昨日の夜は今日の一日のスケジュールを決めるために白熱した議論となったわけで。みっちりのスケジュールを決めた結果。早起きしなければならないということになったのだが。
「リューちゃん! あさだよ!」
たしかに朝だ。だけどさ。早すぎやしないか?
朝日の出始めくらいだ。五時くらいだろうか。どれだけ今日を楽しみにしていたのかということがわかる。
上からもドタドタと音がしている。これは、リツとイワンも起きているようだ。珍しいことにイワンも自分の行きたいところを話していた。
遠慮せずに言える関係となったということが俺としては嬉しい。
「ミリア、まだ早いんじゃないか?」
「なんで? はやくいかないと、ぜんぶまわれないよ?」
ミリアよ。それにしても早すぎるのだ。あと四時間は先だぞ?
「あのな。店始まるのはまだまだ先だぞ?」
「そうなの?」
「そうなんだよなぁ。だから、準備したらみんなで朝ご飯作るか。どうせリツとイワンも起きてる」
ルンルンで頷くミリア。今日は休みだから昨日の残っている漬けを使ってカルパッチョみたいにしよう。朝は軽くでいいんじゃないかな。外でも食べるだろうし。
「いいよぉ! きがえよー!」
棚から自分の着替えを出すミリア。今では服を自分で選ぶようになった。ついこの間までは俺が選んであげていたのだが、とある日から自分で選ぶと言い始めた。
いい事だと思うんだけど、なんか寂しいんだよなぁ。子離れしないといけない時期なのかなぁ。いや、まだまだ早いはずだ。ミリアは6歳とかだぞ。
「リューちゃん、どう?」
満面の笑みでこちらを振り返ったミリアが着ていたのは、ちょっと前の休みの時に一緒に買ったスカートの先がヒラヒラのレースになっているワンピースだった。
それが気に入ってくれていたんだもんな。白いから汚れるって言ってあまり来たがらないのだけど、今日は着ていくらしい。おめかししたい気分なのかもしれない。
「可愛いぞ。今日はそれを着てくれるんだな」
「うん! だって、おでかけだからね!」
それを着てくれるのは嬉しいが、これから飯なんだが、大丈夫なんだろうか……。まぁ、いいことにして飯を作ろう。
あまりこぼさないように汁気はとっておこう。漬けにしているやつだけど、野菜も一緒になるから大丈夫だと思うけど。
上からドタドタと聞こえてきた。リタとイワンも起きてきたようだ。
「リューちゃん、おっはよう!」
「おはよう」
ハイテンションのリツといつも通りの挨拶のイワン。でも、心なしか機嫌が良さそうだ。やっぱり休みなのと、出かけるのが楽しみなのかもしれないな。
「おはよう。野菜を一口大にちぎって貰えないか?」
「いいよー!」
「わかった」
快く快諾してくれたリツとイワン。厨房へと入って行き、いつも通りなのだが。自分たちの好きな野菜をボールへとちぎって入れてもらっている。
「おはようございまーす」
「おはようございますですわ」
サクヤとアオイも起きてきた。もうカルパッチョ風のものはできている。ちょうど良かったかもしれないな。
「よしっ。軽く食べるか」
「わぁ。良いですね! 外でも沢山食べますもんね!」
サクヤが元気いっぱいに宣言しているが、本当に食いしん坊だなぁ。そんなに食べる気か?
「私も軽い方が外で沢山食べられますわ」
アオイも意外と食いしん坊のようだ。その細い体でよくたくさん食べられるな。
ミリアが一口食べると飛び跳ねて「これおいしい!」と言って喜んでいる。よかった。ミリアの口にはあったようだ。続けてサクヤ、アオイと口にする。イワンとリツも同時に一口頬張る。一同は目を見開いて固まった。口に合わなかっただろうか。
「大丈夫か?」
「こ、これ……」
サクヤが言葉を濁す。やっぱり、魚の生ものとサラダはこの世界では受け入れられ辛いのか?
「ものすごく美味しいです!」
「さっぱりしていて最高ですわ!」
サクヤとアオイが同時に声を上げた。それは、嫌いだということではなく。称賛の声だったことに安心した。その言葉に続く様に、リツとイワンも頷いている。
気に入ってくれたようでよかった。
作ったカルパッチョは五分もするとなくなってしまった。だが、朝ごはんはこれくらいでいいだろう。なにせ、これから甘いものを食べるのだから。
「みんなの準備はいいのかな?」
「「「いいよぉ(です(ですわ))!」」」
みんなが準備できているようだったので、ちょっと早いのだが街へと繰り出すことにした。まだ包み焼き屋の開店までは時間がある。だから、先にサクヤとアオイの用事を優先することにした。
「包み焼き屋はまだ始まってないから、サクヤとアオイの買い物が先でいいか?」
一応ミリア、イワン、リツへと了解を得る。でないと、腹を立ててしまうかもしれないと思ったからだ。
「なんでそんなこときくの? いいにきまってるじゃん!」
「いいよぉ」
「いい」
ミリア、リツ、イワンの順で返事をしてくれたが、まだ子供だと思って聞いてみれば、大人の返答が返ってきた。俺は、この子達を子供に見すぎなのかもしれないな。
そんなことを思いながら街並みを歩いていると、横から急に赤い何かを大量に持っている人が突進してきた。俺は反応ができず。犠牲になったのはミリアだ。
「わっ!」
「えぇっ⁉ 人がいたの? ごめんなさーい!」
イワンより少し大きいくらいの女の子が沢山のトメイトをかかえて走っていたみたいで。激突した衝撃でいくつかを潰してしまい、ミリアの白いワンピースは赤く染まってしまっていた。
「ミリア!」
俺は咄嗟に声を上げてしまった。だが、俺以上に大人だったのは、ミリアだった。
「みてなかったぁ。ごめーん」
「ごめんなさい! 服汚れちゃったねぇ」
「だいじょうぶだよ? これ、すてようとおもってたし。あたらしいの、かってもらうからぁ」
その女の子は謝りながら去って行った。ミリアの顔は明らかに落ち込んでいた。でも、次の瞬間にはそれを全く感じさせない笑顔を見せたのだ。
「あーあぁ! よごれちゃった!」
「ミリアちゃん……」
「なんてことですの……」
ミリアの今の対応には、漢気ならず女気をみた。こみ上げる成長の喜びを噛み締めて、込み上げてくる感情をなんとか押しとどめる。ここは、俺が漢気をみせないとな。
「みんな、すまないがミリアの服を買うのを優先していいだろうか?」
「「「とうぜん!」」」
全員、満場一致で当たり前のように賛同してくれた。
「いいの?」
ミリアの声に、俺は大きく頷いた。
「いいって言ってくれているし、買いに行こう」
手を差し伸べると、その手をさっと繋ぎ、皆で一緒に服屋へと向かう。白いワンピースだったが、なんだか赤い染め物の服のようで違和感がなかったのか。特に視線を集めることもなったのが幸いだった。
どうせだから、みんなで選ぼう。