町を散策しながら、休憩を兼ねて足湯を楽しんだ。寒い季節の足湯は気持ち良い。足から伝わる温かさで全身がぽかぽかになる。
「風情がありますね」
「歴史がある町だからな」
昔ながらの町並みがあちこちに残っている。町中のいたるところから湯気があがっていて、温泉情緒あふれる景色だ。
湯気の立ち込める川の向こうには山々が広がっている。
町の外れに縁結び神社があると知って、柊は「絶対に行く」と言い張った。「より強固な縁にするために神頼みする」のだという。
子供たちの健康や俺の仕事のことなども付け加えて「おねがいします!」と手を合わせていた。
商店街の中心にある食堂で早めの夕食をとった。
俺がサバの塩焼き定食を食べている向かいで、柊は元気にミックスフライ定食のご飯大盛をかき込んでいる。凄い量だし、もの凄い早さだ。小さな子供がいると早食いになるらしい。
「ついてるぞ」
「んっ」
口の周りどころか鼻の頭にもご飯粒をつけている。手を伸ばして取っていると、背後から声がした。
「仲が良いねぇ。学生さんかい?」
店の女主人が、湯呑をふたつ置きながら俺と柊を見る。
俺はどう見ても学生には見えないと思う。もしかしたら男性客にも「若く見える」と言うのが接客の基本なのかもしれない。
節約に励む所帯じみた生活を送っているのに、柊自身からはまったくその気配を感じないので、彼は大学生に見えるかもしれない。小柄だし童顔なので、制服を着れば高校生でも通用しそうな気がする。
「学生じゃないです。僕たち
タルタルソースたっぷりのエビフライを頬張りながら、柊が嬉しそうに言う。
「そうなのかい。ずいぶん若くで一緒になったんだね」
確かに、結婚したのは早かった。俺が19歳、柊が18歳のときだ。
「子供も三人います」
「……それは、苦労したんだねぇ」
と言いつつ女主人が俺を睨むのはなぜだ。まるで犯罪者を見るような目つきではないか。
もしかして、本気で柊のことを高校生だとでも思っているのだろうか。初めて柊と性行為に及んだのは結婚した後だ。つまり、法律で結婚が認められる年齢に達していたということなのだ。
「可愛い顔してますけど、俺のパートナーはもうすぐ23歳なんです」
誤解されたままでは居心地が悪いので簡単に説明をする。
「可愛い顔とか、急に言わないでくださいよ!」
頬を赤らめながら、柊がカニクリームコロッケを齧る。
「えぇ!? 見えないねぇ、中学生でも通用するよ」
それはさすがに言い過ぎだろう。
「でも、子供が三人いてまだ仲が良いなんてめずらしいねぇ。普通はとっくに倦怠期だよ」
普通はそうなるのか。でも俺たちの場合は順番が逆なので、ちょっと特殊なんだよな。
「僕たちずっと仲良し家族だったんですけど、最近やっと恋人になれたところなんです」
「どういうことだい?」
女主人が目を丸くしている。まったく意味が分からないだろうが、柊が言っていることは間違っていない。
俺たちは新婚でもないしすでに子供が三人いる。でも、付き合いたての初々しいカップルというやつなのだ。