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第50話 みんなでお風呂

 「リュウよ。風呂に入ったらどうじゃ?」


 セバスさんに勧められた風呂は、使用人の人に聞いたところ、大浴場なようなのだ。男湯と女湯があるらしく、セバスさんは使用人の人たちと一緒に風呂へ入るんだそうだ。


 自慢の風呂だと言われては、入ってみたくなるもの。


「リュウさん、ウチらがミリアちゃんと入りますよ。リツとイワンをお願いしてもいいですか?」


 サクヤがそう提案してくれた。リツとイワンと風呂へ入れるのか。それもなかなかないから嬉しいな。そんなことを思っていたら、笑みがこぼれていた。


「あぁ。頼む。リツとイワンは任せろ」


 笑顔で頷くと自分の部屋へといったん戻っていった。ミリアも着替えを用意しないとな。どうするか。全部燃えてしまっているから着るものがない。


 部屋へと戻ったところで執事さんが何やら持ってきた。「これをどうぞ」と差し出してくれたのは、俺の着替えとミリアの着替えだった。サイズを言ってなかったはずだが、見て分かったのだろうか。


 使用人としてのスキルが凄すぎる。俺の着替えが用意できたのはわかるが、ミリアのはどうしたというのだろうか。


「すみません。この着替え、どうしたのですか?」


「私の友人が服屋なんですよ。サイズを伝えて急遽用意してもらいました。もちろん、リュウ様と、ミリア様だけではなく、皆さんの分のご用意がございます」


 淡々とそう告げると礼をしてどこかへ行ってしまった。バスタオルぐらいの大きさでフカフカの布を渡してくれた。これで身体を拭いていいということだろう。


 ミリアがキョトンとした顔をしている。これを着てもいいのかと、そう思っているのかもしれない。なにせ、今までにないような黄色の服であるから、驚いたのかもしれない。


 この世界にこんなカラフルな服があるなんて思ってもみなかった。もしかしたら、高額な服なのかもしれないが、今はお言葉に甘えることしかできない。


「これが、ミリアの着替えだってよ。よかったな?」


「すごいかわいいいろ! なにこれー!」


 そうか。茶色の布のような服だけを着ていたからこんな色の服があるというのも知らなかったんだな。俺も買いにはいったが、こんな色の服を見たことがなかったからな。


 飛び跳ねて喜んでいる。大浴場へと向かう途中、サクヤとアオイ、イワン、リツとも会った。すると、四人とも着替えを持っていた。執事さんに渡されたのだろう。


 サクヤはピンク、アオイは青、イワンが黒で、リツが緑だ。サクヤとアオイは髪の色に合わせたのだろうけど、後はわからない。イメージだろうか。


 皆、一様にニヤニヤしている。こんな色の服着たことがないだろうから、気持ちが高揚しているのだろう。それを隠せないでいるあたりが可愛らしい。俺は、もちろん隠している。


 俺の着替えは紺色だった。凄く年齢に合ったいい色だと思う。セバスさんへ感謝をしながら大浴場へと入って行く。ミリアが楽しそうに手を振りながら女湯の方へと入って行く。


 なんだか、少し寂しい気がするが仕方がないことだ。家の風呂ではないんだ。きっちりと男女で分かれた方がいいだろう。


 戦闘では小さな男の子は女湯に入ったりすることもあるが、俺がいるんだ。リツとイワンは男湯以外の選択肢はない。


 銭湯のように、服を置く棚が用意されている。好きなところへ脱いだ服を置く。リツは服を脱がせてあげて、ここがリツの場所だからと教えると元気のいい返事で返してくれた。


 イワンはその隣を自分の場所としたようだ。何も言わなくても自分で服を脱いで棚へと服を入れていく。本当に物分かりがいいなと思いながら一緒に服を脱いでいく。


「リューちゃん、お腹すごいねぇ」


 ニヤニヤしながら、俺のせり出た腹を見て笑っている。リツには悪気はないのだろうが、俺は気にするんだぞ。そんなことを思いながら「これが、おっさんの普通だ」と返してタオルをもって大浴場へと入る。


