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第35話『復興と課題』

「――ユウト、こっちも手伝ってーっ」

「はいはーい」


 瓦礫や廃材となったものを撤去するため、ユウトたちはせっせと駆け回って事後処理をしていた。


「本当、発想力だけで使い方がそうも変わるなんじゃのぉ」

「村長に作ってもらった車椅子も、滑らかに動いていますよ」


 リリィナは再び車椅子に乗り、【魔法】を自在に操り廃材などを持ち上げたり移動させたりしている。

 ちなみに村長は、久しぶりに全力で体を動かしてしまったものだから、収まりきらない熱共に思う存分パワーを活かしていた。


「村長こそ、凄い力ですよね。昔話から想像はできましたが、今も現役ですよ」

「わしも驚いておるのじゃ。まだまだこーんなに動けるとは思っておらなかったからの」

「ふふっ、文字通り百人力ですね」


 ユウト換算だと、間違いなく100人分の力を発揮しているヴァーバ。


 悲しいことに誇張ではなく、今も何もない地面で転倒しそうになっているユウトは大木を運べず、破片などを両手で抱えて必死に運んでいる。

 顔を真っ赤にしたり、重量がある物を運んだときには腕をパンパンにしていた。

 ただ、嬉しくも悲しくも――ユウトが転倒した擦り傷や木材などで指を切るとすぐに回復してもらい、休憩する余地を与えてもらえていない。


 怪力を発揮したり、【霊法】や【魔法】を使用できるとはいえ、たった4人で作業が円滑に進むはずはなく――というわけでもなく。


「これはこれで良かったんだろうな」


 ユウトは、同じく作業を進行する村人へ目線を向ける。

 老若男女、目撃者であった人たちやそうでない人たちが肩を並べて汗水を流していた。


「これ重すぎ――」

「手伝います」

「あれ、さっきの」


 欠陥が浮き出るほど踏ん張っていたユウトの元へ、先ほど顔を歪ませて怯えて逃げていた獣人の男性が手を貸す。


「あんまり記憶にないのでしょうけど、実は村案内されているときにすれ違っていたりしているんですよ」

「ありゃ、そうでしたか。記憶力がよくないもので、ごめんなさい」

「いえ、いいんです。そもそも失礼なことをしていたのはこちら側ですし」


 2人は半分に折れてしまった扉を持ち上げ、歩き出す。


「全部、聞こえていました」

「何がです?」

「皆さんが戦っている声と音を、です。そして、他の人は匂いを」

「ほえぇーすごっ」


 ユウトは、失礼かもしれないとは思いながらも目の前に居る男の耳や、目線の延長線上で作業している獣人をチラッと見る。


「本当に情けないですよね。村が危ない状況だとわかっていながら逃げたのに、森に逃げる勇気もなく村の端っこで集まって怯えていただけなんですから」

「……しょうがないことじゃんじゃないですかね」


 廃材集めのところで扉を下ろし、ユウトは手をプラプラとさせる。


「そう言っていただけるとありがたいですけど、結果も過程も全てが擁護される資格はありません。守ってもらっている立場であり、自分たちの命が危ない状況で見捨てるような真似をしたというのに、最後はその庇護下から抜け出すことすらできない。本当に救いようのないほどご都合主義ですから」


 作業に参加している人たちは、これで全員ではない。

 自分たちの住居が安全だったから、恐怖の対象となる魔物を目の当たりにしていないから、得体の知れない存在に近づきたくないから。

 様々な言い分で手伝いに来ていない人たちは多く、人伝ひとづてに事の顛末を耳にしても感謝の念を抱かない人も居る。

 人によっては「わざわざ騒ぎを立てて、酷い迷惑だ」と愚痴を零している人も居るくらいだ。


 だが、現場から逃げた人間や事の重大さに気が付いた人たちは、全員に状況を説明してた。

 どんな敵を相手に誰が戦っているか、どんな状況になっているのか、もしもの最悪の展開を。


 しかし無慈悲なもので、そもそもの知識がない人間も居て話を理解できなければ、全ての責任を死闘を繰り広げている全員になすりつけようとしている人間も居た。


「よいしょっと」

「ふぅ。まだまだ時間がかかりそうですね」


 作業をしている総人数こそ、たったの10人程度だが、人間が発揮できる力の数倍は出すことができるから思っている以上に深刻な状況ではない。

 ユウトは悲しくも、この中では1人換算ではなく0.1人ぐらい換算なのは仕方がないが、それを余裕で補えるぐらいには【魔法】と【霊法】が役に立っている。


「これから、どうなっちゃうんですかね」

「今回の問題は解決しましたけど、まだまだ解決しなくちゃいけない問題も課題も山積みですからね」

「あの……状況が聞こえていたからこそ疑問に思っていることがあるのですが」

「なんですか?」

「村を守ってくれていた結界の媒介となっている結晶が壊れてしまったということは……」

「詳しくは俺じゃない方がわかると思うんですけど、まだ話すのは難しいですもんね」

「ごめんなさい」


 目線と肩を落す男に対して、ユウトは理解を示す。


 この村に来て日が浅くても、彼らが彼女たちにどういった感情を抱いていて、どのような扱いをしてきたか胸を痛めたからこそ、反省の意を示していることはすぐにわかる。

 そして、自分たちが行ってきた酷い仕打ちを改めて理解したからこそ、彼女たちへどんな顔をしてどんな言葉を送ったらいいのか迷っているんだろう、と。


 実はユウトにも同じ目線を向けられていた、という点は水に流し、であれば自分がわだかまりを解す架け橋となればいいのではないか、と画策を始める。


「こういうのは、時間をかけてゆっくりやっていくのが大切です。無理をせず、俺が手伝いますから」

「――ありがとうございます」

「それで、結界の件は想像通りだと思います。結晶を作ったのも調節したのも、2人の両親らしいです。だから、再作成できるかは見通しが立たないだろうし、2人が今後どうしたいかにも関わって――」

「どうかされましたか?」


 男と話している目線の延長線上で、空を元気よく飛び回るフェリスが視界に入り、ユウトは考えを改める。


「いいや、みんなで話し合ったり協力し合っていけば良いと思います」

「で、でも……俺たち村人は、彼女たちに赦してもらえるのでしょうか」

「断言はできませんけど、大丈夫です」


 ユウトは、この短い期間で接してきたフェリスとリリィナの気さくさと優しさを思い出し、誇らしげに胸を張る。


「笑顔が可愛いくて愛嬌はありますし、全てを許してくれそうな優しい包容力だってあるんですよ。嬉しくなると耳をピコピコさせたり、尻尾をフリフリしたり。怒ったり心配していると、耳と尻尾が逆立ったり」

「は、はぁ」

「彼女たちのことは、皆さんよりも知ってますし胸を張って紹介できます。ですので、恐怖も後悔も心のモヤモヤも全部晴らせるよう頑張っていきましょう」


 少し離れているところから、ヴァーバとリリィナの笑い声が聞こえ、独り元気よく掛け声をかけているリリィナが居たり。


「ほら、耳を傾けてみてください。2人とも、年相応に可愛いんですよ」

「――ですね。本当に、俺たちと変わらない」


 男2人、クスっと笑っていると上空から。


「村長ー! ユウトがサボってるーっ」

「なんじゃと? ご飯抜きにするぞ」

「あらあら、いけませんよユウト様」

「これでも一生懸命やってるだって!」


 3人の明るい笑い声が辺りに響き渡る。


「てなわけで、作業に戻りますか」

「はいっ!」

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