二十三、侵入経路
見張りを鰐と交代した鷹は、甲のプライベートルームへと急いだ。甲から無線で呼び出されていた。甲は先程、無断でピストルを所持していた。もしかしたら罠かもしれない。鷹は猜疑心を隠しきれずにいた。念の為に服の中に小型ナイフのみ入れる。
いざ、部屋へ入ると、人影があった。
「虎……」
「ご足労すまない」
ベッドの上に大きな地図が広げられている。虎が所有しているこの島の地図である。この島の港は一箇所。それ以外の海沿いはすべて断崖絶壁となっているが、唯一、島の北側に浄水場がある。
「やはり今日の運搬船が怪しいな」
甲がそう言う。犯人の侵入経路を探ろうというのか。
本日の正午ごろに運搬船が港に着いた。対応したのは黒服の誰かだ。運搬船は一週間に一度、この島に食料などを運ぶ船だ。運搬業者はもちろんこの島について口止めされているであろうが、そいつがあの三方の娘に協力したのか。それとも、黒服と三方の娘が繋がっているのか。
運搬船はどこにでもありそうな貨物用の船だ。
「本人に聞くのが一番早い」
虎が低い声で話す。
「口を割るでしょうか?」
甲は恐らく五人の中で一番若いのではないか。
「言わなければ……」
「拷問ですか?」
「いや、彼女は犯罪者ではない」
無言のままの鷹に虎が目線をやる。
「どうした鷹?」
「いや……」
「甲のことか。私は甲を知っている。元警察官だ」
なんと、虎と甲は知り合い同士ということなのか。
「実はお前のことも知っている」
虎の言葉に目を丸くした。
「知っている?」
「ああ、お前は記憶を失っている」
「私は一体何者なのですか?」
虎は急に黙った。
「お前が自分自身で思い出した方がいい」
「そんな……」
「それより侵入経路をはっきりさせないと、二度目はない」
甲の言う通りだが、自分が何者か知る者が目の前にいる。
「運搬船のクルーに尋問かな」
「そうですね」
「鷹」
また押し黙っていた鷹を虎が呼ぶ。
「自信を持て、鷹。お前は優しい誠実な人間だ」
優しい? 人に拷問を加えているのに優しいなどあり得ない。
「なぜこの仕事を引き受けたのか私は不思議でならないが、辛いのなら辞めたらいい」
虎にそう言われて動揺してしまう。
「せめて本名と出身地だけでも教えて頂けないですか?」
虎は皺の刻まれた頬を指で掻いた。
「甲、 君も私を知っているのか?」
甲は首をふる。
「私はこの島で初めて会いました」
そうなのか。それにしても虎はどうして何も教えてくれないのだろうか。
「一つだけ教えてやろう。お前は東北出身だ」
「東北……」
お世話になっていた高松家は東北で、三方咲苗が言っていた小学校も東北だ。
「私は黒田というのですか?」
「おや、思い出したのか?」
「いえ、ある者からその苗字だけ聞きました」
「話が逸れている。今は侵入を防ぐためにできることはないか、改善策を考えるのが一番だ」
甲は少々苛立っていた。
「わかった、すまない」
話し合いの結果、運搬船クルーへの尋問と当事者、三方明日花への尋問を行うこと。また、警備として従業員を増やせないかという提案を総理にする。ということになった。