目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

二十九、辞職の決意 

二十九、辞職の決意 


 プライベートルームまでなんとか壁づたいに帰った真心はベッドの上に寝転がった。窓から放り投げたはずのシーツが再び敷いてあったので、誰か知らないうちに部屋に入ったのかと思うと少し嫌だった。

 仕事を辞めて帰ったらどうしようかと悩み始める。滞納していた家賃をまず払う。滞納していた電気代と水道代も払う。それでなんとか生活を立て直せるか。


 食費が必要だ。今まで働いただけのお給料で足りるかどうか頭の中で計算する。二ヶ月くらいは大丈夫だろうが、すぐに貯金は底をつく。働かないと生きていけないのは当たり前だ。


 腰に負担のない仕事ってなんだろう。立ち仕事は腰に響くので、座ってできる仕事がいい。真心の祖母が若いころは事務の仕事をしていたそうだ。一日、パソコンの前に座ってデータ入力などを行っていたと聞いた。今は事務仕事の求人はない。データの入力も計算もその他諸々AIがやるのが当たり前だ。


 人間に変わって賢いロボットが次々活躍することに、真心は時々恐怖心を覚える。そのうち人間は必要なくなってしまうのか。だとしたら、なぜロボットをどんどん造り出すのか。もちろん、労働力不足を補うためというのはわかる。人口が約八千五百万人になった日本の人口のうち、六十五歳以上が四十パーセントを占めている。若い人は少なくて、あちらこちらで人材不足が問題になった。それに伴い、働くロボットがどんどん開発されて、活躍している。という内容を学校の歴史の授業で習ったのだ。昔は手作業だった。工場の検品やシール貼りも人間がやっていた。レストランにはウエイターとウエイトレスがたくさんいて、注文に合わせて料理を運んでいた。


 それでも、人間にしかできない仕事はたくさんある。たまに大きな会社の受付嬢はアンドロイドがやっているが、やはり人間味がないという意見も多いらしい。真心が働いていた介護の現場でも、人間ではないとできないことが山のようにあった。


 真心は様々な職業を頭に思い浮かべる。保育士は腰が痛いと無理。そもそも資格をもっていない。販売員は基本立ち仕事だから無理。仕事、仕事……。


 タクシーの運転手はどうだろうか。そもそも運転免許を持っていないのにまず免許をとらなくてはならない。車は自動運転でよっぽどのことがない限り、事故は起こらないが、それでも免許をとる必要がある。


 とはいえど、すべての車が自動運転に対応している訳ではなくて、旧式の人間が操作する自動車も時々走っている。政府は、自動運転の車を購入するように勧めているが、中古の安い車を買う人もいるから結局のところ交通事故はゼロにはなっていない。


 真心の気持ちは完全に本島へ向いていた。帰ろう、こんな島にはもういたくない。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?