 手前には洗い場が何個かあり、奥に湯舟がある。本当に銭湯のような感じだ。これも、勇者が伝えた物なのだろうか。


 この街には銭湯があるなんて聞いたことがない。きっと、風呂という文化がまだこの街、この国には根付いていないのではないだろうか。


 セバスさんが勇者の末裔だからこういう設備があるのかもしれないな。凄すぎる設備に感心しながらも、久しぶりに入れる風呂だ。俺の胸は高鳴っていた。


 手前の洗い場で身体を洗おうと座ると、リツとイワンはお風呂へ入ろうとした。


「リツ、イワン。こっちへおいで。まず、身体と頭を洗おうか」


「えー? はやくおふろ、はいってみたい!」


 頬を膨らませながら、リツが抗議してくる。気持ちはわかるが、ここは心を鬼にして教えないといけないな。


「こういう皆が入るような風呂は、まず、身体と頭を洗って入るんだ。じゃないと、湯舟が汚れてしまうだろう?」


 俺が、説明するのを聞くと、少し沈黙して自分なりに考えているようだ。少しすると、俺が話している内容が理解できたようで、頷いた。


 イワンは自分で身体を洗いにかかっている。リツは俺が身体と頭を洗ってあげる。いつもは、サクヤとアオイにしてもらっているのだろうけどな。


『わー! サクヤお姉ちゃん、おっきいねぇ!』


 急にミリアのそんな声が聞こえてきた。このお風呂。男風呂と女風呂の天井が繋がっていて声が響いてくるようだ。俺は、聞こえないフリをして体を洗う。


 セバスさんも入って来た。すると、身体が引き締まっていて筋肉が凄まじい。傷も歴戦の戦士を思わせるほどついていて、強者のオーラを放っていた。


 ミリアの声を聴いていたのだろう。目配せして頷く。こういう風な作りになってしまっているという合図だろう。俺は、なるべく聞かないようにしているのだが、声は聞こえてくるもので。


『本当に羨ましいですわ』


『アオイお姉ちゃんもおっきいよー?』


『これは、大きくないのですわ』


 すべての会話が聞こえているのだが、それを伝えてしまうとなんだか盗み聞きをされた気持ちにならないだろうか。嫌われたくないという一心で、だんまりを決め込むことにした。


『サクヤが羨ましいですわ』


『いっぱい食べれば大きくなるよぉ』


『ならないですわ』


 サクヤ、それは遺伝が大きいと思うぞ。そんなことを口にはできないが、心で思っているとずっと身体を洗っている俺を不思議に思ったのか、リツが声を上げた。


「リューちゃん、お風呂入ろう?」


 声が、響き渡った。こちらに響いたということは、あっちにも聞こえたということだろう。「そうだな」と小さい声で答えた。


『サクヤ様、アオイ様、ミリア様、こちらの声はあちらへ響く作りになっております』


 この声はメイド長さんの声だろう。完全にこちらへ聞こえるようにそう告げているが、よくわかっていない子が約一名いたようだ。


『わー! おばちゃんのもすごくおっきい!』


 おばちゃんと呼んでしまったミリアを叱りたい気持ちになりながらも、感謝したい気持ちにもなってしまう。先ほどのメイド長さんの姿が脳裏に映る。年代は俺と同じくらいではないだろうか。少し下くらいかもしれない。


『ミリア様。ミルクを沢山飲めば大きくなりますよ?』


『じゃあ、のむ!』


 ミリアの元気な声が響き渡る。サクヤとアオイの声がしない。それが、俺の恐怖心を掻き立てる。


『リュウさん? 聞こえてるんですかー?』


 直接聞いてきた。何と答えたらいいものか。でも、リツの声もはっきりと聞こえているだろうから嘘もつけない。


「あ、あぁ。聞こえてるぞ?」


 それがなにか? という雰囲気で答えてみる。少し沈黙があった後。


『聞かなかったことにしてください!』


 サクヤの怒鳴り声が響いた。俺は別になんとも思ってないのだが。サクヤとアオイは年頃の女の子だ。気になっても仕方ないだろう。


「あぁ。気にしてないさー」


『それも、腹が立ちます!』


 なぜだか怒られてしまった。よくわからない状況を疑問に思いながら久しぶりの風呂で温まり、上機嫌で寝床へと向かうのであった。ミリアも上機嫌で一緒に寝た。明日は、料理以外も手伝ってみよう。そんなことを思いながら、眠気に逆らえず意識を手放した。

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