十五、バイトの存在
鷹にもプライベートルームは用意されているが、殆ど帰ることがない。昼は拷問の担当、夜は囚人棟での見張りを行っている。
当然だが、仮眠はとっている。時間はバラバラで早番の場合は見張り終了後の午前二時から朝まで寝る。遅番の場合は午後九時に就寝して午前一時には起きる。プライベートルームにいるのは寝る、シャワーを浴びる、歯を磨くなど最低限の時だけだ。
元々、ショートスリーパーなので三時間ほど眠るだけで体力が回復する。身長は測ったことがないが、百八十くらいあると言われた。プライベートルームの洗面所にある鏡は大きいので顔まで映る。鷹は自分の顔を鏡で見るのが好きではなかった。鋭い目つき、尖った顎、高い鼻、このパーツのせいで鷹などと呼ばれているのか。最低限、髪を整えて髭を剃るために鏡を見るが、自分の容姿には全く自信のかけらもない。
本日は遅番なので仮眠を取るため、プライベードルームに帰ったところで館内アナウンスが流れた。
「侵入者がいる模様」
侵入者だと?
このアナウンスは職員棟のみ流れる。鷹は無線を手にとって薊に繋ぐ。
「詳細を教えてください」
「詳しいことはわかりません。ただ、島外からの侵入者かと思われます」
「それ以外の情報は?」
「秋桜と菖蒲が倉庫に囚われていました」
相手はただの一般人ではなさそうだ。
秋桜と菖蒲と言われたところで、鷹は基本的に薊、鰐、鮫、甲、虎以外の名前を知らない。黒服の女たちの誰かであろうことはわかる。
それに三人のバイトがいるが、なぜバイトを雇ったのだろうか。その理由はあまり考えたくなかったが、もしかしたら『何か悪いことが起こった際にすべてバイトのせいにできるから』ではないかと推測した。
それを思いついたのが現総理の菫だとすると、鷹はひどく重い気持ちになった。
「職員エリアか囚人エリアか?」
鷹は薊に無線で問う。
「職員エリアかと思われます」
思われます。ということはハッキリしないということだ。囚人たちの部屋のドアはそう簡単には壊れないようになっているし、見張りをしていた鰐に要件を伝えて、鷹は廊下へ出た。プライベートルームは職員棟の二階にある。ホテルのように番号が振られていて、鷹の部屋は010だった。廊下は静かで物音一つしない。どこに潜んでいるかわからない。ゆっくりと足音を立てないように階段方面へと進んで、階段の端にある窓から外を眺めると、赤いライトが点灯しているのが見えた。これは警報だ。職員エリアと囚人エリアを隔てる壁に赤色灯がいくつかついているが、それが点灯している。脱獄ではないのか?
階段をおりると数人の黒服たちがうろついていた。警戒する。もしかしたら黒服に姿を変えている可能性もある。身を固めていると、廊下を薊が走ってくるのが見えた。