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第12話 まずは、昼食

「おっ! 今日は青い髪の綺麗系美少女がいるー!」


「ホントだ!」


 昨日、サクヤをナンパしていた冒険者風の二人組はまた来たようだ。

 時間的にこの二人で最後だな。


「アオイ。暖簾下げてくれるか?」


「はぁい」


 二人の視線をスルーして暖簾を下げに行く。そして、冷静に注文を聞きに行った。


「アンガシャークの味噌煮とトロッタ煮でーす」


「あいよぉ」


 醤油とみりん、砂糖、味噌を鍋へと入れ、少し煮立たせる。

 少しグツグツさせたら、アンガシャークというサメの魔物なのだが、それの切り身を鍋へと放り込む。

 蓋をずらしておき、煮詰める。


 隣ではトロッタを煮ている。


 味噌の香りと醤油の香ばしい香りが辺りに立ち込める。焦げないように揺らしてアンガシャークもトロッタも煮汁をかけながら様子を見ている。


「君は、バイト終わったら食事とか行ける?」


 またあの冒険者たちはナンパしている。本当に懲りない奴らだなぁ。アオイには無理かもしれないな。


 煮物の火を弱めてカウンターから出て行こうとしたが。


「私、子供いるので帰らないといけないんですわ」


「えぇ? 君も? 昨日のピンクの髪の子もだったんだけど、君もおやっさんとの子がいるの?」


「内緒ですわ」


「なぁぁぁぁぁぁ」


 テーブルに突っ伏す冒険者。

 いい加減諦めればいいのに。

 そんな風に断られるってことは、一緒に行く気がないんだって。わかってやってくれ。


「アオイー。持ってってちょーだぁーい」


「はーい!」


 定食ができたので持って行ってもらう。一つずつお盆をもって優雅な動作でテーブルへと置く。アオイのすごいところは、お盆を置くときに音が鳴らないところ。


 そういった技術はサクヤとの接客経験の差なのかもしれない。

 お盆を置くと別の席を立った人のお会計の対応をする。


 二人とも仕事ができる子達で助かる。こんないい子たちが暴力振るわれたり、身体を触られたりと嫌なことをされたのだと思うと心が痛い。


 この店ではそんなことはさせない。そう誓ったんだ。そして、自分たちで好きなものを食べられるようにする。それが、俺の決意だ。


「うまかったよ。またくる」


「ありがとうございやしたぁー」


 昨日も来てくれた同い年くらいの男性が礼を言ってくれ、暖簾をくぐっていった。こういうのが嬉しいからやめられないんだよなぁ。


 悲しそうな顔をしていた冒険者二人は料理を食べたら表情が明るくなっていた。料理というのは、食べておいしければ、身体も心も幸せになるものだ。


 その料理でみんなを幸せにしたい。子供だけじゃない。困っている人がいたら、手を差し伸べてあげたい。俺にできることは飯を作ることだけだ。


「あー。うまかった。おやっさん。こんなに若い奥さんが何人もいていいねぇ。うらやましいよ」


 だいぶ誤解しているようだが、まぁ放っておこうか。


「どうもぉ」


 軽くあしらって見送る。

 嫉妬の視線を受けながらも頭を下げて見送る。

 お客さんを見送ると、アオイは全てのテーブルを拭き始めた。


 今日はアンガシャークが余っている。味噌煮を二つずつ煮込んでいく。お皿に乗せて食事の準備をしていた。すると、子供たちが現れた。


「リューちゃん、きょうはなぁにぃ?」


「あっ、リツくん。おさかなだってぇ」


 ミリアがリツを迎え入れる。目を見開いて驚いている様子のリツ。


「どうしてミリアちゃんがいるの?」


「ミリアの親と話し合いをしてな、俺の子供として育てることにしたんだ」


 俺が代わりに答える。


「そうなの? いいなぁ。リューちゃんといっしょ」


「リツには、可愛がってくれるお兄ちゃんも入れば、お姉ちゃんもいるからいいじゃないか」


「……うん。そうだね!」


 心配そうな顔をしていたアオイとサクヤがその言葉を聞いて、ようやく微笑んだ。心配するな。アオイとサクヤはすごくいい、育ての親だと思うぞ。自信をもっていいと思う。


 リツは席へと着いて、隣にはイワンが座る。


 並んで立っているアオイとサクヤへ少し近づき、囁く。


「二人はいい親だと思うぞ。自信持て」


「はぃ。ありがとうございます」


 軽く頭を下げるアオイ。

 頷きながら、目元を拭うサクヤ。

 俺は、厨房へと戻り味噌煮を見つめていく。


 いつもより二食多めに作った。

 これから来るマルコさんとエリック商会の人を迎えるためだ。

 料理を運んでいると、引き戸が開いた。


「さっきは、ありがとさん。エリック商会のガンツさんを連れてきたでぇ」


「話は聞きましたよ。水臭いじゃないですか、リュウさん。話してくれれば、お手伝いできたのに」


 ガンツさんが眉間にしわを寄せている。どうしてという気持ちが強いのかもしれない。


「すみません。ガンツさん。さすがに、最初から安くしてくれとは言い辛くて。先代との繋がりもありますし」


「リュウさん。僕にも、手伝わせてください。限界まで価格、頑張りますんで」


「えっ。でも……」


 さすがにそんなに安くしてもらうのは忍びなかったのだ。


「リュウさんや。エリック商会もこう言ってくれてるんや。素直にききましょうや」


「お二人とも、有難う御座います。まずは、昼食でもどうですか?」


「ワイはさっき食べたんやけど、この匂いは我慢できん! 食べるでぇ!」


 席に着くと、隣にガンツさんが座った。

 向かいには俺が座り、ミリアがその隣。リツとイワンの前にはアオイとサクヤが座る。


「食材とこの食材を卸してくれている二つの商会へ感謝を」


 祈りを捧げて食べ始めた。

 腹ごしらえをしたら、値段の打ち合わせだ。

 二人が辛くないようにしたい。


 いい落としどころを探ろう。

 みんなが幸せになるように。

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