死に戻りを果たしたライラは、それから数日間、徹底してシャーリーの動向を探った。
「シャーリーちゃん仕事にはもう慣れた?」
「
「はい! まだ全然慣れませんけど、同僚のルイディナさんが色々と教えてくれるのでとても助かっています!!」
「それにしてもなんでこんなに若い子とルイディナだけが、あの素性が分からないお嬢様のお世話をしているのかねー。シャーリーちゃんは何か知ってるかい?」
「いえ、特に……。でもとってもいい人ですよ!!」
「そうかい。それなら良かったよ」
彼女は表面上、いつも通りだった。侍女として忠実に仕事をこなし、ライラの身の回りの世話をしながら、他の侍女たちとも和やかに談笑する。特に怪しい素振りはみせなかった。
しかし、ライラには分かる。
(やっぱり、シャーリーは私を監視している)
あからさまではないが、彼女は常にライラの行動を把握しようとしていた。どこへ行くのか、誰と会話をしているのか、どんな様子なのか――さりげなく探るような視線を、ライラは何度も感じた。
殆どのメイドや執事、給仕達はライラが誰だか分かっていない。上流階級に仕えていた者達であったら、彼女に気付いていたかもしれないが、ここに集めているのはそういった経験がない者達だけだからだ。
(たぶん私の知らない所で護衛の人に、行き先を聞いてたりしてるのかも)
離宮内では、数名の護衛兼監視のもとで自由に過ごすことが許されている。しかし、それ以外の場所には、庭園散策を除いてミルネシアが同行しなければ敷地外に出ることはできなかった。
問題は、自分を殺した毒の出所だ。
それを暴かなければ、何度査問会に臨んでも、結局は毒によって命を落とすことになる。
(……もうすでに私は毒に侵されている?)
そう考えると、じわりと冷たい汗がにじむ。毒が遅効性のものなのか、それとも何かと組み合わさることで初めて効果を発揮するのか――今のライラには分からない。
可能性を探るしかなかった。
現時点で、最も疑わしいのは査問会の直前にシャーリーが用意した"特製のミルクティー"だ。普段よりもはるかに甘く、妙に舌に残る味がした。あの中に何か仕込まれていたと考えるのが妥当だろう。
しかし、離宮内の飲食物はすべて、ミルネシアが住まう本殿から届けられる。警戒が厳重になった今、毒が流れ込むルートはさらに限られるはずだ。
侍女の私物も厳しくチェックされ、この離宮だけでなく、宮殿に入る者達全員に毎回ボディーチェックが行われる。
王族が二人も帝国の強襲によって命を落とし、近衛騎士団の警備がこれまでになく厳しくなった今、いったいどうやって毒物を搬入し、ライラに盛ることができたのか。
その方法を突き止めなければ、何度繰り返しても結果は変わらない。
そして――宮殿内の管理・警備体制の指揮を一手に担う人物がいる。
ライラはそっと息をのんだ。
「……怖いけど、あの人に聞くしかないよね」
震えそうになる指先を握りしめ、彼女は決意を固めた。
「レオン・アルバート様のもとへ」
彼女はまだ知らなかった。――この選択が、三度目の死への道に繋がる扉を開いたということに。