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三十九、憫笑《びんしょう》

三十九、憫笑びんしょう


 総理が拷問場にやって来た。磔にされた囚人たちを見て、何を思うのか。総理の顔を見たかったが、遠くで虎と会話をしている。


 鷹は自分の任務で忙しかった。磔にする十字架の数は全部で八。全員一気に実施する訳にはいかないので、交代制にした。待っている囚人たちの怯えた顔を見ると無理もないと思う。鷹は逃走する者がいないかなど、見張りを行っていた。


 この日は、極悪の水釘も同じく磔にされていた。足の下で炎がメラメラ燃えていても下を向いて目を閉じたまま微動だにしない水釘は右の目に眼帯をつけている。熱い、痛いといった感覚がないのか。


 磔は一人一時間で交代になる。鷹が待ち人たちに注意を向けていると、突然後方から「鷹」と呼ばれた。振り返ると菫が立っていた。


「はい」

「九十九晶をこちらへ」


 順番待ちをしていた九十九晶を指名した菫はボディーガードにがっちりと警護されている。鷹が黒服を呼んだ。囚人たちは全員手錠をかけ、足かせをしているので簡単には逃げられない。鷹が九十九に立つように命じた。


 菫は少し離れたところで待っていたので、黒服に連行させた。何をする気なのか。


 菫の元に連れていかれた九十九晶は仰向けに寝かされた。そして驚くことに彼の服を剥いだ。鷹は思わず目を逸らした。


 薊から九十九の男性器を除去したとは聞いている。まるで、粘土細工のように扱われている九十九だが、菫にとってすべてを変えてしまった男であるのは間違いない。鷹にとっても彼が現れなかったら菫は優しい菫のままでいたのではと、怒りを感じなくはない。いや、九十九は嫌いだ。鷹はハッキリそう思った。


 今まで、囚人に対して感情を持たないように気をつけていた。それは屠殺場で学んだスキルでもあり、いちいち同情していたら身がもたないという理由だ。


 しかし、九十九に対しては菫と同様、特別な気持ちを持っていた。菫がどのような表情で性別を失った九十九を見ているのか気になり、ほんの少しだけ目線をそちらに向けてしまった。


 見たことを後悔した鷹は、我に返る。十字架の磔の順番交代の時間が来たので、足元の火を一旦消して、解放する作業にとりかかる。燻る藁を一旦別の場所に移して、手と足を縛っている金具を外す。

再びチラリと後ろを見ると菫の姿は消えていた。


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