結局。バクが目を覚ますまで、運び込まれてから二日を要した。
それでも、バロンとシンには驚異的な回復のように見えたようだ。
「たいしたもんだな。あんなに治らなかったのに」
「やっぱり召使さんの回復魔法はよく効くんですね」
二人は感心していた。
私の回復魔法が相変わらず著効だった。それ自体はよいことだろう。
だが――。
「あなたが大怪我をしたのは、私が余計な話をしたことが原因でしょう。申し訳ありませんでした」
運び込まれた翌々日。
回復魔法をかけている最中にバクの意識が戻ったため、私は状況を説明し終わるとすぐに謝罪した。
膝枕をしながらの謝罪は誠意に欠ける行為だとは思いつつも、一刻も早く意を伝えておきたかった。
彼は優しい。本当のところがどうであれ、きっと私のせいにはしないだろう。
それはわかっていた。しかしそれでも言わなければならなかった。
「いやいやいや! そんなわけないでしょ? 俺が弱いからだって」
やはり、そうだった。
そして私は不安になった。
すなわち、私が気にしているとわかれば、彼は私が気にしなくてすむように、もっと頑張ろうとしてしまうのではないか、と。
その後――。
バクは、さらに厳しい訓練に没頭するようになった。
それは彼の部下から「まるで何かに憑かれたかのよう」と心配の声があがるほどであり、回復魔法を私の部屋に受けに来たときには歩き方も怪しいほどフラフラになっていることもあった。
以前バロンに言われて作るようになったという休憩日についても、どうやら撤廃してしまっているようである。
やはり不安は的中した。非常にまずい。
「この前の爬虫人とは違うんだけど、なんかまた強いのが現れてさ。次も会うかもしれないから頑張らないと」
バクはそう意気込む。
が、その新たな敵というのがこの前の爬虫人・フィルーズ級の強さであるのだとしたら、バクが必死に訓練をしても上回れる可能性がきわめて低い。残酷だが、どんな分野でも努力だけではどうにもならない部分があるように思う。
それどころか、戦う前に訓練で壊れてしまったり、今回の失点を取り返そうとますます無理をして、次戦で最悪の事態となってしまったり……ということも考えられる。
どうしたものか。
完全に悪い循環に入ってしまっているのに、それを食い止めるすべを私は知らない。
そしてもう一つ、問題があった。
『英雄バクの敗北』――この事実が、人間族のみならず、この世界の全知的生物にとって重要な意味を持つであろうことである。
現在激しい戦いを繰り広げている爬虫人族やオーク族はもちろん、東の虎人族や、その他の少数種族にとっても同じであろう。
当然、我々狼人族にとっても、きわめて重要な情報ということになってしまう。
ここ最近、私は意図的に族長との交信を避けていた。だがこの件ばかりは、いかなる事情があろうとも、密偵として直ちに報告せねばならない義務があると思われた。
こんなに気が進まない交信は過去になかったのではないか?
そう思いながらも、当番の者以外が寝静まった夜、自室のクローゼットに左腕を突っ込み、族長へ連絡を取った。
「ほう、英雄バクが敗れたか。それは朗報だ」
他者の不幸を堂々と喜ぶのが狼人族の矜持でしたでしょうか?
部屋の隅で熟睡しているペンギンのいびきがちょうど聞こえてこなければ、本当にそう言ってしまうところだった。危なかった。
「常勝の英雄が敗退したという事実だけでも、多少の時間は稼げるだろう。私はもう動き始めているが……お前も早めに
「……」
「お前のことだ。よもやということはないとは思うが。頼んだぞ」
念を押された。
これもまずい。