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第43話 初々しいカップル

 町を散策しながら、休憩を兼ねて足湯を楽しんだ。寒い季節の足湯は気持ち良い。足から伝わる温かさで全身がぽかぽかになる。


「風情がありますね」


「歴史がある町だからな」


 昔ながらの町並みがあちこちに残っている。町中のいたるところから湯気があがっていて、温泉情緒あふれる景色だ。


 湯気の立ち込める川の向こうには山々が広がっている。


 町の外れに縁結び神社があると知って、柊は「絶対に行く」と言い張った。「より強固な縁にするために神頼みする」のだという。


 子供たちの健康や俺の仕事のことなども付け加えて「おねがいします!」と手を合わせていた。


 商店街の中心にある食堂で早めの夕食をとった。


 俺がサバの塩焼き定食を食べている向かいで、柊は元気にミックスフライ定食のご飯大盛をかき込んでいる。凄い量だし、もの凄い早さだ。小さな子供がいると早食いになるらしい。


「ついてるぞ」


「んっ」


 口の周りどころか鼻の頭にもご飯粒をつけている。手を伸ばして取っていると、背後から声がした。


「仲が良いねぇ。学生さんかい?」


 店の女主人が、湯呑をふたつ置きながら俺と柊を見る。


 俺はどう見ても学生には見えないと思う。もしかしたら男性客にも「若く見える」と言うのが接客の基本なのかもしれない。


 節約に励む所帯じみた生活を送っているのに、柊自身からはまったくその気配を感じないので、彼は大学生に見えるかもしれない。小柄だし童顔なので、制服を着れば高校生でも通用しそうな気がする。


「学生じゃないです。僕たち夫夫ふうふです」


 タルタルソースたっぷりのエビフライを頬張りながら、柊が嬉しそうに言う。


「そうなのかい。ずいぶん若くで一緒になったんだね」


 確かに、結婚したのは早かった。俺が19歳、柊が18歳のときだ。


「子供も三人います」


「……それは、苦労したんだねぇ」


 と言いつつ女主人が俺を睨むのはなぜだ。まるで犯罪者を見るような目つきではないか。


 もしかして、本気で柊のことを高校生だとでも思っているのだろうか。初めて柊と性行為に及んだのは結婚した後だ。つまり、法律で結婚が認められる年齢に達していたということなのだ。


「可愛い顔してますけど、俺のパートナーはもうすぐ23歳なんです」


 誤解されたままでは居心地が悪いので簡単に説明をする。


「可愛い顔とか、急に言わないでくださいよ!」


 頬を赤らめながら、柊がカニクリームコロッケを齧る。


「えぇ!? 見えないねぇ、中学生でも通用するよ」


 それはさすがに言い過ぎだろう。


「でも、子供が三人いてまだ仲が良いなんてめずらしいねぇ。普通はとっくに倦怠期だよ」


 普通はそうなるのか。でも俺たちの場合は順番が逆なので、ちょっと特殊なんだよな。


「僕たちずっと仲良し家族だったんですけど、最近やっと恋人になれたところなんです」


「どういうことだい?」


 女主人が目を丸くしている。まったく意味が分からないだろうが、柊が言っていることは間違っていない。


 俺たちは新婚でもないしすでに子供が三人いる。でも、付き合いたての初々しいカップルというやつなのだ。

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