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第52話 ララという子

 セバスさんの家へと来てから一週間ほどが経った。

 料理は料理長の手伝いをしながら、自分の料理も作らせてもらっている。使用人とセバスさんにも好評なので、三度ほど作らせてもらった。


 みんな美味しいと食べてくれるので、いつも胸を高鳴らせながら料理を作っている。掃除は、子供達も一通りのことを覚えたので、布を渡せば綺麗に拭いてくれるようになった。


 ミリア、リツのちびっ子二人もちゃんと拭き掃除というものを学んだ。できないこともあるとは思うが、今は自分のできることを精一杯やっている。それを見ていた使用人の人たちが、ミリアとリツを褒めるものだから、俺は鼻が高かった。


 サクヤとアオイも嬉しそうにニヤニヤしていたのを俺は知っている。バレない様にニヤニヤしていたようだが、俺にはバレている。


 この生活に慣れてきたかなぁと思っていた頃、セバスさんが一人の女の子を連れてきた。年の頃はミリアよりは大きい。イワンくらいだろうか。


 セバスさんの足にしがみ付いて顔を隠していた。綺麗な緑の長い髪は隠しきれておらず、恥ずかしがりやでちょっと抜けているところがある子なのかなと微笑ましく思った。


「ワシが一緒に依頼へ行く冒険者の子供をな、一週間ほど仲間に入れてくれんか?」


 俺は、近付いてしゃがんで視線を合わせると精一杯の笑みを浮かべて声を掛けた。


「お名前はなんていうのかな?」


「……ララ」


 少し顔を出して俺を見てくれた。ちゃんと目を見て話してくれたララに俺はとてもいい印象を受けた。恥ずかしくてもちゃんと目を見て話してくれる子なんだなと嬉しい気持ちになった。


 これから、みんなともうまくやっていけるだろうと思う。目を見て話せる子はちゃんとコミュニケーションの取れる子だから。


 イワンもほとんど話さないし、自分からもあまり話してくれない。でも、話を聞くときは目を見て聞くし。話すときもしっかりと目を見て話す。


 目を見なくてもいいのだけど、なんとなく目を見て話したり聞いたりできると仲良くなるのが早くなるのかなぁといった印象だ。これは、俺の考えなだけだけど。


「ララ。初めまして。俺はリュウという。セバスさんの家でお世話になっている。パパがお仕事から戻ってくるまで一緒に過ごしてくれるかな?」


 聞いてはみるが、ララは恥ずかしいのか返事をしてくれなかった。


「ミリアっていうんだよ!」


 俺の後ろから元気に現れたミリア。ララはちょっと圧倒されているようだ。


「リツっていうんだ!」


 続けてリツも声を上げて前へと出てた。二人で圧をかけているような感じになってしまっている。


「……ボクは、イワン」


 その後ろから、ちょっと申し訳なさそうに自己紹介するイワン。そのくらいがララにはちょうどいいのかもしれないなと思う。


「ちょっと! 二人とも、前に出すぎよ? ウチはサクヤっていうの。よろしくね」


 いつもの優しい笑みでララへ自己紹介する。優しさオーラに少し気が緩んだのか、顔を出した。そのララに対して手を振るサクヤ。ララはまた隠れてしまった。


「私はアオイといいますわ。無理をして急に距離を縮めなくてもいいですわよ。ゆっくりと仲良くなりましょう?」


 腰を折って目線を合わせると、ララは恥ずかしそうに頷いた。アオイの雰囲気が合うのか。サクヤはちょっと悩んでいる。「うーん。ちょっといきなり距離が近すぎたか」と言いながらもずっと手を振っていた。


 すると、恥ずかしそうに手を振るララ。押しにも弱いみたいだ。気を付けないと不満を爆発させてしまうかもしれない。


 まだ朝飯前だった為、お近づきのしるしに飯でも作ろうか。


「朝飯作るけど、もしよかったら一緒に来るか?」


「ミリアもいくー!」


 ミリアは新しいお友達にテンションがあがったのか、厨房まで走っていく。それを追うリツ。俺が行かなければ料理は開始できないのだが、そんなことは頭にないのだろう。後ろからサクヤとアオイ、イワンがついていってくれた。


 ララにはトロッタ煮を是非食べてもらいたい。口に合うだろうか。


 少しためらった後に顔を出して、セバスさんの後ろから出てきた。少しだけだが、心を開いてくれたみたいだ。それを見たセバスさんはため息を吐いて安堵していた。


「はぁ。よかったのぉ。この子は結構な人見知りでな。預けられる人がいないと父親も悩んでいたんじゃよ。じゃがな、リュウなら大丈夫だと思って連れてきたんじゃ。やはり、間違ってはいなかったのぉ」


 ホッと胸を撫で下ろしたように、胸を人撫でするとしゃがんでララの頭を優しく撫でた。その顔は孫を見送るような、本当に優しい、仏のような笑みだった。


 ララはセバスさんに慣れているらしく、くすぐったそうに身を捩る。なんだか、ララは猫のようだ。初めはちょっとスンとしたところがあり、慣れてくるとジャレついてくるみたいな感じ。


 俺にもこんな顔をしてくれるのだろうか。本当に安心しているような顔をしている。セバスさんほど強い人と一緒だったら、そりゃ安全だろう。


 依頼に出るということは、セバスさんはしばらく家を空けるということだ。俺たちはこんな状況では外には出られない。


「よかったです。子供っていうのは、こちらが心を開いてあげると開いてくれるものだと思っているんですよ。なんでもこーいみたいな。どーんと構える」


「ワシには結構なれるまで時間がかかったんじゃぞ?」


 ちょっと不満そうに眉間に皺を寄せて眉を上げてララを見つめる。ララは俺の背中へと隠れた。もう慣れたのか、ただ俺の顔を見てセバスさんから守ってくれると思ったのかもしれない。顔だけは威圧感があるみたいだからな。


「ふふっ。では、俺に任せてください。一緒に楽しく過ごしますから」


「うむ。頼んだ」


 頷いてサムズアップをしてくれた。


「わかりました。気を付けて行ってらっしゃいませ」


 俺が頷くと外へ出た。


 さぁ、どうやって仲良くなろうかな。

 そんなことを思い、優しくララを見つめる。

 すると、手をいじりながら上目遣いで見上げてきた。特になにも意識していなくて自然とやっているのだろう。もしかしたら、意外とあざとい子なのかもしれないな。


「さっきの子達と一緒に行きたい」


 先に向かったミリア達を追うように歩き出した。恥ずかしさより、好奇心が勝ったのだろう。


 慣れるまで、どのくらいかかるかなぁ。

 もう少しは慣れ始めている気がする。子供ならではの順応性かもしれない。


「一緒に行こっか」


 手を差し伸べると恥ずかしそうに手を握った。素直でいい子だな。

 ララの初めての料理の挑戦が始まる。

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