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第27話 本命は二発目、とっておきのを見せてやる!

かわされたか!)


 素早く抱球の構えに戻り、二発目の氣彈を作り出していた寧人は、口惜し気に心の中で呟く。

 出せる最高速度で放った氣彈を、余裕で回避されてしまったのは口惜しいが、そんなのは毎度のことなので、寧人としては気にしていられない。


(本命は二発目、とっておきのを見せてやる!)


 寧人は氣彈に仙術で細工をした上で、勢いよく氣彈を放つ。

 地を駆けて急接近して来るヘルガに向かって、今度も白く光り輝く氣彈は、直線的に飛んでいく。


 ヘルガは二発目を、今度は右側に跳び退いて、回避しようとする。

 今回も簡単に、ヘルガは氣彈を回避したかに見えた。


 だが、今回は前回とは、氣彈の性質が違った。


ばく!」


 氣彈がヘルガを通り過ぎた直後、寧人が鋭い声を発すると、二発目の氣彈は爆発。

 白い氣の光を周囲に撒き散らしながら、花火のように周囲に飛び散り、耳を劈く爆音が響き渡る。


 爆発が引き起こした強烈な氣風が、一気に周囲に広がることになる。

 氣彈の直撃程ではないにしろ、氣彈の爆発が引き起こす氣の暴風による攻撃には、それなりの威力がある。


 氣彈の爆発による有効攻撃範囲は、半径にして二十メートル強。

 この有効攻撃範囲に捉えられていたら、ある程度のダメージを、ヘルガは負っていただろう。


 寧人が放ったのは、通常の氣彈ではない。

 爆氣彈ばくきだんという、爆弾のように爆発し、広範囲を攻撃できる、特殊な氣彈だったのだ。


 氣砲の氣彈や氣風には、炎や雷……氷などの属性を、武術で付与することもできるが、特殊な性質を仙術で付与することもできる。

 寧人が使った爆氣彈は、基本的には武術の技である氣砲の氣彈に、仙術で特殊な性質を仕込んだものなのだ。


 術者の口から、「爆」という仙術における呪文である、咒語じゅごが発せられると、爆発する性質が、爆氣彈には付与されている。

 爆氣彈を放つ氣砲の中では基本的な技である爆氣砲ばくきほうを、寧人は隠し技として、密かに練習し習得していた。


 爆氣彈を放つ爆氣砲という技は知っていても、寧人が使えることを、ヘルガは知らない筈。

 寧人にとって爆氣砲は、ヘルガ相手の散打における、とっておきの隠し技だったのである。


(これなら、どうだ?)


 寧人は狙い通りのタイミングで、爆氣彈を爆発させるのに成功した。

 爆発により飛び散った光は、確かにヘルガを捉えたように、寧人には見えていた。


 実際、爆発に巻き込まれてはいたのだが、ヘルガは数メートル、右斜め前に吹っ飛ばされただけであった。

 すぐさまヘルガは体勢を立て直し、寧人に向かって突進を開始。


 突進を開始しているヘルガの身体は、仄かに白く光っている。


(げ? 硬身功こうしんこうに切り替えられてる! こりゃ、下手すりゃノーダメージじゃねぇか!)


 硬身功を発動すると、身体が仄かに白く光る。

 故に、先程まで光っていなかったヘルガの身体が、仄かに光っていたので、寧人は硬身功の使用に気付いたのである。


 寧人の爆氣砲の場合、爆発が引き起こした氣風程度では、硬身功で身を護るヘルガに、ダメージを与えることはできない。

 ヘルガは全く、ダメージを負っていないのである。


 爆氣弾がヘルガを通り過ぎた直後に、寧人は爆氣彈を起爆していた。

 故に、ヘルガは爆発を見た上で、対処した訳ではない。


 つまり、ヘルガは寧人が爆氣彈を使うのを読んで、いつの間にか防御手段を、氣膜から硬身功に切り替えていたのだ。


(何で読まれた? 爆氣砲のことは、知られてない筈なのに!)


 とっておきの秘策が通じず、焦る寧人との間合いを、ヘルガは一瞬で詰めてしまう。

 硬身功から輕身功に內功を切り替えたが故の、素早い移動だ。


(やばい、どうすりゃいいんだ?)


 どう対処すべきなのか、寧人は焦って思考を巡らす。

 焦りながら考えたせいで、身体の動きが鈍り、寧人は対処行動が遅れてしまう。


 その隙を見逃さず、ヘルガは攻撃を仕掛ける。

 残像のせいで、腕や手の数が十数倍に増えて見える程の速さで、ヘルガは続けざまに、拳で打つ拳法(けんぽう)や、掌で打つ掌法(しょうほう)を放つ。


 速いだけでなく、一発の威力は強力。

 ヘルガは輕身功から硬身功に內功を切り替え、剛力を得た上で、打撃技の威力を引き上げているのである。


 寧人は手足を使い、上手く身体を動かし、ヘルガの打撃技を受け流そうとする。

 攻撃を受け流して逸らし、無効化したりダメージを軽減する化勁かけいという防御技を、寧人は使っているのだ。


 速くて手数の多い、ヘルガの連続打撃技を、回避するのは難しい。

 それ故、化勁を使って、攻撃の威力を殺ごうとしているのである。


 寧人は硬身功を使っているが、同じく硬身功を使っている、ヘルガの打撃技は強力。

 化勁で攻撃を逸らし損ない、まともに食らってしまえば、大ダメージを受けてしまう。


 回避と化勁を行うだけで、寧人は文字通り手一杯の状態。

 反撃を行ったり、その場から逃げる余裕は、寧人にはない。


 だが、鋭くて速いヘルガの連撃を、いつまでも躱し……受け流し切れるものではない。

 受け流し切れなかったヘルガの打撃を数発、両腕を盾にして防御し、寧人は腕で受ける羽目になる。


 盾にした両腕は、激痛で痺れる。

 硬身功で身を守っている間は、身体が損傷することはないのだが、痛みは覚えてしまうのだ。


(やばい! どうする?)


 寧人は自問するが、打開策は思い浮かばない。

 そして、ヘルガの近接攻撃を、ほんの十数秒間、受け続けている内に、寧人の身体の動きは、急に鈍り始め……風が止まった時の風車のように、動きが止まってしまう。




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