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四十三、黒幕

四十三、黒幕 


 食堂の時計の針は午後六時を指していた。今日は夕飯どころではなさそうだと鷹はため息をつきたくなった。調理場の方から全く音も匂いもしない。もう一人バイトがいた気がするが……。


 古いスマホを隠し持っていたのは確かに怪しいがそれだけでは何の証拠にもならない。充電したスマホの中身をチェックする黒服の女とそれを見守る菫。そして、人間と言い難いくらいボロボロになっている水釘が食堂の真ん中で寝そべっている。


 ひざまずいた状態の渡倉と石塚。無茶苦茶である。しかし、さらなる事態が発生する。鷹の無線に連絡が入る。


「座間京滋が大怪我を負った」


 連絡は鮫からだった。午後六時だと拷問の時間は終了しているのに一体なにがあったのか。無線は菫と薊の姉妹にも入った。


「どうしたの、何があったの?」


 医師の薊が聞き返す。


「仙台です。バイトの仙台が囚人棟に侵入して座間に危害を与えた」


 また耳を疑う内容だった。


「ここの警備はどうなっているの⁉️」


 薊が頭を抱えた。しかし、鷹は異変を感じていた。おかしい。黒服たちが全く動揺していない。


「鷹、薊と一緒に今すぐ座間の元へ向かって」


 菫の命令で、席を外すことになる。


「水釘をどうしましょう?」

「眠らせておきましょう」


 そう言って、麻酔銃を手に持った睡蓮が水釘めがけて撃ち、彼の太ももに針が刺さった。もう誰も彼を人間として扱っていない。船の上でうようよしているタコかイカのような扱いである。


「眠るまでは時間がかかります」

 鷹の言葉に「そうね……」と菫が考え込む。


「鷹はやっぱりこの場にいて頂戴。私が座間の元へ向かうわ」

「お供します」


 薊を先頭に、菫はボディーガートと共に食堂から出ていった。

 全くなんて日だ。鮫に無線で状況を聞く。


「仙台が侵入したところで、座間と会うことは不可能なはずだ。何があった?」

「襲われました。強いです。私も負傷しています……」


 なんと、鮫がやられた⁉️ 仙台は一体何者だ。先程の菫の話では、どうやらここの従業員は、囚人に対して何かの恨みを持った者が集まっているようだ。黒服たちもそうだが、バイトの三人も被害者遺族だと考えるなら、仙台和菜は座間京滋を恨んでいると考えるのが妥当だ。


「医師がそちらへ向かっている。他に負傷者は?」

「おそらく鰐も……」

「鰐までか……。わかった」


 鰐も鮫も私情は知らないが、屈強な男たちだ。二人より強い仙台は何者だ。


「仙台は何か武器を所有しているのか?」

「はい、包丁を持っています」


 調理場で働いているなら包丁を調達するのは容易いことだが、それにしてもどうやって囚人棟へ足を踏み入れることができたのか謎だらけだ。


「とにかく座間が……ひどい出血です」


 鮫の息が荒い。


「座間はどこを刺された」

「腹部一箇所、太もも一箇所です」


 腹部と太ももなら急所ではないが、急がないと失血死してしまう。

 ここの無線は特殊なので、個人を特定して話をすることができる。鷹は相手を鰐に切り替えた。


「鰐、聞こえるか」

「……鷹」

 声を必死で振り絞っているのか。


「鮫から事情を聞いた」

「あの女……強いです……」


 薊と菫が囚人棟へ向かった。いけない。ボディーガードがいるとはいえ、危険だ。


「今、医師がそちらへ向かっている。お前は大丈夫か?」

「なんとか」


 水釘那央斗は危険人物とはいえ、この状態では何もできないであろう。


「私は囚人棟へ向かう」


 鷹が食堂を出ようとする。


「菫様がここにいろと」

「すまぬ」


 鷹は高松姉妹のことが心配だった。食堂を出て一目散に階段を上がり、二階の渡り廊下を突き進む。エレベーターを乗り継いで囚人棟に向かうと衝撃の光景が広がっていた。


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