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第51話 お掃除は大事

 なんだか眩しいと思い、少し瞼を上げると窓から朝を主張するように、太陽が俺たちを照らしてくれている。この部屋は知らない部屋だな。そんなことを漠然と考えながら昨日あったことを思い出す。


 今思っても、ミリアとサクヤが無事で本当に良かった。守っている最中は夢中だったが、あんな守り方ではダメだったんだろうなと反省した。


 みんなで奥に引っ込んで立てこもればよかった。そんなことを考えていたが、それは今考えても仕方がないことだろう。なんとか生き延びることができた。それだけでよかった。


 布団から状態を起こすと、頭に痛みが走った。とっさに頭を抑えて痛みに耐える。動かなければ大丈夫なんだが。何かで頭を殴られたところがずっと痛いのだ。


「リューちゃん? だいじょうぶ?」


「すまん。起こしたか?」


 その質問には首を振って起き上がる。大きく口を開けながら、両手を高らかに上げて伸びをすると一緒に「あ゛ーー」という声を出して布団から這い出ている。


「ううん。いつもどおり、おきないとね」


 規則正しい生活を送っている方が身体にはいい、店をしているときも早く起きていた。だが、今は早く起きる理由もない。


 理由はないが、習慣で早く起きてしまう。体が覚えているのだろう。また厨房にでもいって朝ごはんを作るのを手伝ってこようか。


 布団から出ると用意してもらった着替えへと着替える。身体を伸ばしたり縮めたりすると身体に激痛が走る。打撲だからしばらくの間は仕方がないだろう。


「厨房にでも行ってみるか?」


「うん!」


 嬉しそうに返事をすると、ミリアは自分の着替えを出して着替え始めた。女の子らしい薄ピンクのワンピースを渡されていたようで、着替えると一気に女の子になる。


 似合っているぞと伝えると、照れ笑いを浮かべていた。こんな服が着たかったのだろうに、俺は着せてあげることもできていなかった。


 少し反省しながら、これからもっとミリアのしたいことをさせてあげようと改めて考えることができた。


 部屋を出て厨房へと歩いていると、使用人の人はもう掃除をし始めていた。恐らく、まだ寝ている人を起こさないように拭き掃除をしている。


 厨房もいいが、ミリアには掃除を覚えることもいい経験になるのではないかと思ったのだ。


「すみません。拭き掃除を手伝いたいのですが、何か拭くものはありますか?」


 使用人の人に声をかけると、目を見開いて固まっている。何を言っているのだろうと思っているのかもしれないが。セバスさんの家にいる間、いろんなことを覚えたいのだ。子供にもいいものを吸収させたい。


「お客様がすることではありませんが……?」


 使用人の人は戸惑っているようだったが、頼み込んでお掃除用の布を俺の分とミリアの分貰う。そして、使用人の方に掃除する場所を教えてもらいながら拭いていく。


 窓の縁の部分を拭いたりするのだが、ただ拭いてみると確かに綺麗にはなる。だが、一度洗い流さないと次に洗う時にその汚れが伸びてついてしまう。


 使用人の方がその知恵を教えてくれた。だから、面倒ではあるけどこまめに桶で洗った方がいいということだった。お湯で洗えたらどれほどいいことか。使用人の方たちは水で洗っているのだ。


 本当に有難い気持ちで同じように水で布を洗いながら拭いていく。棚の上やテーブルを綺麗に拭いていく。ミリアも「つめたーい」といいながらもしっかりと汚れを拭きとっていく。


 そんなことをしていたら、サクヤとアオイ、イワン、リツも起きてきた。そして、俺とミリアが拭き掃除をしていると「ずるい!」と言ってきた。いったいずるいとはどういうことだろうか。


「ミリアちゃん、ずるいよ! ぼくもおそうじしたい!」


「このおねえさんに、ぬのをもらって? ふいたら、こまめにあらうんだよ? つめたいからね?」


 先ほど教えてもらったことをリツに得意気に教えている。自分もつめたーいと言って拭いていたのにリツに注意するように告げている。


 少し自分ができている部分があるとリツにすぐ教えたくなるようだ。それが可愛くもあるのだが、リツは不満気な様子だ。ミリアとは対等でいたいのだろう。


 それなのに、先輩面するものだから頬を膨らませている。


「リツ。ほら、使用人のお姉さんにもらったから一緒に拭こう?」


 サクヤがリツを促して一緒に拭こうと言ってくれた。さすがサクヤだ。リツのことをよくわかっている。ミリアを注意するのは簡単だが、リツとの付き合い方も自分で覚えた方がいいと思う。


 アオイはイワンへと拭き方を教えている。サクヤとアオイは家で掃除をしているからか、要領を得ている。なんでもできて本当に凄い。


 俺なんて料理しかできない。店の掃除はしっかりとしていた。厨房も綺麗にしないと菌が繁殖したりするから神経をすり減らして掃除を行っていた。


 だから、できないわけではないけど得意ではない。片付けも実は苦手なのだ。皿などは実際にはサクヤとアオイが片付けてくれたのだ。それを汚くならないように元の場所に戻すように意識しているだけだ。


 使用人に混じって皆で掃除をしていると、起きてきたセバスさんが目を見開いて立っているのが目に映った。


「みんななぜ掃除をしている?」


「セバスさん、お礼の思いを込めているというのと。色々なことを今のうちに覚えようと思いまして。俺は掃除が苦手なので教えてもらってました」


 そう答えると嬉しそうに頷いて、使用人の人へと指示を出した。


「エレナ。リュウたちへ掃除や洗濯。その他の家の仕事を教えてあげてくれるか?」


「畏まりました」


 この拭き掃除を教えてくれていた使用人の女性はエレナという名前だったようだ。しっかりと名前を呼ばないと失礼にあたる。しっかりと覚えないとな。


 エレナさんは頭を深々とセバスさんへと下げると、こちらに向き直った。すると、満面の笑みを浮かべて宣言した。


「さぁ、みなさん! 気合を入れて仕事をしますよ!」


「「「はいっ!」」」


 子供達は勢いに乗って大きい声で返事をした。

 この広い屋敷がピカピカで綺麗に保たれている理由を目の当たりにすることとなった。

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