タグは放課後、僕達が責任をもって燃やすことになった。
放課後になり今日はバイトが休みの相田さんと矢野と僕で矢野の家へと向かう。なんでも裏庭に燃やせる場所があるらしく、矢野の家に着いた僕たちは裏庭へ回り込む。
しばらくして、矢野がチャッカマンを持ってやってきた。タグを置いて火を付ける。10分くらい燃えたところで、水をかけ、火を消す。
灰になって跡形もなく消えてほしい。なのに、周りの木々や黒焦げになっているのに、タグは焦げた箇所はなく、燃やしていたことが嘘のように綺麗に残っていた。
燃やしても燃えない、傷一つ付けることもできない、壊せない。よほど特殊な何かで作られているんだろう。
相田さんは落胆するわけでもなく、「あっちゃー、なにしてもダメだね、こりゃー」と他人事のように笑っていた。
相田さんではなく矢野の方が相当焦っていて、犯罪を犯してしまうんじゃないかといった顔つきになっていた。
「矢野…落ち着こう」
矢野を「矢野くん」と気遣っている場合じゃない僕は、矢野に声をかけながら、指紋が付いたタグを手に取る。
「これ、埋めよう。誰にも見つからないように深く穴を掘って埋めれば無かったことにできるかもしれない」
矢野だけじゃない。きっと、僕も思想は矢野と同じだろう。じゃなきゃ、埋めようとなんて思わない。
スコップを持ってきてもらい、なかなか取り出されないような位置まで穴を掘り埋める。
相田さんだけが「んなことして大丈夫かよ」と心配していた。
――先生に相談したくてもできないんじゃしょうがない。こうするしかない。
「何かあったら僕が責任持つから」
相田さんに何かあるより、僕が犠牲になった方が全然いい。矢野は僕の頭をコツンと拳で叩いた。
「痛……っ」
「かっこつけてるつもりかよ。てめぇだけ犠牲になんてさせるか」
「なに言ってんの。矢野は相田さんを守ってよ」
矢野が相田さんを守ってくれなきゃ、誰が相田さんを守るっていうんだよ。
それに、相田さんだけじゃない。柊さんも、沢辺さんも守ってくれなきゃ困る。僕にはできないけど、矢野にはそれができるから。だからちゃんと最後までカッコイイ人間でいてほしい。
矢野の気持ちを知らない相田さんは、
「矢野に守ってもらわなくても、あたしは自分でなんとかできるし」
――と、僕らに反論した。
……いや、そういうことじゃないんだよ、相田さん……
ひとまずこれでなんとかなると思っていたのも束の間、そう甘くはなかった。
翌日、学校へ着くと矢野と相田さんの姿はなく柊さんが慌てた様子で僕の元へ近寄ってきた。
「飯倉くん、昨日何かあった?」
「な、なんで……」
「先生が怒ってたから。――それで、先に来ていた矢野くんを連れて教室出て行っちゃった」
柊さんだけじゃない、クラスの皆も僕の方を見ている。
昨日、僕らがした事を知っているかどうかは分からないけれど……先生にはバレたんだ。
直感的にそう思ってしまった。
柊さんに話した方が良いだろうか。
でも、柊さんはできるだけ巻き込みたくない。これ以上、変な心配はさせたくないし、僕らが勝手に仕出かしたことで迷惑かけたくない。
幸い、今日は遅刻をせずに登校してきた相田さん。
何があったのか理由を説明することをせず強引に背中を押し、一緒に教室内から出る。
「ちょっ…あたし、今日は遅刻しなかったよ。すごいでしょ?」
何も知らない相田さんは、褒めてほしさにちらちらと後ろを見ながら僕に話す。
――本当、今日だけは遅刻しなくてよかったよ。
柊さんは最後まで僕らを心配していたので、「教えてくれてありがとう」とお礼を伝えた。
廊下でのんきに話している場合ではないのは確かだ。
「どこ行く気だよ」と焦る相田さんの腕を引きながら答える。
「相田さん、矢野が先生に連れて行かれたらしい」
そう答えると相田さんの口がぽかんと半開きに開いたままの状態になってしまった。
「連れて行かれたってどこに?」
「職員室か昨日の空き教室だと思う。柊さんが言うには先生、相当怒ってたって言ってた」
相田さんは何かしらの覚悟を決めましたと言わんばかりに強く頷いた。
「――よし、あたしが矢野を助ける!」
やっぱり。言わんこっちゃない。
相田さんのことだ。自分が犠牲になるとでも考えているのだろう。
そうさせないために、僕も矢野もあの手この手をつくしてどうにかできないかと、やれることをやったんだ。
相田さんが色々と考えてくれているように、僕だって色々と考えているんだ。
「矢野がヤバい状況になってる可能性も考えられるから、もしそうなってたらお願いがあるんだけど……」
僕の言葉に相田さんは足を止める。
「お願い……?」
「うん、これは相田さんにしか頼めなくて。矢野がもし何かしらヤバいことになってたら僕が先生に提案するから。その時は何も言わずに僕の言うことに頷いてほしい」
「分かった。……で、提案ってなにを提案するの」
知りたくてたまらなさそうな相田さん。
ほんの少しだけど、こういう時はどうすれば相田さんは動いてくれるか、みたいなことが分かってきたような気がする。
「それはヤバいことになってたときの秘密。ほら、いいから行くよ!」
職員室へと着くと猿渡先生が座っている横に矢野も座っており、遠目で見ただけなのにヒリヒリと痛々しい空気なのが伝わってくる。