四十五、異端者のフォーク
薊医師、総理大臣、鷹のいなくなった食堂には黒服たちと真心と石塚が残されていた。
一応、人間としてカウントするなら水釘もいる。
「持ってきたわよ」
黒服の女がどこかへ消えたと思ったら、謎の器具を持って帰ってきた。真心はあたりを見渡した。一、二、三……約二十名弱の黒服たちがこちらを見て微笑を浮かべている。
「天井を見なさい」
突然、命令されたが言うことを聞く気にならなかった。真心が真正面を向い
たままでいると背中を蹴られた。
「天井を見なさいと言ったでしょう」
隣を見ると真心は驚愕した。上を向いている石塚の首元に何やら鉄の器具が装着されている。
「早く上を見ろ、死にたいのか!」
再度、背中を蹴られた真心は仕方なく上を向いた。
「これはね、異端者のフォークっていうの。中世にカトリックを非難する人を拷問するために作られた器具よ」
蹴られた衝撃で腰が痛んだがそれとは別で首にひどい重みを感じた。
「下を向いたら針が突き刺さるから」
先ほど、一瞬見たそれは、首に装着する器具で、首側から顎の方に向かって針が伸びている。ひんやりとした鉄の感触と匂い。目線は斜め上四十五度くらいのまま。
黒服がクスクス笑う。悔しい。この人たちは犯罪被害者や遺族なのではないか。ならば苦しみや悲しみ、人の心の痛みがわかるのではないか。愕然とする真心だが、声を出すこともできない。
ドラマだったらこういう時にヒーローが駆けつけてくれるのだろうか。ああ、首の筋肉が硬直して辛い。真心はこんな狂った島を早く去るべきだったと後悔した。その時、ふと思った。そうだ、仙台が調理場で働いているはずだ。仙台が助けを呼んでくれるのではないか。
仙台さん! お願い、気づいて。お願い!
しかし、調理場の方からは一切音がしないことに気づく。仙台はどこにいるのか。
どうしようもない不安と恐怖と絶望感。こんな島、早く立ち去ればよかった。