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三十八、ついに

三十八、ついに


 緊急の連絡が入った。どうやら本島でこの島のことが話題になっているらしい。匿名の通報があったそうだ。誰がバラしたのか? 口止めをした建設会社の社員か物資を輸送している運輸会社か。姉の菫は現在この島にいるので、官房長官の秘書がテレビ電話に出た。


「マスコミが大騒ぎしています」

「それは一体いつから?」

「午後三時ごろに速報であちこちに情報が流れました」

「情報の内容を具体的に教えて頂戴」

「総理の暴走 拷問の島を造り、死刑囚たちをその島に集めて非人道的な行いをしている。島は伊豆諸島の西方面に造られた人口埋め立て地で、総理はこの事実をひた隠しにしている。とのことです」


 そのままだ、と薊は思った。ついにバレたか、いや、今までバレなかった方がおかしいと頭を抱える。


「総理は今、どうなさっているのですか?」

「視察中です。向井官房長官は?」

「総理官邸です。マスコミが官邸前に殺到しています」


 姉に伝えなければ。まるで雷を伴った積乱雲のように薊の心が曇っていく。


「総理に状況を伝えて交代します」

「あ、薊さん」


 官房長官の秘書とは二度ほど会ったことがあるので、名前を知られている。


「なんでしょうか?」

「念のためにそちらの従業員に怪しい人がいないか調べて頂いてもよいですか?」


 薊はショックを受けた。ここにいる従業員の誰かが情報を漏らしたと疑われているのか。


「……とにかく、総理と交代します」


 薊はいつもより三倍も五倍も重く感じる無線機を手にとった。患者を造り出す奇妙な島の存在がいよいよ国民に明かされる。


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