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62. 無意識

62. 無意識




 私たちはガルーダを討伐するために、鬱蒼とした木々が生い茂る山道を登っていた。空気はひんやりと冷たく、時折、木々の間を縫って吹き抜ける風が肌を粟立たせる。魔物の気配が濃くなり、周囲の静けさが逆に緊張感を煽る。


「アルフレッド。ガルーダの索敵はできる?」


「この山に入ってから索敵してるが、まだ遠すぎて反応がほぼない。だが、間違いなくいるのは分かる」


「ありがとう。それなら警戒しながら索敵を続けて。あなたは私が守りながら戦うわ」


「ああ?……ああ。分かった」


 アルフレッドは、少し戸惑ったように私を見たが、すぐに頷いた。


「あとエレン。少し前に出過ぎよ、あなたはアリッサとオリビアを守りながら戦ってほしいわ」


「え?あっ……うん」


「アリッサはいつでも後方から弓で援護できるようにしておいて。」


「はい!」


「オリビアは防御魔法での援護とアリッサの弓が効かない相手への光魔法もお願いできるかしら?」


「任せてください」


「レオニードは右側をよろしく。私が左側を見ながらアルフレッドを守るから」


「分かった」


 レオニードは静かに頷き、右側を警戒する。私は、次々と指示を出しながら、慎重に山道を登っていく。この山にいる魔物は並大抵の相手ではない。連携を密にしなければ命に関わる。


(というか、こうやって指示を出すのは、なんだか懐かしくて楽しい。いけないいけない。少し張り切りすぎてるかしら私?)


 そんなことを考えていると、目の前の大木に、勢いよくぶつかってしまった。


「いったぁ!もう何よこの木……」


「何やってるのお姉さん?」


「大丈夫ですかイデアさん?気をつけて歩いてくださいね」


「ん?……こいつは大木じゃないな」


「良く見たらこれは擬態して獲物を待つタイプの魔物だ。オレもよく引っかかったぜ!」


 アルフレッドが言うように、それは大きな口のついた、丸い形をした植物のような生き物だった。確かマンイーターとか言ったかな?うん。まんま木に化けてるじゃん。


 そしてマンイーターは、大きな口を開けて私に襲いかかってくる。その攻撃を間一髪、エレンが防いでくれた。


「まだ寝ぼけてるのお姉さん!?足引っ張らないでよね!」


「ごめん!ありがとエレン。というか近くにいるんだから助けなさいよアルフレッド!レオニード!」


「うるせぇ。八つ当たりするなよ。これだからヒステリックな女は嫌いなんだ」


「この程度の魔物にやられるならそれまでだろ?オレの期待を裏切るなよイデア」


 なんで私が責められてるのよ……理不尽すぎる。


「防御魔法を展開しますから、その間に態勢を整えてください!マンイーターは毒液を吐きます。気をつけてください」


 オリビアの防御魔法と同時に、私たちは散開した。マンイーターは、その身体を震わせると、紫色の液体を吹き出してくる。


「あたしに任せてください!」


 それをアリッサが矢を放ち、全て打ち落とした。やるわねアリッサ。こんな状況でも的確にサポートできるじゃない。


「オレの番だな。影縫い!ほら。美味しいところはお前らにやるよ!」


 アルフレッドは、影の中から針のようなものを飛ばし、マンイーターの動きを止める。


「行くわよレオニード!遅れんじゃないわよ!」


「無論だ!」


「はあああぁぁ!!」


「うおおおぉぉ!!」


 マンイーターの触手を切り落とし、本体にダメージを与える。


「とどめよ!炎の魔法剣『フランベルジュ』!」


 私は剣を赤く輝かせ、横薙ぎに斬りつける。私の攻撃で真っ二つになったマンイーターは、燃え上がり灰となった。


「ふぅ。こんなもんでしょ」


「あのさお姉さん!気をつけてよ!ボクやアリッサに何かあったらどうするのさ!」


「ごめんごめん。ちょっと油断しちゃってたみたい。次は気をつけるわ」


 私がエレンに怒られていると、他のみんながこちらにやってきた。


「あまり責めるなよエレンの嬢ちゃん。こいつはこういうやつなんだそのくらいで勘弁してやれ。」


「初めてにしては連携がうまくいきましたね!こう……なんというか、皆さんの動きが分かったと言うか、そんな感じでしたね!」


「それは同感だな。まるで昔から一緒にいたような、そんな不思議な感覚があった。相性がいいのかもしれんな」


 その言葉を聞いて私は嬉しい気持ちになる。そうか……前世では独りよがりでみんなのこと理解してあげられなかった。


 この人生は前世とはまったく違うし、みんなは分からないと思うけど……レオニード、アルフレッド、オリビア。またこうやって一緒にいれて私は幸せよ?


「……ありがとう」


 そして無意識に言葉が出ていた。それは誰にも聞こえないくらい小さいものだけど私のケジメみたいなものだから。

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