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63. 幸せ

63. 幸せ




 しばらく山を登り、日が傾き始めた頃、私たちはその日の野営地を確保することにした。木々の間から差し込む夕日が、長い影を落とし山の静けさを一層際立たせる。私たちは手際よくテントを設営し暖を取るための焚き火を囲んだ。


 少し前にアルフレッドがガルーダの索敵に成功していた。その情報によれば、ガルーダは私たちの野営地から少し離れた場所に巣を作っているようだ。


 アリッサとエレンは、慣れない長時間の移動で疲れてしまったのか、テントの中で仲良く眠りについている。私は2人が眠りを妨げられないように静かにテントを抜け出し、レオニード、アルフレッド、オリビアが見張りをしている場所へと向かった。


「あれイデアさん?寝ないでいいんですか?明日はガルーダ討伐ですよ?」


「うん。みんなと話したくて」


「そんなこと言ってお前寝坊すんなよ?」


「分かってるわよ。いちいちうるさいわねあんたは」


 私は、焚き火を囲むように置かれた丸太に腰を下ろした。目の前でパチパチと音を立てて燃える炎は、静寂に包まれた夜の帳の中で、私たちの存在を確かにしていた。


「こうしてると昔を思い出すわ……」


 私は無意識にふと呟いた。過去の記憶が、焚き火の炎と共に蘇ってくるようだった。


「ああ?何言ってんだよ急に」


「なんでもない。それよりどうなの最強アサシンになれるの?」


「……思ってたのとは違うな。ギルド冒険者には強いやつはいるけど、燃えるような相手がいない。……イデア。お前みたいなやつがいたらもっと楽しいのかもな?」


 何よそんな顔しないでよ……恥ずかしいから。私は視線を焚き火に戻した。


「そう。オリビアは聖教会の仕事はどうなの?」


「満足はしていません。もちろん素晴らしい仕事ですし誇らしいです。でも今回みたいに誰かと共に同じ目的に向かって困難に立ち向かい成長したいのかもしれません。それに私はイデアさんを尊敬してますから!イデアさんのために何かできる。だからこのガルーダ討伐はすごく楽しいです!」


 オリビアもそんな顔しないで。恥ずかしいわよ!私は頬を赤らめた。


「そうなんだ。レオニードは騎士団はどうなの?」


「オレは騎士にこだわりはない。騎士団にいるのはお前を待っていただけだ。5年前、オレは強いと思っていた。しかしお前に負けた。オレより強い奴がいるのは府に落ちんからな。」


 レオニードまで……みんな私を求めすぎじゃない?私は戸惑いを隠せなかった。


「そっか……みんなそれぞれ考えてるのね。」


 私は、この人生は2回目だ。だからこそ後悔はほとんどしていないし、私だけが幸せなのだと思う。


 でも……やっぱり私にも心残りはある。前世の私が魔王を倒していたのなら、この三人はまた違った人生を歩んでいたかもしれない。私の知らない幸せを掴めていたのかもしれない。そう思いながら夜が更けていった。


 次の日の朝早く、私たちはガルーダが目撃された山の奥地へと足を踏み入れた。そこは鬱蒼と生い茂った木々が日の光を遮り、昼なのに薄暗く感じる不気味な場所だった。


「どうアルフレッド?ガルーダの気配はするの?」


「ああ。ここからまっすぐ行ったところに巣がある。数は1体だ」


「了解。みんな準備はいいかしら?戦闘開始よ!」


 私は剣を抜き、先頭でみんなに声をかけて走り出した。しばらく走ると、大きな岩が積み重なった場所が見えてきた。そこには、大きな翼を広げている鷲のような魔物が立っていた。体長3メートルくらいで全身が灰色の大きな鳥。


「ギィッ!」


 ガルーダがこちらに気づき、鳴き声を上げる。それと同時に強烈な風が巻き起こった。


「風の魔法よ!気をつけて!……来るわよ!」


 ガルーダが羽ばたくと、その巨体がふわりと宙に浮かんだ。そして、一気に加速し私たちに向かって突っ込んでくる。


「ふんっ!」


 それをレオニードが剣で受け流す。その勢いは凄まじく、衝撃で地面に亀裂が入るほどだった。


「こっちよ!」


 私はレオニードが注意を引いている間に、他のみんなの手を引き、別の方向に逃げた。するとその素早い動きで私たちを捉え巨大な爪が振り下ろされる。


「ギャー!!」


「防御魔法プロテクション!」


 オリビアが防御壁を展開し、攻撃を防いだ。予想以上の動き……ここは一度態勢を立て直さないと!私たちは走って大木の影に身を隠した。


「オリビアありがとう。助かったわ」


「いえ、あの程度しかできなくて申し訳ありません」


「大丈夫よ。まずはあいつの動きを止めないとね」


 ガルーダは空高く舞い上がり、私たちを探しているようだ。警戒心の強い魔物のはずなのになんでこんなに好戦的なのよ?しばらくすると私たちを見つけ、急降下してくる。その速度は、今まで見たどんな生き物よりも速い。


 そして、その鋭い鉤爪で襲い掛かってくる。私は『神速』のスキルでそれを避け、すれ違いざまにガルーダの脚を切りつけた。


「調子に乗るんじゃないわよ!」


 キィン!! しかし私の剣は弾かれてしまう。なんて硬さなの!? ガルーダは私に振り向き、再度襲いかかろうとする。


 その時、後方からいくつもの矢やナイフが飛んできて、そのうちの一本がガルーダの片目に突き刺さる。ガルーダは悲鳴を上げながら暴れだした。


 どうやらアルフレッドとアリッサが弓やナイフを使い援護してくれたようだ。速いし硬いし好戦的だし、全然事前情報と違うんだけどさ……。さてどうしたものかしらね?

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