55. 姉妹
家に戻り、お母様とお父様にアリッサとエレンのことを説明すると、2人は喜んで迎え入れてくれた。『娘が増えて嬉しい』とか『イデアより素直で可愛い』とか、好き勝手言っていたけれど。
夕食を終え、私はお風呂に入ることにした。浴室の扉を開けると、そこには先にエレンがいた。
「はぁ!?なにお姉さん!?」
「あ。エレン入ってたのね。……せっかくだから一緒に入ろうかな。服脱いじゃったし。それに女の子同士だもん問題ないでしょ?」
「女の子って……それお姉さん痛すぎ。ボクは女の子だと思うけど、お姉さんは大人なんだから女の子って言わないでしょ?」
うるさいわね。痛くないわよ。私だってまだ女の子で通るわよ!22歳だけど。
「いいから入りましょ。背中流してあげるわよ」
「ふん。別にいいよ。自分で洗うし」
「はいはい。遠慮しないの」
私は強引にエレンを洗い場に連れていく。すると、その小さな身体を見て驚く。
「ちょっ!あんまり見ないでくれる!?ボクは胸もないし、可愛くないし……」
「ほら、ここに座って」
私はエレンを椅子に座らせ、優しく石鹸で泡立てていく。そして、その小さな身体と髪を洗い始めた。しばらく黙っていたエレンが、聞きづらそうに私に話しかけてきた。
「……ねぇお姉さんのお父さんって、事故か何かで片腕をなくしたの?」
「ええ。5年前にローゼリア王国に魔物が大量発生した時にね。お父様は騎士団の騎士で、勇敢に戦ったのよ?」
「そっか。だからお姉さんも騎士になりたいの?」
「それもある。あとは約束したから。必ず強くなって戻ってくるって」
そう。私は約束した。だから必ず騎士になるんだ。
「約束って?彼氏とか?」
「……平気で人にファイアボールをぶちかましてくるお姫様かな?」
するとエレンはキョトンとした表情をする。私はエレンの身体を流してあげて、湯船に浸かった。すると、エレンから話しかけてきた。もしかしたら少しだけ私のことを信用してくれてるのかしらね。
「ボクたちは孤児院で育ったんだ。双子だけど、一応アリッサが姉でボクが妹。強く生きていくために騎士になりたいってアリッサが言ったんだ。ボクはどうでもよかったんだけどね。でもアリッサがどうしてもって言うから……ほら、アリッサはすぐに人のことを信じるから心配なんだよ。ボクがアリッサのことを見てあげないと」
「仲が良いのね。私は兄弟とかいないから羨ましいわ」
「べっべつに仲良くないし!」
そう言うと、エレンは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、ザブンと勢いよく湯船に浸かった。本当に可愛いわね、この子。それからお風呂を出てリビングに戻ると、エレンは眠そうに大きなあくびをしていた。
「ふぁ~もう寝るよ。おやすみなさい」
そう言って、エレンは先に部屋に戻っていった。私も自室に戻ることにした。明日も試験があるし、早く休もう。そう思っていたのだが、リビングにはまだアリッサが残っていた。
「あらアリッサ。あなたも疲れているでしょうし、そろそろ休みましょう?」
「いえ。あの……あたしはまだ弓のお手入れをしておきたくて。すいません」
「そう。……じゃあ私も少し付き合おうかしら」
「え?でも……」
「私がアリッサと話したいの。気にしないで。今飲み物を持ってくるから」
私はアリッサにホットミルクを入れてあげた。なんだかこうやって誰かと夜更かしするのは久しぶり……というより、この人生では初めてかもしれない。前世ではよく、野営で見張りをしながらオリビアたちと話していたっけ。なんだか懐かしいわ。