6. 黒い魔物
私は東の洞窟の入り口で、ギル坊のせいで(?)駆け出し魔法槍騎士のルナを同行させることになった。正直、危険だから守るものが増えるのは面倒だから嫌なんだけどさ。しかも当の本人たちは私の後ろで仲良くイチャイチャ話しているし……これは依頼なのよ?デートじゃないんだから。
「へぇ~ギル君は賢者なんだぁ!凄いね!」
「そんなことないですよ」
「もしさ!私が魔法都市で有名になれたらギル君、私のお手伝いしてくれたら嬉しいな!とか言ってみたりして!」
「そうなったらもちろん!ボクで良ければ力になりますよルナさん!」
……イチャイチャするなら外でやってほしいんだけどさ。まあ、仲が良いことはいいことだけどね。別に嫉妬なんかしてないわよ?本当よ?
「ギル坊。ルナが胸が大きくて可愛いのはわかるけど、鼻の下伸ばして、油断してると足元すくわれるわよ?」
「えっ……?ギル君、私の胸が目的なの?」
「ちっ違いますよ!あっえっと決してその小さいとか可愛くないとかじゃなくて……もう分かってますよ!ロゼッタ様!変なこと言わないでくださいよ!」
本当かしら?まったく。分かりやすいんだからギル坊は。思春期かってくらいに……あっギル坊は思春期か。
「……ん?」
ふと何かを感じた気がした。気のせいかもしれないが、妙な気配を感じる。それはまるで……
「どうしましたか?ロゼッタ様?」
「なんでもないわ。行きましょう。」
とりあえずそのまま奥に進んで行く。道中の魔物をルナとギル坊が倒しながら進んでいく。まぁこのくらいはやってもらわないと。
そしてしばらく進むと、広い場所に出る。私はその場で立ち止まる。
「ロゼッタ様?」
「下がってギル坊、ルナ」
この場所からでもわかる。奥に禍々しい黒いオーラを纏った『黒い魔物』が居たからだ。
その『黒い魔物』は私たちを見つけると突然襲いかかってくる。私は爆炎魔法を放つ。しかし、『黒い魔物』はその攻撃を避けることなく正面から受けてもなお向かってくる。
「ちっ!厄介ね!離れてなさいギル坊!ルナ!」
そう言うと二人はすぐに離れる。そして私は再び爆炎魔法を放った。すると今度は先ほどとは違いブレスで応戦してくる。そして私の爆炎魔法と黒い魔物のブレスが相殺され爆風が巻きおこり私たちは吹き飛ばされる。
「……私の爆炎魔法を相殺したですって?しかも無傷なんて……」
私は立ち上がり杖を構える。おそらくこの黒い魔物はかなり強いだろう。しかも、なぜか知らないけど相当な魔力があるように感じる。突然変異にしてはおかしい。それよりもギル坊とルナを守りながらあの『黒い魔物』と戦うとなると厳しいものがある。やはり……あれしかないか
「二人とも少しの間だけ時間稼ぎをしてちょうだい。私の準備ができるまでお願い。危険だと判断したら離脱しなさい!いいわね!」
「分かりました!」
「うん!」
二人が返事をすると同時に黒い魔物が襲ってくる。それをルナが槍で受け止める。
「くっ……!重い……!」
「ルナさん!援護します!」
「ありがとうギル君!」
二人が黒い魔物と戦い始めたのを確認すると私は急いで集中し詠唱を始める。あの二人じゃそう長くは持たないし危険だから。
《我望むは大いなる焔 我が前に集え》
詠唱を終えると地面から炎が溢れ出す。それはやがて形を成していく。そしてついに姿を現した。
「これは……」
「す、すごい……!」
ギル坊とルナもその光景を見て驚いているようだ。まあ無理もない。なんせ目の前には巨大な炎の竜が現れたんだから。
「灰塵と化しなさい。極炎魔法・ドラゴンフレア!!」
その言葉と共に現れた炎の竜が黒い魔物に襲いかかっていく。そして激しい爆発音とともに黒い魔物の姿が見えなくなる。そしてしばらくすると炎の竜も消えてしまう。
「ふぅ~これで終わりかしら?」
私はため息をつく。正直、かなり疲れた。実際にこんな強力な魔法を使ったのは初めてだったからね。もうしばらくは使いたくないわ……
「凄かったロゼッタ様!あんな大きな炎の竜が出てくるなんてびっくりだね!」
「そうですよね!ボクも驚きました!」
二人は興奮気味に話す。まあ、確かに凄いわよね。私自身ちょっとやり過ぎたかなと思ってるもの。だってこんな威力の魔法使ったらさすがに外なら森ごと焼き尽くしてしまうものね。
「とりあえず、目的は達したわ。早く戻りましょうか」
「はい!」
「了解!」
こうして私たちの『黒い魔物』討伐は無事に終了した。とりあえず無事に終わったことに安心する。でも、まだ終わってないことにこの時の私たちは気づいてなかった。まさか、これがこれから起こる、世界を巻き込んだ大事件の始まりということに……