切な事を忘れているわ。その記憶は戻るのかしら?ここが、おそらく、人生で初めての大きなターニングポイントになるわ。前世のあなたは、この時系列でギルド冒険者として何をしたのか。それを思い出せるかしらね?私はただ、見守るだけよ」


 女神はそう呟くと、優雅な仕草でティーカップに口をつけた。しかし、すぐに表情を曇らせティーカップに視線を落とした。


「少し苦味が出てきましたね……また、淹れ直さないと……」


 そう言うと、女神はゆっくりと立ち上がり、目の前に広がる真っ白な空間を見渡した。その瞳には、深い孤独と諦めにも似た感情が滲んでいた。


「この世界は、本当に何もない。それこそ、感情などというものは存在しない、つまらない世界。だからこそ、あなたの黙示録に興味があるんです。いつか私にも、この世界を彩ることができるかしらね……」


 再び椅子に腰を下ろし、足を組み、頬杖をつくと女神は憂いを帯びた顔で呟いた。その声は、静寂な空間に儚く消えていった。


「……あなたは、どの選択肢を選んでも、因果には逆らえない。せめて、後悔だけはしないでください。後悔して、その輝きが失われることだけは、あまりに滑稽で、つまらないのですから」


 そう言って、苦いと分かっているのに女神リディアは、もう一度、その苦味が増した紅茶を口に運んだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?