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59. 鮮やか ~女神リディアside~

59. 鮮やか ~女神リディアside~




 どこまでも続く真っ白な空間。そこは、色彩を失い、静寂に包まれたまるで時間の流れさえも止まってしまったかのような世界だった。しかし、最近、その空間に微かな変化が訪れていた。それは、目に見えるものではなく、ただ、確かにそこに「何か」があると感じさせる、そんな曖昧で、しかし確かな「彩り」だった。


 その空間に、一人の女神が佇んでいる。その名はリディア。彼女は、この世界の創造主であり、管理者である女神だ。長い、長い時の中で、彼女は数多の生命の誕生と終焉を見守ってきた。彼女の瞳に映る世界は、常に静かで、変化のない、白い空間だけだった。


「ふぅ……」


 リディアは、静かに溜息をついた。彼女は今、初めて転生を経験した元勇者の第二の人生を見守っていた。彼、イデアは、リディアにとって特別な感情を持つ存在ではなかった。しかし、彼の存在は彼女にとってこの単調な世界に、一筋の光をもたらす大切なものだった。


 それは、まるで因果の流れに逆らい、己の信念を貫き続ける、その姿がこの白い空間とは対照的な、華やかで鮮やかな「彩り」を放っているかのようだった。


「さて。新たな勇者ルイスが、魔王を討伐するために旅立ちましたね。あなたは知っていると思いますが、このままでは魔王を倒すことはできません。足りないものは何か……それをあなたはすでに見つけているかもしれませんね?イデア?」


 リディアは微笑みを浮かべながら、白い世界を見つめた。もしかしたら、この「どこまでも続く真っ白な空間」は、本当にただの白い空間ではないのかもしれない。この空間に様々な「彩り」が加わったら?そう考えると、少しだけ心が躍るような、そんな感情が湧き上がってくる。


「あ。あそこにも色が……。もしかしたらここは『白い闇』に覆われているのかもしれませんね。あなたの輝きが、どんどんこの世界に光を与える。そして、いつか色鮮やかな世界に変えてくれるのかもしれないですね」


 リディアはゆっくりと目を閉じた。それは、まるでこの先の未来をその瞳に映し出そうとするかのように。


「ふふ。この世界もまだ捨てたものじゃないですね。そこに……あなたも一緒にいたのなら……なんて少しワガママかもしれませんね」


 目を閉じた彼女の瞳には、もはや真っ白な空間は映っていなかった。そこに映っていたのは、色鮮やかな希望に満ち溢れたそんな美しい景色だった。


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