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第35話 寧人……楽しませて

 ジーナも正義感は強いのだが、人当たりはいいし、口も上手いので、トラブルを回避する能力が高い。

 故に、商売などの外部との交渉事に、ジーナは向いているのである。


 だが、ジーナに関して、寧人が最も意外だったのは、性的な事柄についてであった。


「明日のことが気になって、眠れないなら……気が紛れることした方が、いいんじゃない?」


 悪戯っぽい目で、ジーナは問いかける。


「気が紛れることって?」


「……分かってる癖に」


 そう囁くと、ジーナは寧人を抱き締め、顔を寄せる。

 艶っぽい印象には似合わない、不慣れさを感じさせる動きで、ジーナは寧人の唇を奪う。


 超人詛咒のせいで、寧人は性的な関係を、言葉や態度で求められると、逆らうことができない。

 故に、寧人はジーナの求めに応じて、口付けを素直に受け入れる。


 寧人はジーナに対する性的欲望が、身体の奥底から湧き上がるのを感じる。

 ジーナ程の美人に抱き締められ、キスをされたのなら、年頃の男性である寧人としては、自然な反応といえる。


 弾から陰陽寶珠と共に受け継いだ呪いが、超人詛咒という名称だと、日本にいる頃には、寧人は知らなかった。

 ただ、そんな感じの呪いを受け継いでいるらしいことは、母親から聞かされていた。


 寧人と基本的には、同じ超人詛咒であった弾も、女性の誘いを断れなかった。

 おまけに寧人と同様、かなり女性には好かれるタイプであった。


 そのせいで、弾の浮気を原因とした祖母とのトラブルは、凄まじい数であったらしく、母親もかなり苦労したらしい。

 弾は浮気を責められた際、超人詛咒という言葉は使わなかったが、陰陽寶珠の呪いのことを口にしていたので、陰陽寶珠を受け継ぐ者の呪いのことを、寧人の母親は知っていたのだ。


 思春期を迎え、女性の誘いを断れず、トラブルを起こしてしまうようになった頃、弾から陰陽寶珠と共に受け継いだ呪いについてのことを、寧人は母親に教えられた。

 それ故、名前は知らないが、自分が女性の誘いを断れない呪いを、弾から受け継いだことを、寧人は知っていた。


 基本的には真面目な寧人は、この呪いには苦しめられ続けていた。

 女性受けしない者であれば、発動することがない呪いだったのだが、寧人の場合は頻繁に発動する機会が訪れる程度に、女性に受けるタイプだったので。


 彼女がいる時に、他の女性から受けるアプローチを断れない時や、関係を持つべきではない相手に求められ、関係してしまった時などは、酷い罪悪感に苛まれたものだった。

 実際に恋愛関係などの人間関係が、そのせいで壊れてしまうことも、寧人は何度か経験していた。


 でも、今は彼女がいる訳でもないので、罪悪感を覚える必要はないし、ジーナとの関係は、夢琪の許可も得ているので、人間関係の方も問題はないだろうと、寧人は思っている。

 むしろ、世話になりっ放しのジーナに楽しんで貰えるなら、超人詛咒などなくとも、求めに応じていただろうと寧人は思う。


 レヴァナントであるジーナは、性的な意味では、人間の男を相手にできない。

 相手となった男が死んでしまう上、ジーナ本人も身体がトラブルを起こしてしまうので。


 だが、仙人の男性であれば、レヴァナントの相手をしても、何の問題もない。

 最終戦争後、初めて現れた男性の仙人である寧人は、夢琪の言う「レヴァナントになって初めて出会った、相手にしても死なない男」なのだ。


 見た目からは信じ難いことなのだが、性的な意味合いにおいて、ジーナは寧人と出会うまで、男性と無縁で生きてきた。

 生前は宗教上の理由で、レヴァナントとなった後は、レヴァナントであるが故に。


 無縁で生きてきたのだが、男性に対する性的な好奇心や欲望が、ジーナになかった訳ではなく、抑え込んでいただけなのだ。

 そんなジーナは、寧人と出会って親しくなっていくにつれ、好奇心と欲望を抑えられなくなってしまった。


 その結果、とうとう一週間前に、ジーナは超人詛咒を利用して、寧人と関係を持つようになったのである。

 寧人に今現在、交際相手や恋愛相手がいないのを、ちゃんと確認した上で。


 普通の男を相手に出来ない境遇を、寧人はジーナに聞かされていた。

 それに、ジーナには色々と世話になり、感謝もしていたので、超人詛咒を利用したことについて、ジーナを責める気にはなれなかった。


 寧人とジーナは、関係を持ってしまったことについて、それとなく夢琪に伝え、問題がないかどうかを確認した。

 夢琪は二人に、問題がないどころか、むしろ好ましいという意味合いの答を返した。


 夢琪の調査の結果、寧人の超人詛咒の暴走は、かなり厄介なものであることが分かった。

 そして、超人詛咒の暴走を避けるには、適度に超人詛咒を発動させた方がいいことは、元から分かっていた。


 故に、ジーナが寧人の超人詛咒を発動させたのは、暴走を避ける為になるので、夢琪は好ましいと判断したのだ。

 更に、なるべく多くの女性と、頻繁に関係を持つくらいの方が、より暴走の可能性を抑えられることも、夢琪の調査で判明した。


 そういった訳で、寧人とジーナが関係を持つのは、超人詛咒の暴走を抑える為になるので、好きにしていいと、夢琪は二人に言った。

 無論、寧人の為だけでなく、これまで男性と経験できなかったジーナ自身の為にも、夢琪は寧人との関係を勧めたのだ。


 他の女性達が寧人と関係することも、止めない方がいいと、夢琪はジーナに教えた。

 なるべく多くの女性と関係を持った方が、寧人の超人詛咒を抑えるのに有効だと判明したのが、その理由であり、ジーナも了承した。


 夢琪が止めるどころか、寧人と関係を持つことを勧めたので、関係を持った夜から、ほぼ毎晩のように、ジーナは寧人とベッドを共にするようになってしまっていた。

 長年に渡って抑え込んでいた、男性との性行為への興味と欲望を、ジーナは寧人相手に、解き放ったのである。


 濃密なキスを楽しんでから、ジーナは唇を離す。

 初心な少女のように頬を染め、期待に瞳を輝かせながら、ジーナは唾液に濡れた唇で、恥ずかし気に言葉を漏らす。


「寧人……楽しませて」


 ジーナの言葉を切っ掛けに、修業とは別の意味で、寧人は汗に塗れるような行為を、ジーナと共にすることになる。

 そして、行為が終わった後、十分に満足したジーナは、すぐに寧人の隣で寝入ってしまう。


 少しだけ遅れて、寧人も心地よい疲労感を覚えながら、寝息を立て始める。

 異世界で過ごす、寧人の夏の夜は、静かに更けていく。



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