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二十八、再会

二十八、再会


 ぼんやりとした視界に映るのは、コンクリートの壁……? 天井……。頭痛がひどくて頭を抱えると「母さん」と聞こえた。


「母さん!」


 視界に飛び込んだのは娘の顔だった。


「明日花!」


 思わず抱きしめようとして、自分の左右の手が自由に動かないことに気づく。手錠をかけられていた。


「よかった、無事で……よかった」

「母さん、どこも痛くない?」

「大丈夫よ。明日花は?」


 尋ねると明日花は「全然平気だよ」と元気な声を放つ。手錠をかけられた状態のまま、娘に寄り添った。


 咲苗は傷だらけだった。娘にこんな姿を見せたくなかったが、これが今の自分なのだ。


「母さん、酷い目にあったんだね……」


 明日花の目が潤んでいる。


「私は大丈夫よ」

「全然大丈夫に見えないよ……」


 娘の顔をまじまじと見た。別れたのは十四歳の時だ。あれから五年経って娘は女らしくなっていた。


「髪の毛……どうしたの?」


 明日花が咲苗のほんの僅かに残った髪を掴んだ。


「抜かれちゃった」


 笑顔を浮かべたつもりだったが、涙が溢れた。


「酷い……」

「髪はまた生えてくるわよ」


 笑顔がひきつる。髪が生えたらまた抜かれるのだろうか。


「起きたのか」


 見張り番をしていた黒服の女が牢の外から見ていた。


「お前ら、母さんをこんな酷い目に合わせて‼️」


 明日花の眉がつり上がった。


「やめなさい明日花」

「母さんは悔しくないの⁉️ こんな姿にされて」


 悔しい、か。咲苗は実際に罪を犯した。正当防衛かもしれないが、自分の夫を殺めたことはまぎれもない事実だ。


「母さんは悪いことをしたから罪を償わなくてはいけないから。あなたはまず自分のことを案じて」


 この島は国民に秘密にされているようだ。でなければ、今ごろマスコミが毎日のようにヘリコプターを飛ばして撮影に来るであろう。その秘密を知ってしまい、その中に入ってしまった娘はこの先どうなるかわからない。


「本島に帰りなさい」


 咲苗の言葉に明日花は思い切り首を振った。


「せっかく会えたのになんてこと言うの。一人でなんて帰らないよ!」

「あなたには幸せになって欲しいから……」


 そこまで言って咲苗は口ごもる。幸せになれるだろうか。犯罪者の娘というレッテルを貼られた明日花は今日までどうやって生きてきたのか。そしてこれからもそのレッテルは消えない。自分がそうさせてしまったことが苦しくてならない。咲苗は繋いでいた手を離した。


「母さん……?」


 気がつくとポロポロと涙が溢れ出てきた。


「明日花、ごめんね……」

「悪くないよ。母さんは何も悪くない」


 そこへ、誰かの足音が近づいてきた。


「あ、起きましたか?」


 白衣を着た美しい女性……、いつも手当てをしてくれる医師だ。


「ご気分はどうかしら?」


 明日花はまた鋭い視線を女に向けた。


「明日花、この方はお医者さんよ」

「医者も何も関係あるかよ!」

「いつも怒ってばかりじゃ物事はスムーズに進まないわ」


 咲苗の助言に、明日花は大人しくなった。

「気分は、大丈夫です」

「そうよかった。足の傷は傷まないかしら?」


 咲苗はその時はじめて自分の足に傷があることに気づいた。


「痛くないです」

「そう、じゃあちょっと待ってね。明日花さんにお聞きしたいことがあるから」


 女はニコリと笑った。


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