11. 防御魔法
ディアナの拳がクリーンヒットする。コイツ……聖女様なのよね?
「ぐべぇ!!」
「汚い手で触らないでください。いきなり清らかな純潔の乙女の胸ぐらを掴むなんていい度胸ですね?どっちにしても、あなたのような下品な方に興味などありませんが」
ディアナがそう言うと、後のテーブルにいた男たちが騒ぎ出し、こちらにやってくる。ちょっと面倒事を起こさないでくれない……
「このアマ!ふざけやがって!」
「調子に乗るなよ!」
「ぶっ殺してやる!!」
「な、なによこの展開は……!こんなところで喧嘩なんてしないで頂戴!」
私は慌てて止めるために駆け寄る。しかし、ディアナは『邪魔です。どいてください』と言って私を押し退けると今度は殴りかかってきた二人の冒険者を回し蹴りで吹っ飛ばした。
「ごばぁ!?」
「うげぇ!?」
「ディアナ様。強すぎ!やっちゃえやっちゃえ!」
「ボクの中のディアナ様のイメージが……」
それにしてもディアナったら、まるでスイッチが入ったみたい。いつもはあんなに大人しいのに……
「お、お前!よくもオレの仲間をやりやがったな?オレ様はこの街一番の冒険者『鉄腕のザッド』様だぞ?怪我しないうちにとっとと消えろ!」
「はい?この程度でこの街一番なんですか?」
ディアナやめて。煽るな。私はディアナを止めようとするが、またもや『どいてください』と私を押し退ける。いやいや……あんた聖女なんだけど?
「てめえ……いい度胸だ。覚悟しろ」
ザッドは剣を構える。ディアナはそれに対して構えすら取らない。
「無駄です。あなたの攻撃は私には当たりません」
「へっ。なら試してみるか!」
「ディアナ!」
「大丈夫です。ロゼッタさんはそこで見てて下さい」
ディアナはそう言うと、一歩ずつ前にゆっくりと歩き出した。
「くらえっ!!」
ザッドの放った斬撃はディアナの身体に当たらず弾かれてしまう。まるで見えない壁にでも阻まれているかのように。
「くそっ!なんだ!?」
「どうしました?まさかそれで終わりですか?」
「ちっくしょぉ!!喰らえっ!」
その後も何度も斬りつけるが、その全てがディアナの身体に触れることなく弾かれる。そして、目の前まで歩くと今度はディアナがザッドの胸ぐらを掴む。本当にこいつ聖女なの?実はヤバイやつなんじゃ……
「ひっひぃ!助けてくれ!」
「あなたは今から私の言うことには逆らうことは許されません」
「わ、わかった。なんでも言うことを聞くから命だけは!」
「わかればいいのです。では命令します。あなたは今後一切私たちに関わることなく、ギルドにも来ないでください。いいですね?」
「わ、わかりました!」
ディアナの言葉を聞いたザッドは涙目になりながら走ってギルドから出て行った。それを見ていた冒険者たちから歓声が上がる。なんだかなぁ……私はため息を吐いた。
「ディアナ様強いんだね!私ビックリしちゃった!」
「強い?私はただ失礼極まりない輩を説教しただけですが?」
「なら手を出す必要なかったんじゃないの?聖女が聞いてあきれるわ」
「ロゼッタさん。それは偏見です。私は手を出されたので手を出しただけです。私はあなたみたいに攻撃する手段があるわけじゃない。この拳しかありませんので」
「殴る前提なのね……」
「ディアナ様。さっきのは一体なんだったんですか?あの剣を弾いたあのバリアみたいな魔法は?」
「あれは防御魔法『ファランクス』です。私の得意魔法です。あ……そう言えば、昔この魔法で誰かさんの魔法を完膚なきまでに封じ、無事クレープを食べたことがあります」
「うるさい!そこまでじゃなかったでしょうに!それに忘れなさいよそんな昔のこと!」
本当にこいつは性格悪いわね。そう思いながら私はディアナを睨む。
「とにかく。これでようやく依頼が受けられそうですね?」
「はぁ……ディアナ。あんたはもう少し自分が有名人だって自覚を持ちなさい。あんな目立つような真似したら、すぐに噂になるわ」
「構いません。私は人々の役に立ちたいだけなので」
とりあえず。面倒なことは回避できたからいいか。私は仕方なく特級依頼について受付嬢に話を聞くことにした。
「ちょっと聞きたいんだけど特級依頼はどんな内容なのかしら?」
「はい。この依頼は……えーっと……なになに……『黒い霧』の調査ですね。この街の北に誰も住んでいない古城があるのですが、その周辺から黒い霧が発生していて、そこから魔物が出現しているという情報があり、調査して欲しいというものでございます」
「それってまさか……」
私は嫌な予感がしたので、ディアナの方を見ると案の定、彼女は無表情ながらに口角を上げていた。やっぱり……そしてディアナはこう言った。
「この依頼を受けます」
こうして私たちは特級依頼を受けることになり、早速その古城に向かうことになった。